蒼炎の勇者がダンジョンにいるのは間違っているだろうか 作:クッペ
アイクたちは現在ダンジョンの17階層にいる。17階層にはゴライアスが約二週間周期で生まれ落ちるのだが、今回は運悪くゴライアスがまだどのパーティーにも倒されていなく、ゴライアスは健在だった。
いや、彼らからしたら幸運なのかもしれないが。
「ゴルゥアアアアァァァ―――!」
ゴライアスがアイクたちの姿を見止めると、方向を上げる。最後衛にいた春姫はゴライアスの絶叫に竦み上がってしまっていたが、彼らは全員そんなものなどどこ吹く風という雰囲気だ。
アイクとワユがラグネルとエタルドを地面に叩きつけ剣戟を飛ばし、ゴライアスの腕をそれぞれ切断する。
すかさずアイズが風を纏い突貫し、ゴライアスの両足をそれぞれ切断しゴライアスは仰向けに倒れる。
「レフィーヤ、止め」
「は、はい!」
彼らの戦闘を呆けていたレフィーヤはアイズの指示に応え、魔法の詠唱を始めた。
「【解き放つ一条の光、聖木の弓幹。汝、弓の名手なり。狙撃せよ、妖精の射手。穿て、必中の矢――アルクス・レイ】!」
レフィーヤが余裕を持って魔法を発動し、その魔法がゴライアスの襲い掛かる。四肢を欠損していたゴライアスにその魔法を防ぐ手立ては全くない。レフィーヤの魔法はゴライアスを撃破し、ドロップアイテムと巨大な魔石が転がっていた。
「むぅ……あたしも戦いたかったなあ……」
「そうね、流石にゴライアスもあんなにすぐ倒されるなんて思ってもみなかったでしょうね」
「おーい、春姫、大丈夫?」
「……は!す、すいません……あんな間近でゴライアスを見たのが初めてだったもので……」
「まあアイクやワユにこれから付き合っていこうと思っているなら、あれくらいには慣れておいたほうがいいかもね?」
「ちょっとフィン、あたしを人外みたいに言うの辞めてよ。人外なのは大将だけだって」
「ゴライアスの腕を一撃で落とせる時点でお前も人外だぞ、ワユ」
そもそもここの階層に来るまでの方法も一般の冒険者とは大きく異なる。
ワユを先頭に適当に歩き続け、縦穴があればどこに繋がっているかも、下の階層に敵がいるかどうかも確認せずに飛び込み、飛び込んだ先に敵がいれば即剣を抜き倒す。
ワユ以外のメンバーはその移動方法に呆れているが、一緒に潜っている以上ついて行かない訳にはいかないためともに飛び込まざるを得ない。
「とりあえずいったんこの魔石とドロップアイテムをリヴィラの町で換金して、それからもうちょっと深く――」
『ぎゃあああああーーー!!』
18階層に続く階段から何人かの冒険者が17階層に走って来た。その中にはリヴィラの町で商いをしているものの姿まで確認できた。
「おい、何かあったのか?」
アイクは近くを通りかかった冒険者を一人捕まえて話を聞いた。彼らはアイクたちを見ると一瞬表情が明るくなるが、すぐにその表情は暗くなってしまう。
「あんたらも早く逃げろ!もうリヴィラの町はお終いだ!」
「詳しい話を聞かせろ。判断するのはそれからだ」
「リヴィラの町にいきなり全身鎧を着たやつが現れて、視界に入った奴を手当たり次第に攻撃し始めたんだ。俺たちも反撃したがあいつには一切の攻撃が効きやしねえ……魔法を使おうが、魔剣を使おうが、あの黒鎧にはかすり傷一つ与えられなかったんだよ!」
視線で続けるように促すアイク。身に纏っている雰囲気はモンスターと戦っている時の比にならないほど荒ぶっている。
「あいつが投げた槍が一人の冒険者を串刺しにしやがった……その隙に攻撃を仕掛けようとしたんだが、いつの間にかあいつの手元には槍が戻っていてそれで何人もやられた……もしかしてあんた、あいつに挑もうとしているのか?無茶だ!お前たちの殆どが第一級冒険者だってことは知っているが、あいつはそんな生半可なものじゃ――」
「情報提供感謝する。お前も早くダンジョンから逃げろ、引き留めて悪かったな」
アイクは冒険者の方から手を放し、その冒険者は上の階層へと向かっていく。この場に止まっているメンバーは皆一様にアイクの方を見ている。
