Fate/Grand Order ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは、黒ヶ谷です。

 空いた時間でチョチョイと書いた。生存報告でもある。私は一応元気です!

 尚、SAO側の孤高の剣士の書き溜めは全然進んでいない模様。

 ではどうぞ。




序章:6 ~事情~

 

 

 魔力切れで倒れたキリトに魔術回路の使用法を伝授するため、立香達カルデア一行は今度こそ本当に一休み出来る場所を求める事となった。

 過去、この特異点Fこと冬木の街で行われた《聖杯戦争》にて召喚された経緯を持つ《キャスター》ことメディア、《アサシン》こと佐々木小次郎は、その実街へ繰り出してはいないため殆ど地の利が無いと言っても良かった。

 ドクター・ロマンによるサポートも望み薄。常に存在の感知こそ行われているが通信自体は頻繁に行えるものでは無く、そもそもカルデアから分かるのは魔術的存在の有無や霊脈の通り道などであり、物理的な状態・状況まで把握出来ない性質から、今回は役に立てない。

 つまり一行は地の利も無く、何時どこから黒く侵されたサーヴァントたエネミー達に襲われるか分からない状況下で、自らの脚で拠点を探す事になったのだが――――早い解決を、女性の《アーチャー》が齎した。

 

「私に着いて来て。私のマスターが同盟を結んでた人の家なら広いし、新都に較べれば火の手も薄いから」

 

 そう言って一行を道案内する《アーチャー》。一度共闘し、しかも《令呪》に縛られる契約関係を築いた今、完全な信用こそ未だ出来ないもののある程度の信頼は出来ると考えた立香達は、《アーチャー》の案内を素直に受ける事にする。

 ――――立香達が居た場所は、冬木市に於いて《新都》と呼ばれる場所であった。

 冬木はかつて未曽有の大火災に見舞われ、市の大半を焼き払われた事がある。その『大半』が新都部分。復興と共に現代技術を大いに取り込んだ事で、焼き払われなかった地域に較べて現代風の建造物が増えた事から《新都》と呼称されるようになったのだ。

 対して《アーチャー》が案内したのは、住宅街が立ち並ぶ場所。その中でもやや異彩を放つ建造物だった。

 

「此処よ」

「おお……武家屋敷だ……」

 

 家主でも無いのにやや自慢げに言う《アーチャー》が示した家は、立香が洩らした感想通り、やや時代を遡った感のある武家屋敷。閂こそされていないが正門は寺などにある山門のそれと同一のもの。

 敷地内に入れば、母屋の傍らには道場もある。

 

「――――」

 

 立香に背負われながら道場を視界に収めたキリトは、胸の裡に郷愁を覚えた。

 自身を拾った《桐ヶ谷》の家も、母屋こそ現代の建築技術で作り直されていたが、その骨子は武家屋敷に通ずるものがあった。加えて敷地内には目の前にあるものとほぼ同規模の道場も。

 完全同一では無い。よく見れば多くの違いが見受けられたが、しかし多少の共通点を認めたからこそ、一年半も還っていない今の我が家への想いを募らせる。

 既に二度は死を受け容れる覚悟をしたからこそ、別の意味でも心苦しくなっていた。

 

「……ふぅ」

 

 そんな少年に、魔術的な結界を屋敷に施す傍らで神代の魔術師メディアは溜息を吐く。

 年齢に反して表情にこそ出ていないが、しかしその眼をよく知っていたこそメディアだけはキリトの内心に気が付いた。

 気が付いたが、しかし何も言わない。何も出来ないからこそ言わない。下手な慰めは時に一流の罵倒をも上回る侮辱になる事を理解しているから。

 難儀なマスターに当たったものだとメディアは思った。盾の少女や、かつて己が反則的に召喚した侍と契約している少年も、唐突な事態に巻き込まれ災難とは思うが、己のマスターはそれ以上だと。

