D.C.ⅡS.C. 〔1〕   作:消雪

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〔10〕

~家~

~居間~

 

 

 

『………』

 

『………』

 

『………』

 

 

音姉や由夢は、俺の口が開くのを今かと待っている。

空気は重苦しく、表情は引き締まり、二人共全く小話をしそうにない。

 

俺の目に、音姉と由夢の真剣な視線、重圧感、緩む事のない表情。

感覚として、俺が音姉と由夢を本気で怒らせた様な錯覚を覚える。

 

 

『兄さん?』

 

『どうした?』

 

『どうしたじゃないでしょ。早く話してよ』

 

『解ってる、解ってるよ……。元々、整理していない出来事なんだ。もう少しだけ』

 

 

『兄さん!!』

 

『………』

 

 

 

正直なところ、音姉も由夢も本気になりすぎて、俺自身かなり困惑していた。

俺も早く話したいのだが、中々落ち着かない。

 

何の役にも立たないのかも知れないが、3回深呼吸をしてみよう。

すーーー、はーーー。

 

 

『少し落ち着いた。一から全部話すよ。ただし…』

 

『ただし?』

 

 

 

二人の声が重なり合う。普段なら笑い合って空気が緩むところだが、微動だにしない。

俺は努めて、困惑を抑える。

 

 

 

『……内密にしてほしい』

 

『夕方、それ聞いたよ!』

 

 

音姉は、さっきから一言も発していない。

まるで、他の生徒と接する生徒会長の様だ。

 

生徒会長……、その言葉が妙に引っかかった。

一応、念押しに……

 

 

 

『音姉は?』

 

『……何が?』

 

『内密にできる?』

 

『………』

 

 

 

……察するに、絶対にバラすという事ではないが、絶対に内密にする訳でもなさそうだ。

話しの内容次第といった所だろう。

 

こういう所も由夢よりも冷静さ、思慮深さを感じさせられる。

生徒会長の立場もあるのだから、全部を内密にする事を約束するのは難しいのだろう。

 

 

 

『お姉ちゃん?』

 

『んー、できる限り秘密にするかなぁ』

 

『………』

 

 

 

俺が何を話すか、どういった内容か解らないのに内密を約束しないのは逆に利口だろう。

音姉は内密の約束はしなかったが、俺は音姉の人格は知っているつもりだ。

 

何もかも公言する事はないだろう。だから人格、人柄を信用する。

これ以上、色々考えていても始まらないので、杉並の提供してくれた写真の話から丁寧に説明した。

 

 

 

~中略~

 

 

 

『まだ全部話していないが、質問があるならしてほしい』

 

『弟君、出来れば杉並君のその写真を、先に生徒会に渡す事はできなかったのかな?もしくは私にだけでも』

 

『確かに、俺が一ツ橋を自白させる必要はなかったと思う』

 

『………』

 

 

由夢の顔がちょっと赤い。

一ツ橋が運動会のリレーで負けた事の逆恨みに、財布を俺の靴箱に入れて、盗難したと思わせた事が許せない様だ。

 

怒りのボルテージを、もう少し下げてほしい。

 

 

 

『生徒会と先生の粘着した追及に苛立ち、その発想の自由は利かなかったな』

 

『そっか……』

 

 

 

杉並の今日の話……

 

 

 

『確か、複数の生徒が新しい証言をしたんだっけ?』

 

『……なんで、弟君がその話を知っているの?』

 

 

 

ものすごく怪訝な顔をしたので、ちょっとびっくりした。

恐らく、生徒会内の最新の極秘情報といったところだろう。

 

 

 

『杉並で解るか?』

 

『……把握したわ。その話は本当だよ』

 

 

『私、付いていけてないんだけど……。新しい証言ってどんな話?』

 

『……財布の盗難があった日に、俺が保健室に出入りしていたという証言だ、と、思う』

 

『当たってるよ、弟君』

 

 

『兄さん、出入りしたの?』

 

『していないよ』

 

『じゃあ、その証言した人の方が怪しいじゃない』

 

 

 

その通りだが、俺は由夢の怒りが更に上がらないか心配で、自分の推測の言葉を出すのをためらった。

 

杉並は、その複数の生徒全員が、一ツ橋と仲の良い人物だと調べ終えている。

 

生徒会内では、どこまで調査が進んでいるのか気になった。

俺は音姉に質問してみた。

 

 

 

『生徒会内では、その複数の同じ証言をどう考えているの?』

 

『……半信半疑もいかない所ね。唐突に出てきた証言だからね。なぜ今になってそんな事を一斉に言うのか』

 

『じゃあ、その複数の生徒についてどう考えているの?』

 

『それは、これからの話かな』

 

 

 

杉並の方が一歩、調査が進んでいるようだ。手違いがなければの話だが……

だが、ここで情報を小出しにしても仕方ない。

 

俺は杉並の情報を出す事にした。

 

 

 

『調査は杉並の方が早いかもな』

 

『む、それは生徒会長として少し悔しいな』

 

『複数の生徒については今日、杉並から教えてもらった事がある』

 

『それは?』

 

 

鋭く質問が飛ぶ。またも、音姉と由夢の言葉が被るが、俺を見据えているだけ。

音姉や由夢のスマイルが、今は恋しい……

 

 

 

『完全な確認は取れていない。杉並の手違いの情報であってほしいと祈っている事だが……』

 

『いいから続けて!』

 

 

取り返しのつかない事を言うかも知れない……

いや、杉並の手違いを前言している。大丈夫だろう。

 

 

 

『証言した複数の生徒全員が、一ツ橋と交流があるようだ』

 

『弟君!それは確かなの!?』

 

『……それは、これからの話かな』

 

 

 

音姉が少し困惑しているようだ。顔も少し赤いので、怒っていないかと心配になる。

その話が本当であれば、誰でも俺の推測になってしまう。

 

 

『……兄さん、確認したいんだけど』

 

『何だ?』

 

『一ツ橋って人が、その複数の生徒に嘘の証言を頼んだんじゃないの?』

 

『……今は不確かなんだ。この話はこれで終わりにしよう』

 

 

 

俺は不意に話の腰を折った。

この話を続けていたら、由夢がどんどん感情的になりそうで怖かった。

 

思い込みや推測で話を進める訳にはいかない。

 

可能性が大きくても、事実や根拠を踏まえねば、実は間違って推測している事の方が多かったりする。

 

 

『でもまだ……』

 

『由夢ちゃん、明日、事実確認すればすぐ解る事だわ。それにもう一つ聞きたい事があるでしょ』

 

『………』

 

 

 

来たか、ランニングの話……。トトカルチョの話だけは伏せて置こう。

次回は、ちゃんと儲ける予定なんだから。

 

占いを真に受けて、制服で走った事にした。

トレーニング不足も感じているので、これからは何度も俺が走る姿を見るとも伝えておいた。

 

 

 

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