蒼炎の勇者がダンジョンにいるのは間違っているだろうか 作:クッペ
だが最もハーメルンで分からないことが一つ、
「UAって何ですか?」
誰か教えて下さいこれじゃあ気になって夜しか眠れません
ガチャリという聞きなれない音を聞き、ベルは目を覚ます。起きた際に少し身じろぎするが、何やら身体の自由がほとんど聞かず腕を動かそうにも後ろ手に結ばれた銀の鎖がその動きを阻害する。
「ゲゲゲゲゲ、やっと目覚めたかぁい?」
「貴方は、さっきの……!」
「後ろのガキはまだ目を覚まさないようだねぇ。全く、貧弱すぎる」
ベルは動き辛い身体を必死に動かし首を後ろに向ける。そこには青い髪をした青年、アイクが今だにに意識を戻さないまま地面に座らされていた。
「アイクさん!?」
「そっちのガキはアイクっていうのかい?ゲゲゲゲ、彼の勇者の名前と同じなくせに貧弱じゃないか」
ゲゲゲゲゲと不愉快な笑いをし続ける目の前のアマゾネス。
フリュネ・ジャミール、『イシュタル・ファミリア』のレベル5の冒険者だ。
「ここは……?」
「ここはアタイの愛の部屋でねぇ」
舌を出し自分の口元をべろりと嘗め回す。その行動にベルは本能的な恐怖を覚えた。
「『ダイダロス通り』に隣接してる影響さぁ。ホームの地下にはこんな秘密の部屋と通路がある。アタイはここに気に入った男を運んでいるのさぁ。ここはあの不細工共も、イシュタル様ですら知らないよぉ」
後ろで何かが動いた気がする。後ろにいるアイクはいまだ目を覚ましていないはずなのだが。
「誰かの残飯なんてまっぴらごめんだよぉ。喰うなら一番最初、うまいところも全部独り占めぇ。そうだろぉ?」
「ひ、ひいいいいいいいいいいーーー!!!」
みっともなく後退りし、フリュネから距離を取ろうとするベル。しかし一緒に繋がれているアイクが全く動かないので足を動かして距離を取ろうとするだけの抵抗に止まった。
ならばと思いガシャガシャと拘束されている鎖を破壊しようと手を動かす。
「無駄だよぉ、その鎖は『ミスリル』製。何重にも巻かれれば上級冒険者でも簡単には壊せない」
四つ這いになりながらこちらにジリジリと近寄ってくる。そして舌を出しベルの頬をべろりと嘗める。
「あぁ、美味そうだなぁ」
ベルは比喩抜きで昇天されそうになる。フリュネはベルの足元を見るとため息を付いた。
「はぁ、これだからガキは……仕方がない、精力剤を持ってくるか」
小さな声で呟き立ち上がる。出口の方へと歩いて行き扉を開けるとこちらを振り返った。
「待ってな、すぐに盛った兎みたいにしてやる。可愛がってやるからなぁ」
扉を閉め姿を消すフリュネ。足音が遠ざかりベルは即座に行動に移ろうとした。
「に、ににににに逃げなくちゃ……!」
「少し落ち着け」
「……え?」
後ろを振り返るとアイクがいつの間にか目を覚ましていた。恨みがましい視線と共にアイクを睨みつけるベル。
「アイクさん……いつから起きていたんですか?」
「お前たちが話し始めたときからだ。だがあそこで俺が起きたところで何も事態は好転しなかっただろうし、あんな化物みたいな奴の相手などしたくなかったからな」
基本的に誰とでも普通に話せるアイクだが、流石にあれは自分の範囲外だったようだ。それだけあのアマゾネスが強烈だということでもある。
「あの人の相手を僕一人に押し付けないで下さいよ!」
「すまなかったな、だが少し落ち着け。他の皆はどうした?そこで起きていたのはどうやら命だけのようだったが」
「分かりません、ワユさんも倒れていましたし……あれは一体何だったんでしょうか?」
「大方睡眠薬か何かだろう。冒険者ではない俺とワユにはあれを防ぐ手段はない。それよりもじっとしていろ」
アイクは腕に力を込め、何重にもまかれた『ミスリル』製の鎖を引き千切った。
アイクは立ち上がり肩をグルグルと回し、自分の身体にどこか異常がないか確かめている。
「ここから逃げるぞベル。いつまでもここに燻っていると、さっきのやつが戻って――」
キィと扉が開く音が聞こえ、反射的に背中の剣の柄に手をかけ扉の方を睨みつけるアイク。ベルも黒いナイフを抜こうと腕のプロテクターに手をやるが、ナイフは無かったらしくいつでも魔法を発動できるように腕を扉の方へと掲げる。
しかし入って来たのはフリュネではなく金色の髪の狐人の少女だった。手には鍵をジャラジャラとぶら下げていた。
「クラネルさん、大丈夫……そうですね」
「は、春姫さん?」
「はい、実は私フリュネさんがここに来るのを見かけたことがあって。フリュネさんからは誰にも話すなと口止めされていたのですが……」
「話は後だ、ここから脱出するぞ」
「えっと、貴方は……?」
「それも後でいいか?あいつが戻ってくると少々面倒なことになる」
