蒼炎の勇者がダンジョンにいるのは間違っているだろうか 作:クッペ
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『イシュタル・ファミリア』の本拠へと乗り込んだワユ、命、ベルの三人。臨戦態勢を解かないまま本拠を歩き続けるが、いまだに誰とも交戦を起こしていない。
儀式が行われるという場所に戦力を集中させているか、歓楽街全体に戦闘員を展開させ他の妨害を警戒しているか、あるいはその両方かだ。
「命、ベル。これって不自然過ぎじゃない?」
「ええ、ここまで誰とも会わないとなると逆に不安になります」
「『イシュタル・ファミリア』の規模ってそれなりの大きさですよね?これだけの大きさの町一つを牛耳っているわけですし……」
「あたしたちを警戒するに値していないか、或いはあたしたちがまだ捕まっていると思っているか……」
「『イシュタル・ファミリア』はこの間の『戦争遊戯』を見なかったのでしょうか?見ていたなら少なくともワユ殿は警戒の対象になるでしょうし……」
「アイクさんの存在ってオラリオに広まっていませんよね?知っている人たちは所属ファミリアと僕たちだけ、ですよね?」
「誰も吹聴していなければ。アイク殿とベル殿は同時に捕えられていましたし、『ミスリル』製の鎖を幾重にも巻かれ碌に行動できない状態にされていたのですよね?」
「はい、アイクさんが引き千切りましたが……」
「いや、それでもおかしい……儀式の現場に春姫がいないのにどうやって儀式をするの?春姫があたしたちを救出しに来たこと、というよりも抜け出したことは流石に知られてるでしょ?あのデカブツがその手の報告を怠っていたとしても」
三人は話し合いながらも本拠を進んでいく。少しづつ歓楽街が喧噪に包まれていく気配も感じているが、今は目先のことに集中するしかない。
上へと上がっていく階段を見つけては登って行き、やがて最上階の空中庭園へと到着する。そこには一つの『石』を奉られており、それを守護するかのようにアマゾネスたちが取り囲んでいた。
「おや、お客人かい?悪いけど、今は営業時間外なんだ。回れ右して今日は帰ってくれないかい?」
アマゾネスとは別の、褐色肌の女性がワユたちを見据え言い放つ。ワユはその発言を聞き流し『倭刀』を抜いてアマゾネスたちの方へと切っ先を向ける。
「ねぇお姉さんたち、そこにある石が『殺生石』ってやつ?」
「へぇ……嬢ちゃん、この石を知っているのかい?と言うか門番はどうしたんだい?」
「今頃下で伸びているか、あたしたちの侵入を許したっていう報告をしに向かってるかじゃない?で、お姉さんは誰?」
「私はイシュタル。この歓楽街を取り仕切ってる『イシュタル・ファミリア』の主神だよ」
「じゃあ話が早いや。イシュタル、その『殺生石』こっちに渡してくれない?お宅の狐人、うちの大将が今預かってるからその石だけあっても意味ないしね」
ワユが発した一言に、イシュタルはその美貌を歪ませる。だがあくまでも冷静を装ってワユとの対話を行う。
「へぇ……うちの春姫を、ねえ」
「なら話が早い、こちらに春姫を渡せ。あの子は今どこにいる?」
「そう言うわけにはいかないんだ。あたしたちの今回の仕事は『殺生石』の破壊、それとそれを妨害してきた『イシュタル・ファミリア』の眷属の足止め、撃退だ」
ワユの後ろに控えていたベルと命がそれぞれ武器を構えている。アマゾネスたちもワユの言葉を切っ掛けに臨戦態勢へと移る。
「あんな低級の睡眠薬で眠らされたあんたが私たちの足止め、撃退……あっはっはっは!とんだ道化もいたもんだ」
「……ベル、命、準備は良い?あたしがあそこにいるアマゾネスたちを相手する。二人で『殺生石』を破壊、即離脱。分かった?」
後ろを軽く振り返りベルと命が頷いたことを確認した。それを確認するや否や、ワユは刀を構えアマゾネスの一団に突貫した。
先頭に立っていたアマゾネスが突貫してきたワユに向けて刀を振り下ろす。ワユは腰に差していたもう一本の剣、エタルドでその刀を受け止め、その衝撃にアマゾネスの持っていた刀は粉々に砕け散る。
「何っ!?お前たち、こいつを何としても取り押さえろ!『殺生石』に近づけさせるな!」
「分かりました、アイシャさん!」