 元の世界に還れる保証はなく、そもそも生きて還れる可能性すら薄いのだ。郷愁を抱くなと言う方が無理というもの。

 

「――――ほらほら、何を呆けているの。無駄にしていい時間なんて無いのだからさっさと入りなさい。休める時に休むのが一番よ。魔力回復の基本は睡眠なんだから」

 

 ぱんぱん、と手を叩いてメディアは一行を急かした。真意としては魔力枯渇に喘ぐマスターの回復を考えての事だが、無論それだけでは無かった。

 何時襲われるかは分からない。そんな状況で休める場所を確保出来たのは、ほんの僅かな間と言えども貴重である。

 特に今、マスターが魔力枯渇に陥っているせいで限界も危うくなっているメディアと《アーチャー》は戦えないため、必然的に戦力はマシュと小次郎、そして《キャスター》の三人だけとなる。オルガマリーは魔術的な援護を行えるが、キリトは立香に背負われているので足手纏いと言える。《令呪》によるブーストも一日に一回という回復こそあれ乱発して良いものでも無い。

 サーヴァントとしての霊格こそ低い小次郎も、技術的な面で言えば最高峰に近いだろう。

 しかし神代の英霊はふざけている程にふざけた連中ばかり。メディアが知る大英雄も、かつて《バーサーカー》として召喚されていたが、己の伝承を十二回の蘇生宝具として再現されているなど基本的な性能が桁違い。《キャスター》が《ランサー》であればまだしも、今そんな存在と鉢合わせすれば全滅は必至。

 

 ――――あまり考えたくないけど、まず間違いなく、《バーサーカー》はあの筋肉ダルマでしょうからね……

 

 己が知り得る英雄の中でも最上位に位置する大英雄。アレは武勇は勿論、存在そのものが最早常軌を逸した存在。

 己が知る《セイバー》と異なり、《対魔力》というスキルを持っていないため魔術は通じるだろう。しかし蘇生宝具や防御宝具を貫通する事は出来ない。つまり倒せない。出遭った時点で死は必定なのである。

 それでも幸いと言えたのは、カルデア一行の目的は全てのサーヴァントの討伐では無く、この冬木が特異点と化した原因の究明、およびそれの排除。無理してサーヴァントを倒す必要は無い。

 そして更に幸いと言えたのは、道中で合流した《キャスター》が冬木の異変について多少知っていた事だった。

 

「俺も詳しい事は分からねぇんだがよ」

 

 一先ず回復が先決と満場一致となり、勝手知ったるとばかりに家に上がり込んだ《アーチャー》が布団を敷き、そこにオルガマリーの魔術によって抵抗虚しく眠りに就いたキリトを寝かせた後、広いリビングに集まった一同の前で《キャスター》がそう前置きし、何があったのかを語った。

 とは言え、《キャスター》も詳しい事は知らない。

 

「たった一夜で冬木は火に呑まれ、人間は居なくなって、骨の雑魚共がウヨウヨ彷徨う場所になった」

 

 それを為した存在。それは冬木の《聖杯戦争》で召喚された《セイバー》。

 

「奴さんは水を得た魚みてぇに暴れてな、次々に他のサーヴァントを倒していった」

 

 その余波として、新都に巨大な一文字の傷として刻まれている。そう伝えられただけでオルガマリー達は絶句する。

 小次郎はやや思案顔。メディアに至っては、《セイバー》の真名に当たりを付けていた。

 

「あの、真名は……」

「《セイバー》の真名は、聞けば誰でも知ってるだろうさ。何せ有名な聖剣の担い手だからな。その聖剣の銘は――――《約束された勝利の剣》」

「「「……!」」」

 

 マシュへの返答に、再度絶句するオルガマリー、立香、マシュの三人。

 エクスカリバー。

 それは『アーサー王伝説』にて記された聖剣の名前。聖剣と言われればその名が挙がる事は間違いないとすら言われる程に有名どころ。かつて湖の精霊がブリテンの王に貸し、後に国が割れ、致命傷を負った際に忠臣の手によって返還された剣。