「……ワユ、お前は俺に着いて来い。18階層に行くぞ」
「……了解」
「お前たちは全員ダンジョンから出ろ」
「アイク……私も――」
「お前が着いて来て、一体何になる?あいつは一切の攻撃を受け付けない。それはもう説明したはずだ」
「……アイク様、ワユ様。18階層にいる黒鎧は一体何なんですか?」
「ほぼ間違いなく『漆黒の騎士』だ。御丁寧に、女神の加護を宿した鎧を着ている」
「だからここから先は、あたしと大将しか相手できない。いや、あたしでも長くは持たないかもしれない。攻撃は通じても、漆黒の騎士は強敵、なんでしょ?」
「いいや、着いて行く。僕たちを連れて行くんだ。これは団長命令だ」
「断る、お前たちが無駄に命を散らす必要は無い。行くぞ、ワユ」
アイクはワユを引き連れ18階層に続く階段の方へと歩み出す。同時、残されたメンバーもアイクたちについて行こうとするが、アイクは剣を抜き振り向きざま剣を振るう。
先頭に立っていたフィンの足元に剣によって作られた一筋の線が刻まれる。もう少しでも足を前に出していたら、脚が切られていたかもしれない。
「アイク……!」
「言ったはずだ、お前たちが無駄に命を散らす必要は無い」
振り返り、地面にラグネルを突き立てる。アイクとワユをフィンたちと隔てるように障壁が生み出される。その障壁を残されたメンバーが叩き、アイクの方へと訴えかけてくる。
「待て、アイク、ワユ!この障壁を解くんだ!」
「アイク様、ワユ様!お願いします、この障壁を解いてください……!」
「必ずあいつを倒して帰ってくるから、待っててくれない、春姫?」
「……ワユ様……!」
アイクは彼らを見向きもせずに歩み出す。ワユはそのアイクについて行った。
「ねぇ大将、あれでよかったの?」
「良かったも何もああするしか無いだろう。言っても聞かないというのは、同じファミリアに所属している俺が良く知っているつもりだ」
「……なんか三年前に状況が似てるね。あの時は大将が一人で漆黒の騎士と戦うって言ってきかなくて、大将が言った後本当はセネリオが結構駄々こねちゃってさ」
「そうなのか?」
「それでミストが大将について行っちゃって、ティアマトさんとかミストを止めようとしちゃたんだけど、ミストは聞かないで大将について行っちゃって。今回はミストじゃなくてあたしだけどね」
「戦力だけなら十分すぎる援軍だな」
「お?大将もあたしを認めてくれてるのかな?」
「お前のことは高く買っている。別に俺に勝つことにこだわる必要は無いだろう」
「いいや、あたしはいつか大将に勝つよ!だってもう決めたから」
二人は話しながら18階層を歩き、リヴィラの町へと向かう。目撃情報があったリヴィラの町は、建物が瓦礫と化し、所々が赤黒く染まっており、激しい戦いがあったことを物語っていた。
リヴィラの町のほぼ中心、そこには返り血を浴び、漆黒の鎧を赤く染めあげ槍を持ちこちらを待ち構えているかのように仁王立ちをしていた。
『……久シイナ、59階以来ダナ……』
「ほう、少しは反応するようになったのか」
『今ノ貴様デハ、我ヲ倒スコトハ叶ワナイ。今ノ我ハ、貴様ヨリモ強イ』
漆黒の騎士は槍を構え、突然こちらに突貫してきた。アイクとワユは咄嗟に反応し、地面を転がり漆黒の騎士の攻撃を躱す。
(以前より早い……!)
二人はラグネルとエタルドを抜き、漆黒の騎士を挟むように位置取る。
アイクはラグネルを地面に叩きつけ、斬撃を飛ばす。漆黒の騎士はその斬撃を槍で振り払い掻き消す。ワユはがら空きの背中に向けて上段から切り付ける。漆黒の騎士は首を180°回転させワユの方へと振り返りその攻撃を躱し、空いた左手でワユに向けて拳を放つ。
上段から剣を振り下ろしたワユはその攻撃を回避できない。咄嗟に自分から後ろに飛び衝撃を殺すが、拳をもろに喰らったワユは地面を転がる。致命傷にはなっておらずすぐに立ち上がり剣を構える。
戦闘は始まったばかりだ。
今日はもう疲れた