~夜~
『打ち上げではあれだけ盛り上がっていたのに…』
今は自宅で電気も付けずに、運動会で優勝した事の余韻に浸る事も出来ず、ただ毒づいていた。
『………』
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・
今日、今回の運動会は、杉並がトトカルチョを計画し、賭け事が解らない様に隠語として、クイズ大会という言葉を代わりに使っていた。そして、何年何組が優勝するかという賭けが裏で行われていた。
賭けの人数が多いと、大きな金が動く事になる。思わぬ臨時収入が入るかも知れない事に、一気に熱が入った。
今の賭けの状況は、運動部員の少ない自分のクラスが有望から外れ、殆どの奴らが運動部員の多いクラスに賭けていた。
それを利用し、俺のクラス全員〔一人を除く〕が自分たちのクラスに賭けて、優勝を狙い、賭け金総取りに向けて死力を尽くした。
スコアの高い種目は比較的、運動神経のいい者を選び、また俺自身もリレーで奮戦して1位を取った。
賭けの参加者が多かった事は、俺をやる気にさせた。
賭けが運動部の多いクラスに賭けられていた事、うちのクラスは運動部員が少ない事が幸いし、約24万円という儲けとなった。
早速、クラス全員に配るとなった所で、生徒会に現場を取り押さえられた。
しかも、24万円は没収という形となった。
運動会の優勝という事実は消えなくても、クラス全員に配るとなる24万円が没収というのはあまりに大きい。
打ち上げの喫茶店内のクラス全体のムードが物凄い失望感へと変わった。
『私たちも鬼ではないから、ここの喫茶店代は私たちが持つから』
生徒会の高坂先輩がそう言ってくれたが、俺は腹が立ちすぎて食欲など出なかった。
『こうなったら食って飲んで、元を取ってやろうぜ』
悪友の渉は、すごい勢いで飲み食いし始めている。元々、こいつは他クラスに賭けていたのだが…。
1:処分も無いし、堪える。
2:今度から賭けは徹底的に隠匿して、次の機会にするか。
3:キレる。高坂先輩にも同じ絶望感を与えてやる。
俺の中でこれらの選択肢がグルグルと回りだした。やがて、その選択肢を選んだ。
『………』
俺は渉が平らげた大きめの皿を1つ高坂先輩に持って行った。
『おい、それどこへ持ってくんだ?』
渉を無視して、喫茶店の入り口で陣取っている高坂先輩を見据える。
『ここの喫茶店代は払ってくれるんですよね?』
『常識で解る範囲ならね。そんな皿、持って帰れないからね』
『そう…』
振りかぶって皿を地面に叩き割ろうとした時、ケーキの残りのクリームで滑って、割れずに別のテーブル席の上に上手く乗ってしまった。
『…くそ』
『ふーん、処分無しで許すのに、そんな態度を取るんだ』
『………』
『弟君には、謹慎処分も追加しようかな』
『ご自由に。今回のやり方をよく覚えておきます』
何か言いたげな高坂先輩を無視して、俺はすぐに店を後にして自宅へと帰った。
音姉〔音姫〕に至っては、俺と高坂先輩のやり取りを終始無言だった。
恐らく、これほど俺の激怒した姿は見た事ないだろう。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・
記憶から戻り、現在に至る。
何をするでもなく、深呼吸を何度もして感情を鎮める動作を繰り返している。
やはり、金を分配すれば1万くらいあったのかも知れないのに、金額が大きいだけにイラつき度も大きい。
≪コンコン≫
遠慮がちなノックが聞こえる。
『………』
感情に対処しきれず、俺は相手が誰なのかを静かに待った。
『弟君、今いいかな?』
『………』
すぐに対応できず、色々と思考が交錯する。
わずかに突出した思考は、ダルいから無反応を決め込もうと考えていた。
『開けるよ』
ドアが開くと、廊下の明かりが漏れて、埃が多少飛び交っている。
俺は机の椅子から立ち上がり、音姉をやんわりと見据えた。
『あれは杉並君や弟君が悪いんだよ。賭け事など違反を取り締まるのは生徒会の仕事なんだし…』
『………』
『それが判明したら、生徒会の人間として対処しないといけないんだから。そこはわかって』
『………』
理詰めで説明をする。
俺とてそれは理解は出来る。だが、配当金直前でいきなり没収という精神的なダメージが解っていない。
それとも、俺は金にガメツイからそうなのか…。
『黙り込まないで、何か喋ってほしいな』
『…今回の運動会は、賭け事とはいえクラスメイト全員が死力を尽くしたんだ』
『…優勝したもんね』
『正確には、運動部員が少ない劣勢の中、優勝したんだ。賭け事が目的とはいえ、一致団結して得た事だ。そして配当金直前で没収だ。やはり、精神的にキツいんだよ』
『…でも、皆あの後、喫茶店で飲み食いやってたよ』
『俺には感情的に余裕が無かった。ムカついて食べるどころではなかった』
『え~と、その…』
『………』
どうすれば俺の機嫌が直るのか考えているようだ。
だが、感情はすぐに何とかなるものでもない。
今は感情が制御できない。
『もういいよ。音姉、行ってくれ』
『えっと、弟君…』
『………』
『ごめんね』
ドアが静かに閉められ、再び暗闇と静けさに包みこまれる。
今は何を言っても無駄だと判断したのだろう。静かに朝倉家に戻った。
『………』
生徒会、高坂先輩………
くそ……、くそ……