 その担い手を、現代の人々は騎士王と呼ぶ。

 

「騎士王、アーサー・ペンドラゴン……!」

 

 畏怖と共に、マシュが名を洩らす。マシュの霊基が震えた。

 

「……ふむ。話は分かった。が、一つ解せない事があるのだが、青き魔術師よ」

「何だ?」

「某、以前召喚された時にその騎士王と刃を交えているのだが、あの者はこんな事を仕出かすような俗物では無かった――――その騎士王は、本当に『騎士王』だったか?」

 

 訝しむ侍の眼は鷹を思わせる程に鋭い。名も無く、一生を田畑を耕す事と剣を振る事にのみ費やした男が唯一意味を持って死合った相手は、記憶に鮮烈に残っている。

 願わくば、もう一度――――などと、小次郎は思わない。己は敗北した、ならばそれで終わりと割り切っている。

 しかしそれでも、小次郎は騎士王と刃を交えた事を誇りに思っているし、その記憶を大切に抱いている。それは同時にあの騎士王の剣と性質を好ましく思っている事の顕れだ。

 だからこそ、小次郎は訝しんだ。

 己が好ましく思う事を認めた者は、決して人を蔑ろにする愚かな行為に手を染める輩では無い。であれば、その存在は本当に騎士王その人なのか、と。

 

「――――鋭いな、優男」

 

 その疑念に、青き魔術師が不敵な笑みを浮かべた。

 やはりか、と小次郎は己の疑念が正しかった事を悟り、同時に彼の騎士王がした事では無いと安堵した。

 

「俺も詳しい事を知ってる訳じゃねぇ。だが……お前ら、《ランサー》と《ライダー》と戦った時、何か妙だと思わなかったか?」

「そういえば、妙に黒かったような……」

 

 顎に手を当てながら、立香が言う。脳裏には同じマスター仲間である幼い剣士の姿と、先刻消滅させた二騎のサーヴァントの姿が浮かんでいた。

 キリトの恰好も確かに黒い。黒でない部分は肌くらいなものでは、と思うくらいには全身黒尽くめだ。

 しかしサーヴァント達は違う。肌の色すら日焼けなどでは決してない禍々しい黒に上塗りされていたし、服や装備なども、キリト纏う衣類や武器とは違う泥のような黒色に侵されていた。

 その違和感は全員が抱いている事。

 

「それは、《聖杯》が原因よ」

 

 その原因を、人数分のお茶を淹れ直す為に一旦席を立っていた《アーチャー》が、席に戻りながら口にする。

 

「厳密には柳洞寺がある円蔵山の《大聖杯》の汚染が原因」

「だい、せいはい……? 汚染……?」

 

 唐突に飛び出たワードに困惑するオルガマリー。マシュも眉根を寄せて疑問の表情となる。立香はそもそも《聖杯》がどういうものかイマイチ理解出来ていないので着いていけていない。

 《アーチャー》は《聖杯戦争》の裏の事情について、かいつまんで語った。

 《聖杯戦争》とは、七人の魔術師が七騎のサーヴァントを召喚して戦う戦争。マスターの権限所有は《聖杯》によって願いを持つ者の中から選ばれる。ここまではオルガマリーによるレクチャーと同一。

 しかし、《聖杯戦争》の仕組みはこれだけでは無い。

 

「《聖杯》を完成させるには、七人のサーヴァントが必要なの」

 

 万能の願望騎《聖杯》を完成するには、《聖杯戦争》で召喚されたサーヴァントの魂七騎分が必要なのである。

 そして《聖杯戦争》で召喚されるサーヴァントは、基本的に《聖杯》に何かしらの願いを持つ者しか呼ばれない。過程はどうあれ結果的にサーヴァントの願いは叶わない事になる。だからマスターは《聖杯》を手に入れる権利だけでなく、己のサーヴァントを自害させるためにも《令呪》一画を残す必要があった。

