D.C.ⅡS.C. 〔1〕   作:消雪

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〔1〕

~夜~

 

 

 

『打ち上げではあれだけ盛り上がっていたのに…』

今は自宅で電気も付けずに、運動会で優勝した事の余韻に浸る事も出来ず、ただ毒づいていた。

 

『………』

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・

 

 

今日、今回の運動会は、杉並がトトカルチョを計画し、賭け事が解らない様に隠語として、クイズ大会という言葉を代わりに使っていた。そして、何年何組が優勝するかという賭けが裏で行われていた。

賭けの人数が多いと、大きな金が動く事になる。思わぬ臨時収入が入るかも知れない事に、一気に熱が入った。

今の賭けの状況は、運動部員の少ない自分のクラスが有望から外れ、殆どの奴らが運動部員の多いクラスに賭けていた。

 

 

それを利用し、俺のクラス全員〔一人を除く〕が自分たちのクラスに賭けて、優勝を狙い、賭け金総取りに向けて死力を尽くした。

スコアの高い種目は比較的、運動神経のいい者を選び、また俺自身もリレーで奮戦して1位を取った。

 

 

賭けの参加者が多かった事は、俺をやる気にさせた。

賭けが運動部の多いクラスに賭けられていた事、うちのクラスは運動部員が少ない事が幸いし、約24万円という儲けとなった。

早速、クラス全員に配るとなった所で、生徒会に現場を取り押さえられた。

しかも、24万円は没収という形となった。

 

 

運動会の優勝という事実は消えなくても、クラス全員に配るとなる24万円が没収というのはあまりに大きい。

打ち上げの喫茶店内のクラス全体のムードが物凄い失望感へと変わった。

 

 

 

『私たちも鬼ではないから、ここの喫茶店代は私たちが持つから』

 

 

 

生徒会の高坂先輩がそう言ってくれたが、俺は腹が立ちすぎて食欲など出なかった。

 

 

 

『こうなったら食って飲んで、元を取ってやろうぜ』

悪友の渉は、すごい勢いで飲み食いし始めている。元々、こいつは他クラスに賭けていたのだが…。

 

 

1:処分も無いし、堪える。

2:今度から賭けは徹底的に隠匿して、次の機会にするか。

3:キレる。高坂先輩にも同じ絶望感を与えてやる。

 

 

俺の中でこれらの選択肢がグルグルと回りだした。やがて、その選択肢を選んだ。

 

 

『………』

 

 

俺は渉が平らげた大きめの皿を1つ高坂先輩に持って行った。

 

 

『おい、それどこへ持ってくんだ?』

 

 

渉を無視して、喫茶店の入り口で陣取っている高坂先輩を見据える。

 

 

『ここの喫茶店代は払ってくれるんですよね?』

 

『常識で解る範囲ならね。そんな皿、持って帰れないからね』

 

『そう…』

 

 

振りかぶって皿を地面に叩き割ろうとした時、ケーキの残りのクリームで滑って、割れずに別のテーブル席の上に上手く乗ってしまった。

 

 

『…くそ』

 

『ふーん、処分無しで許すのに、そんな態度を取るんだ』

 

『………』

 

『弟君には、謹慎処分も追加しようかな』

 

 

『ご自由に。今回のやり方をよく覚えておきます』

 

 

何か言いたげな高坂先輩を無視して、俺はすぐに店を後にして自宅へと帰った。

音姉〔音姫〕に至っては、俺と高坂先輩のやり取りを終始無言だった。

恐らく、これほど俺の激怒した姿は見た事ないだろう。

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・

 

 

記憶から戻り、現在に至る。

何をするでもなく、深呼吸を何度もして感情を鎮める動作を繰り返している。

やはり、金を分配すれば1万くらいあったのかも知れないのに、金額が大きいだけにイラつき度も大きい。

 

 

≪コンコン≫

遠慮がちなノックが聞こえる。

 

 

『………』

 

 

感情に対処しきれず、俺は相手が誰なのかを静かに待った。

 

 

『弟君、今いいかな?』

 

『………』

 

 

すぐに対応できず、色々と思考が交錯する。

わずかに突出した思考は、ダルいから無反応を決め込もうと考えていた。

 

 

『開けるよ』

 

 

ドアが開くと、廊下の明かりが漏れて、埃が多少飛び交っている。

俺は机の椅子から立ち上がり、音姉をやんわりと見据えた。

 

 

 

『あれは杉並君や弟君が悪いんだよ。賭け事など違反を取り締まるのは生徒会の仕事なんだし…』

 

『………』

 

『それが判明したら、生徒会の人間として対処しないといけないんだから。そこはわかって』

 

『………』

 

 

 

理詰めで説明をする。

俺とてそれは理解は出来る。だが、配当金直前でいきなり没収という精神的なダメージが解っていない。

それとも、俺は金にガメツイからそうなのか…。

 

 

 

『黙り込まないで、何か喋ってほしいな』

 

『…今回の運動会は、賭け事とはいえクラスメイト全員が死力を尽くしたんだ』

 

『…優勝したもんね』

 

『正確には、運動部員が少ない劣勢の中、優勝したんだ。賭け事が目的とはいえ、一致団結して得た事だ。そして配当金直前で没収だ。やはり、精神的にキツいんだよ』

 

 

『…でも、皆あの後、喫茶店で飲み食いやってたよ』

 

『俺には感情的に余裕が無かった。ムカついて食べるどころではなかった』

 

『え~と、その…』

 

『………』

 

 

 

どうすれば俺の機嫌が直るのか考えているようだ。

だが、感情はすぐに何とかなるものでもない。

 

今は感情が制御できない。

 

 

 

『もういいよ。音姉、行ってくれ』

 

『えっと、弟君…』

 

『………』

 

『ごめんね』

 

 

 

ドアが静かに閉められ、再び暗闇と静けさに包みこまれる。

今は何を言っても無駄だと判断したのだろう。静かに朝倉家に戻った。

 

 

『………』

 

生徒会、高坂先輩………

くそ……、くそ……

 

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