そして部屋にいた三人は辺りを警戒しながら部屋を後にする。のちにフリュネが部屋に戻ってきた際に大声を上げたことは言うまでもない。
* * * * * * * * * *
外に出るための道をアイクを先頭に三人は歩いていた。時折アイクが春姫に道を尋ねながら、周囲の警戒を怠らずに歩みを進めていた。
「あの、春姫さん……」
「何ですか、クラネル様?」
「本当によかったんですか?僕たちが逃げるための手助けなんてして。本来あの人がいなければ手錠の鍵だって春姫さんが解錠してくれたのでしょう?」
「まあそのつもりでしたが……あれだけの『ミスリル』製の鎖を引き千切るなんて、あの人は一体何者なのでしょうか?」
「あ、あはは……」
アイクは春姫からの尋ねに対して自分の名前を名乗らなかった。名前を名乗るだけならすぐに済むことなのだが、教えていないということは教えたくないということなのだろうとベルは解釈した。
実際は今までの流れ的に騒ぎになって時間の無駄になることが分かっているからなのだが。
「それにこれは私の最後の我儘です。アイシャさんたちも大目に見てくれるはずです」
春姫は儚げに微笑みながらベルにそう伝える。アイシャと言うのは春姫が『イシュタル・ファミリア』に来てから身の回りの世話をしていた者だ。
「……春姫さん、僕と初めて会った時のことを覚えていますか?」
「クラネル様と初めて会った時のことですか……?はい、英雄譚が大好きだという話、あの時はとても楽しかったですから」
「その時院僕たちが一番好きだった物語が何かと言うのも覚えていますよね?」
「勿論でございます、『暁の女神』。蒼炎の勇者アイク様が世界を救うお話、あのお話は何度も聞いて、読んで、覚えています……」
「春姫さん、僕は貴女を『身請け』しようと思っていたんです」
「っ!?」
「でも、僕よりもあなたを助けるのに相応しい方がいるって言ったら、あなたはどうしますか?」
「それって、どういう――」
春姫の返答を待たずに前を歩いているアイクに小走りで近付くベル。アイクの耳元で口元を隠しながらぼそぼそと話している。ベルが話し終えるとアイクは少し逡巡するものの指を五本立てて首を縦に振った。
ベルはぎこちなく首を縦に振ると春姫の方へと歩み寄って来た。前を歩いているアイクも足を止め、後ろを振り返っている。
春姫はベルと青年の一連の流れに疑問しか覚えていない。
「春姫さん、あの方があなたを必ず救ってくれます」
「えっと……クラネル様?」
「あんた、いくつか聞いていいか?」
突然アイクに話しかけられた春姫はビクッ!としながらもその問いに答える。
「は、はい……何でしょうか?」
「あんたはここから逃げたいか?」
「……どういう意味でしょうか?」
「『イシュタル・ファミリア』の言いなりとして、あんたはずっと娼婦をし続けたいのか?それとも、誰かにここから連れ去ってほしいのか?」
「……私はどっちにしろ今日までの命です。満月の夜、今夜、私の魂は……」
突然の告白にベルは目を見開く。悠長なことをしている場合ではないと悟ったのだ。
「本当に、それでいいのか?あんたは自分が死ねばすべて丸く収まるとでも思っているのか?」
だがアイクは眉一つ動かさず、問答を続けている。
「俺は『イシュタル・ファミリア』が何をしたいのかは知らないし、あんたの魔法だかスキルだかも全く知らない。あんたの命が今日までということもたった今知った。それを踏まえてもう一度聞く。俺があんたを助けられるとしたら、あんたは俺に助けを求めるか」
――生き続けたいか、今日でその命を散らしたいか、好きな方を選べ、と。
春姫は思わず目を見開く。目の前にいる青年が何者なのかは知らないが、初めて会った自分を、卑しい自分を、自分がそう望めば助けてくれるかもしれないというのだ。
「……生きたい……私はまだ、生きたいです……」
「……」
「こんな私でも、卑しい私を助けて下さるんですか……?」
「お前が、心からそう望むのならば手を貸そう。幸い報酬は既に目処が着いているからな」
そう言ってアイクはベルに視線を向ける。ベルは少々苦笑いしているがつまりはそう言うことなのだろう。
「……お願いします……!私を、春姫を、助けて下さい!」
「その依頼、承ろう。あんた、名前は?」
「春姫……サンジョウノ・春姫と申します」
「俺はアイク。あんたらが『蒼炎の勇者』だ何だと持て囃しているお伽噺の主人公、なんだろう?」
最後の一言はベルに向けて放たれた一言だ。ベルは自信を持って頷く。春姫はあり得ない邂逅に口を押え、目を見開き、驚きを隠せずにいた。
なんかこのままだとヒロインに春姫追加されるんじゃないか?って気がしてきたぞ……?
なんかもうタグが仕事してなさ過ぎて辛いんですけど……これがその場のテンションで書いている小説の弊害なのか……