 その為にもマスターとなる魔術師は計画的に、狡猾に、事を進めなければならない。真実を知れば己のサーヴァントすら敵になる状況が決定付けられているのだから。

 《令呪》は一時的には魔法レベルの行為すら可能とする程破格な代物。

 それを使う事無く、しかし勝利するとなれば、強力なサーヴァントを召喚するのが一番。それ故にマスター達は召喚する際、己が立てたプランをこなせる《英霊》を狙うために触媒と呼ばれるものを用意するのが基本。

 小次郎を召喚出来たのは、立香と所縁のある《英霊》が日本出身の者だけで、且つ名立たる武将とは関係が無く、更に召喚場所が冬木というかつて小次郎が召喚された縁深い場所だったからである。これほど条件が揃わらなければ呼べないほど小次郎は存在が薄い。

 メディアに関しては、先に召喚した小次郎が触媒代わりになったと予想された。加えて言えば冬木の地か。

 メディアには、キリトに召喚されたのは内心抱いている郷愁や願いが近しいからではないか、という予想もあるのだが。

 ともあれ《聖杯戦争》を無事に勝ち抜き、勝者となった者が確実に《聖杯》を手にするには、極論強力なサーヴァントを召喚すれば良い。

 そうなると選択肢に入る存在は神秘に溢れた古代、神代、神話の存在となる。

 その中でも超級と言えるのは神話に挙げられる大英雄達なのだが――――

 

「この《聖杯戦争》のシステムを作り上げた『とある家』が、ズルをしたのよ。ゾロ・アスター教の邪神アンリ・マユを召喚したの」

 

 『とある家』が目を付けたのは、大英雄達では無く、神霊だった。神話に於いては天災とすら直喩される程に理不尽な存在を味方に着ければ勝ったも同然と、そう考えたが故の行動。

 しかし、結果は惨憺たるもの。

 召喚されたのは貧弱なサーヴァントだった。歴代最弱とすら言えるそのサーヴァントは、勿論《聖杯戦争》開始数日で敗退した。

 ――――それが《大聖杯》汚染の原因。

 

「アンリ・マユは、『こうであれ』と悪を望まれて生贄に捧げられた少年よ。『作物が育たないのはお前のせいだ』、『日照りが続くのはお前のせいだ』と言われた者、それがアンリ・マユーーーーつまり《アンリ・マユ》という《英霊》は、存在そのものが『悪を望まれる者』だった」

 

 存在からして悪を望まれる者、それがサーヴァント《アンリ・マユ》。

 そんな存在の魂が《大聖杯》にくべられた事で、無色だった願望を叶える膨大な魔力は穢され、汚染された。

 結果、何を願っても『悪』に属する形でしか願いを叶えないモノとなった。

 

「《聖杯》がガワだけで現れるのは魂六騎分、この時点で汚染された魔力、すなわち『泥』は滲み出る。完成の七騎分で溢れ出て大火に見舞われるわ」

「……でもそれが本当だとしたら、話がおかしくならない?」

 

 かつて己が求めたモノが欠陥品であると知ってショックを受けていたメディアは、しかしそれでも懸命に思考を働かせ、違和感に気付く。

 現在消滅を確認しているのは《ランサー》と《ライダー》の二騎。

 生存を確認しているのは《アーチャー》と《キャスター》。この眼で見てはいないが、二人の口振りから察するに《バーサーカー》と《アサシン》は野放しで、《セイバー》もまだ残っている筈。

 これでは《聖杯》のガワ出現分にも満たず、泥は滲み出てこない。

 つまり街が大火に見舞われる事は無い筈なのだ。

 しかも今出た話は街が大火に襲われた原因であろう話であって、《セイバー》がどうしてそんな事を仕出かしたのかについては未だ分かっていない。

 その指摘に、《アーチャー》は頷く。

 

「ええ、私もそこが引っ掛かってるのよ」

 