アイシャの指示により、イシュタルの傍に仕えていたアマゾネスたちもワユへと群がり、各々が武器を構えワユへと振り下ろす。
ワユは二本の剣でその攻撃を受け止め、躱し、後退する。踵を返し、来た道を少しずつ振り返りながら戻っていく。
アイシャを含めたアマゾネスたちはワユを追いかけ、イシュタルの傍には二人のアマゾネスが控えている。
「あなた方はワユ殿を追わないのですか?」
「なんだ、追いかけてほしいのか?」
「ええ、あの方が全員相手してくれれば、『殺生石』の破壊は簡単に済みますから」
「神イシュタル、なぜあなたは春姫さんをその石に閉じ込めようとするんですか?」
「教えるとでも思っているのかい?」
「いいえ、でもある程度の予想ならば着きますが。例えば、『神フレイヤへの復習、報復』とかでしょうか?」
イシュタルに挑発的な視線を向ける命、命が出した答えにイシュタルの表情は驚愕に染まる。それでは答えを言っているようなものだ。
「鎌をかけたつもりでしたが、予想よりも早く真相に辿りついてしまったようですね……そんなことのために春姫殿を利用しようだなんて、絶対に許しません!」
「行きなお前たち、あの生意気なガキと小娘を叩きのめしてやりな!」
その言葉を切っ掛けに、イシュタルの傍に控えていた二人のアマゾネスがベルと命に肉薄してくる。その隙にイシュタルはテラスから抜け出してしまった。
「待て、神イシュタル!」
「よそ見している場合?」
「ッ――!」
一人のアマゾネスが命に向けて曲刀を振り回す、命は己の刀でそれを受け止め懐に忍ばせていた短剣を抜き、空いた手で振りぬく。咄嗟に刀を引きバックステップで距離を取るアマゾネス。
するとベルと戦っていたアマゾネスの方が手甲を装着した拳で短剣を振りぬいた命の懐目がけて拳を振るう。回避できずに命は地面を転がされた。思わぬ衝撃に命は咳き込む。
「命さん!?」
「だ、大丈夫です……!」
二人のアマゾネスが倒れこんでいる命に向かって突貫する。慌てて命とアマゾネスの間に入り、右手に持ったナイフで手甲が付けられた拳を、開いた左手で命の刀を取りその攻撃も受け止める。刀を引き、急に惹かれて前のめりに倒れてくるアマゾネスに足刀を繰り出す。受け身を取りながら転がり四つ這いになりながら地面を引き摺り急停止する。
片方のアマゾネスが吹き飛ばされ、もう片方は吹き飛ばされたアマゾネスの所まで下がる。
「助かりました、ベル殿……」
「いえ、それよりも、どうしますか……?刀を持っている方はレベル2だとしても、手甲持ちの方は恐らくレベル3です」
「……無茶なお願いをしてよろしいですか、ベル殿?」
「何ですか……?」
「私が『殺生石』を破壊します。その時間を稼いで欲しいのです……二人を相手取って私を二人の意識から逸らして下さいますか……?合図をしたらテラスから飛び降りて下さい、その刀はお貸しします」
「……分かりました、無茶はしないでくださいね?」
「……それは、聞きかねるかもしれませんね」
ベルが二人のアマゾネスに突貫する。ただしベルの方からは攻撃を仕掛けず、相手の攻撃を捌くことに集中している。
「【掛けまくも、畏き――】」
命は自分の身体を抱きながら魔法の詠唱を開始する。それに気が付いた片方のアマゾネスが命の魔法の詠唱を止めようとするが、ベルが間に入り命への接近を許さない。
「【いかなるものも打ち破る、我が武神よ――】」
刀を持ったアマゾネスが命に向けて刀を投擲する。咄嗟にベルもその刀目掛けて命の刀を投擲、見事命中させその刀を弾き、空いた左手で手ぶらのアマゾネスを殴りつける。
「【尊き天よりの導きよ、卑小のこの身に巍然たる御身の神力を】!」
その一言を切っ掛けに、今まで練り上げてきた魔力を暴走させる。魔法を放つには多大な精神の集中が必要だ。そして集中を欠いた、或いは意図的に暴走した魔力はその場で大爆発を起こす。
ヴェルフの『ウィル・オ・ウィスプ』は意図的に相手の練り上げた魔力を暴走させる魔法で、その効果は相手の魔力暴発を引き起こし、爆発を起こしてダメージを与えること。
つまり命はこの場で魔力暴発を引き起こし、その爆発でアマゾネス両名を戦闘不能、及び『殺生石』の破壊を目論んでいるということだ。