 しかもよ、と細い指を一本ピンと立てる《アーチャー》。

 

「サーヴァントって基本的に魔力の消費量がえげつないのよね。《聖杯戦争》は《大聖杯》で、リツカやキリトはカルデアの支援を受けて保たせてるけど、それでも全力戦闘をすれば現代魔術師は割とすぐ魔力枯渇に陥るわ」

 

 そう聞いて、立香達はキリトの姿を思い浮かべた。

 立香の何十倍、一流と言われても過言では無いオルガマリーの数倍もの魔力量を誇るキリトが魔力枯渇を起こしたのは回路を閉じていなかった事が原因ではあるが、回復量も桁違いであるのに、倒れてからはメディア達との契約を維持するので精一杯。契約と現界の維持でそれなのだから、軽い戦闘行為ですら倍以上は消費するのは目に見えている。

 更に、騎士王が生きたブリテン島は、神代最後の場所であった。やや神秘が薄れ気味ではあったが、しかしれっきとした神代の末端。当然だがネームバリューも相俟ってステータスは軒並み高く、能力も同様で、比例するように魔力消費量も馬鹿にはならないだろう。

 そんな騎士王が他の全てのサーヴァントを一夜にして蹴散らしたという。しかも一点に力を集中させるのではなく、街に破壊の傷跡を残す程の暴威を振るった。

 一体どれほどの魔力を必要とするのか、オルガマリーには見当もつかなかった。しかも長期的にでは無く短期的、たった一夜、すなわち数時間内で行った事なのだから、瞬間消費量がイコール魔力保有量と言っても良い。

 

「無理よ、絶対無理よ! 幾ら《大聖杯》のバックアップ込みとは言え、そんなトップサーヴァントの全力戦闘を支えるなんて不可能よ!」

 

 現実的に不可能と判断出来たからこそ、オルガマリーは恐怖し、惑乱する。なまじ理解出来たからこその恐怖が心を苛んでいた。

 日を置いて、長期的にするのであればサーヴァントの全力戦闘に耐えるのも不可能ではない。しかし敵対サーヴァントが何体も居て、その数だけ敵対魔術師も居て、諸共相手に戦う中で全力戦闘用の魔力消費と己の身を護る為の魔術に要する魔力を同時に賄うなど、幾ら何でも無理がある。

 そんな事が可能なのは、第二魔法に至ったキシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグくらいなものである。

 

「そう、絶対不可能――――だからこそ、それが答えになる」

「へ……?」

 

 《アーチャー》の肯定、そして答えに、オルガマリーは惑乱を忘れて呆ける。

 

「簡単な話よ。カルデアも、この地に起こった《聖杯戦争》、つまるところ《聖杯》が特異点化の原因と見てたのでしょう?」

「え、ええ……でも、この地の《聖杯》は違うんじゃ……」

「そうね。でもこの大火を招いたのは間違いなくこの地の《大聖杯》よ、汚染されてなければこんな事にはまずならない。だから厳密には《大聖杯》は遠因、原因は別にある」

 

 その原因が《セイバー》の事か、とオルガマリーは察した。

 

「じゃあ、《セイバー》が……?」

「正確に言うなら、《セイバー》の魔力消費を支えるモノ、でしょうね。そしてそれを為したのは特異点を作り出した存在だと思う」

「……」

 

 暫しの沈思。

 

「……《聖杯》……?」

 

 ふと、オルガマリーに浮かぶ馬鹿げた発想。

 人間には支える事の出来ないサーヴァントの魔力消費を、《聖杯》が肩代わりする。

 しかしそれでは本末転倒な話になる。だって《聖杯》を手に入れる為の戦いで、サーヴァントが魔力を消費するのだ、これではアベコベな話になる。

 しかし――――しかし……オルガマリー達カルデアは、特異点発生の原因を、《聖杯戦争》という過程にあるのではなく、《聖杯》という結果に見出していた。

 人の手では過去を変える事など不可能という認識。

 《聖杯》くらいでなければ過去を変えられないという認識。

 それが今、合致した。

 

「まさか……特異点を作った黒幕は、《聖杯》を《セイバー》に与えた……?」

「恐らくね。ついでに言えば泥が溢れるくらいの魔力を《大聖杯》に注いだのも」

「ッ……」

「所長!」

 

 予測ではあるが、しかし英霊である《アーチャー》の肯定に、眩暈を覚えるオルガマリー。ふら、と状態を揺らがせた姿に、マシュが声を上げ、支えた。

 

 ――――《大聖杯》に魔力を注いだ事はともかく、《セイバー》が《聖杯》を受け取った、ねぇ……

 

 《アーチャー》が弾き出した答えを聞いて、メディアは思考に意識を没する。

 あり得ない話ではないと思う。《聖杯戦争》に召喚されたという事は、あの《セイバー》にだって願いがある事は明白なのだ、調停者たる《ルーラー》のサーヴァントでない限りこれは絶対である。

 予想はつく。《セイバー》は、あのブリテンの滅びを目の当たりにした一国の王。立場を鑑みれば、祖国の滅びを変えたいとか、そんなところだろうと当たりも付けられる。

 黒幕が与える《聖杯》を用いれば、マスターの魔力量を考える必要が無くなり、敵を一掃出来る。ともすれば彼の大英雄ですら屠れるだろう。それほどに星の聖剣は宝具としても図抜けている。《セイバー》とて人の子、可憐な少女なのだ、儚い願望の前に屈するのも已む無しと言える。

 己の願いを叶えるほどでは無く、しかし戦闘には足りる量に調節していれば、その地を大火に包む作業を行う時間も稼げるだろう。

 しかし、それでも解せない。

 あの《セイバー》を好む理由は、容姿が可憐だからだけでは無く、心もまた美しいと思ったからだ。悪を許さず、善をこそ尊ぶ騎士の在り方に、己は美しいと思うだけの価値を見出していた。

 飄々とした侍も理由こそ違っても同じ所感を持っている。

 だからこそ分からない。あの騎士王と名高き聖剣の担い手が、あからさまな悪、そうでなくとも謀略の誘いを受けるか、と。

 人の子故に願望の前に屈するのも已む無しとは思うが、しかし、どうにも違和感が残る。

 仮令泥に、狂気に侵されていようと、あの少女の根幹が変わる事は無いと思うのだが。

 

 ――――それに、《アーチャー》と《キャスター》が残ってるのもねぇ……

 

 ちら、と紅い外套を纏う銀髪の少女と、青の装いの青年を見て思う。

 この二人にマスターは居なかった。すなわち魔力供給が無いせいで戦闘能力が低下し、倒しやすくなった事を意味する。二人とも達者なようで巧く捌いていたようだが、しかし限界というものがある。泥に侵された者達と違い、二人には魔力供給が無かったのだから。

 特異点とは、まだ修復出来る状態だ。

 逆に言えば、ある一線を超えれば不可逆になる。それが恐らくはこの地の《聖杯》を用いた歴史の破壊、すなわち《セイバー》の願いの成就だろう。

 《セイバー》の願いを叶える為には現地のサーヴァント達を全て消滅させ、その上で《セイバー》自身も自害する必要がある。結果的に願いが叶わないとは言え、それを知らない以上は己以外の全てを消滅させようとする筈。

 しかし、現実としては残っている。しかも自分達と戦った《ランサー》と《ライダー》が最初の消滅相手と来ている。

 確認していない《アサシン》と《バーサーカー》を入れれば四騎、入れなければたったの二騎。これでは《聖杯》の完成など程遠い。

 しかも《セイバー》自身は円蔵山に籠っているという消極性。特異点を作った輩からすれば面白くない事態の筈だし、せっつかれていないにしても動こうとしないのはどういう事か。気長に構えるくらいなら、むしろ今《セイバー》に齎された絶大な魔力を持って全てを薙ぎ払えば話は速い筈だが。あの子の性格的に現状を打破出来る手札があれば打って出る方が似合っている。

 状況と事情に反するような《セイバー》の行為。

 これは……

 

 ――――……まさか、わざと誘いに乗った……?