「命さん!」
「ベル殿!早くこの場から離脱を……!」
命の方を案じたベルを一括し、伝えた通りベルにその場から離脱することを伝えさせる。ベルは躊躇しながらも空中庭園から地上へと飛び降りた。かなりの高さがあるが、『神の恩恵』を貰っている冒険者ならば問題ない。
ベルを相手取っていたアマゾネスたちが命の方へと走ってくるが、もう遅い。
「【救え、浄化の光】!」
その言葉を最後に、魔力暴発を引き起こし空中庭園で大きな爆炎が上がる。その爆発にアマゾネスの二人は吹き飛ばされ、『殺生石』は粉々に砕け、その爆発に命諸共吹き飛ばされてしまい、命の身体は宙を舞っていた。
『殺生石』へと蓄えられていたエネルギーは紅き光の残滓となって空高く放たれた。
そして命が意識を失う直前、歓楽街から爆音が響く音を聞いた気がした。
* * * * * * * * * *
命とベルが『殺生石』を破壊するための戦いをしていたころ、アイクはフリュネと戦っていた。アイクはフリュネの攻撃を受け止め、いなし、躱し、アイクからは一切の反撃をしていない。
「どうしたんだい?反撃してこないのかい?」
斧を振り回しながら、アイクが反撃をしてこないことを訝しんでいるフリュネはアイクに向けて問いかけた。アイクとしてはここでフリュネを倒す理由はないため、ベルたちが『殺生石』を破壊し終えるまでここでフリュネの足止めができれば充分だと判断していた。
「ここでお前を倒す理由はない、潔く春姫を諦めるというのならばここでお前を見逃してやってもいい」
「ハッ!アタイに傷一つ付けられないが気が大きく出たね!」
「お前こそ俺に一撃も与えられないで随分と大口をたたくんだな。俺は人一人背負いながら戦っているにも拘らず、だ」
「あんまり調子に乗ってるんじゃないよ、クソガキィ!」
フリュネは再び斧を振り下ろす、しかし狙いはアイクではなく左肩に背負っている春姫だ。アイクは春姫の前にラグネルを掲げ斧を受け止める。片手を剣で、もう片方は春姫を担いでいるアイクに向けてフリュネは瞬時に斧を引き体制を変え、回し蹴りを放つ。
アイクも瞬時に剣を引き、剣を掲げながら右腕でフリュネの回し蹴りを受け止め、カウンターで回し蹴りを放つ。
フリュネはそこで反撃をされるとは思わずに脇腹にアイクの回し蹴りが直撃する。全力で放ってはいないとはいえ、フリュネはその場に何とか踏ん張り一転して攻性に移ろうとする。
しかしアイクは体術を放ったところでフリュネから大きく距離を取り、フリュネの様子を窺っていた。
突然、天に赤い光が上っていくのが見えた。方角は『イシュタル・ファミリア』の本拠の方だ。
「春姫、無事か?」
「……へ、あ、は、はい……何とか」
「あの光は何だか分かるか?」
「あれは、恐らくベル様たちが『殺生石』を破壊したものだと思われます。前回アイシャさんが『殺生石』を破壊した際にも同様の光が上がっていました」
「なるほど、これで依頼は殆ど完了だな。後は『イシュタル・ファミリア』の目的を潰せれば満点だが――」
アイクが今後の方針を纏めようとしたところで、歓楽街のいたるところから爆音が鳴り響いた。そして歓楽街の入口の方からは悲鳴が聞こえてくる。
「何が起こっているんだ……」
「せ、『殺生石』が破壊されたのかいぃ?おのれ、おのれええええぇえーーー!」
天に昇っていく光を見たフリュネは八つ当たりと言わんばかりにアイクに向けて斧を振り下ろしてくる。しかしアイクはその斧に向けてラグネルを振るい、斧を破壊する。
「とりあえず『イシュタル・ファミリア』の本拠の方へと向かうぞ。ワユはともかく、命やベルを回収しに行ったほうがいいだろう」
「は、はい!」
アイクはその場から手近な建物へと飛び移り『イシュタル・ファミリア』の本拠へと向かう。途中何やら視線を感じた。その視線はアイクが冒険者登録をしに行ったあと、『リガルソード』の整備を椿に依頼しバベルから出た時の視線と酷似している。
この時点でアイクはこの歓楽街の抗争を引き起こしたのは『フレイヤ・ファミリア』であると確信し、その抗争に巻き込まれないように『イシュタル・ファミリア』の本拠へと急いだ。
そろそろ今期のアニメの最終回が近付いてきましたね
今期は結構面白いの多かったと思います