 

 状況を引き延ばしていると考えれば、むしろ《セイバー》はカルデアのような特異点修正の者達を待っていたのかもしれない。

 それはイコール、あの騎士王ですら敵わない存在が黒幕、という予想に繋がるのだが。つまり星の聖剣ですら通用しない相手という事か。

 《聖杯》を与えたであろう事も含め、今回の敵は色々とスケールが違うらしい。

 

 ――――だとしても、少なくとも今は敵と考えておいた方が良いか。

 

 メディアの脳裏に浮かぶのは、黒い泥に汚染されたサーヴァント達。アレを最初に《セイバー》が受けたのだとすれば、同じ様に襲って来ると容易に予想出来る。

 そうでなくとも星の聖剣ですら敵わないかもしれない黒幕が居るのだ。サーヴァントという括りである以上、洗脳や《令呪》の縛りなどで言う事を聞かせる方法は幾らでもあるし、味方になると考えない方が良い。元より敵のつもりで自分達は居るのだから。

 諸々細かい問題はあるが現状最大の問題は己のマスターだな、と《アーチャー》が淹れた渋みのあるお茶を啜りながら、メディアは思考を終えるのだった。

 

 






 はい、如何だったでしょうか。

 今話は私がF/GOの特異点Fで感じた違和感や疑問について、私なりに考察した事を語る為に費やしました。

 や、だって『冬木の大火災』と『セイバー狂暴化』の因果関係と前後がおかしいんだもの。

 本編だと
1)セイバー狂暴化
2)キャスニキ以外汚染(消滅してないので魂回収はしてない)
3)冬木から人間消滅&大火災発生(2)とどっちが先かは不明)
4)カルデアレイシフト(今ここ)
 ――――という感じですが。

 黒幕が大火災を起こしたなら、オルトリアは必要ないし。

 他のサーヴァント達が汚染状態でも残っているなら魂回収無し=《聖杯》起動せず=大火災は発生しないし。そもそもアルトリアもオルトリアに反転しない。

 じゃあお前、オルトリアが遺してレフが回収した《聖杯》は何だ! って考えたら、こう考えるしか無い訳で。公式でもオルトリアさんは黒幕に対抗するべく時代を残そうと消極的に引き籠っていたみたいだし、多分この解釈で合ってるんじゃないかな。

 そもそもセイバーの魔力消費とマスター(多分衛宮士郎)の保有魔力量的に、バサクレス含めた全てを相手して全勝するのは不可能だと思うの。間違いなく凛レベルでも不可能。

 じゃあ黒幕が《聖杯》渡して、それを力の源にしたんじゃね? って(多分この時点でオルトリアに)

 ひょっとすると黒幕が《大聖杯》に魔力注ぐ、泥溢れて騎士王を反転、反転騎士王が暴れて他が汚染、その間に大火災発生って流れかもしれない。

 ともかく本作ではこんな感じ。

 あとマテリアル見返して思ったけど、《セイバー》の真名確認はアチャミヤ戦の前にするべきだと思うの。

 ついでに言うと、本作のメディアさんは過労死(常時スタメン)枠です。マイカルデアのアンデルセンさんや邪ンヌみたく。仮令敵にライダークラスが居ても出撃するアンデルセンさんみたく!(邪笑)

 ひょっとするとメディアさんはキリトにとっての義理の姉になるかもしれねぇなぁ………( = =) (本編の義姉・電姉を見つつ)

リー姉・ユイ姉「「自分達のライバルが出来た気がする」」ガタッ

 ――――とか言って『世界を渡り歩く存在』になって登場したり……

 そういえば、拙作本編でそういう人物が一人居たっけ。

 では。


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