D.C.ⅡS.C. 〔1〕   作:消雪

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〔13〕

~商店街~

 

 

 

『はぁ、はぁ。上手く撒いたな』

 

『はぁ、はぁ、はぁ。休憩、させて、くれ』

 

 

……

 

 

 

あの後、争ったせいで高坂先輩が数人の生徒会の人間を連れて現場までやって来た。

 

俺は手早く一ツ橋に『話がある』と伝えると、二人で公園に向かってダッシュした。

ところが、高坂先輩が執拗に追いかけて来た。

 

一ツ橋は既にスタミナ切れになっていて、俺は一ツ橋のカバンをひったくり、右手で2つのカバンを抱え、左手で一ツ橋の手を掴んで走り、桜公園の道から外れ、木々の中を走りに走った。

 

 

 

『あんたたち、止まりなさい!』

 

 

『おい、限界だ。諦めようぜ』

 

『いいから走れ!』

 

 

後ろから怒号が聞こえるが、同時に距離感も大体掴める。

距離があると言っても、気を抜いていたらすぐ追いつかれそうだ。

 

真っ直ぐ走ると、向こうもそれを読んで真っ直ぐ走って来るので、右斜めに走ったり、あるいは真っ直ぐに走って変化を加えた。

 

追いかける側は、思った様に走れないし、木々が俺たちの姿を何度も遮ってくれる。

途中、一ツ橋が体力の限界からか『隠れないか?』と提案したが、無視した。

 

その場に隠れても、荒い呼吸を整えない内は、その場所がバレてしまう。

ここまで逃げまくって捕まったら、向こうも感情を押さえる事をしないだろう。

何らかの大目玉を食らう事になる。

 

俺は土地勘を頼りに、商店街へと走った。

そこなら人通りも店も多く、完全に身を隠す事ができる。

 

スーパーの2階が駐車場になっている場所を選び、俺たちはようやく休憩を取った。

 

 

 

……

 

 

 

『骨休みしたかったが、完全にトレーニングになったな』

 

『はぁ、はぁ、はぁ』

 

 

一ツ橋はまだ体力が戻っていないようだ。

ここなら先ず見つからないだろう。

 

俺はカバンを2つ置くと、二階から人込みを観察した。

人が忙しなくゴチャゴチャと歩いている。

 

下手に顔を出していると発見される可能性があるので、すぐに一ツ橋の所へ戻った。

 

 

 

『落ち着いたか?』

 

『腕が痛いわ。真っ直ぐ走ればいいものを、いきなり右へ腕を引っ張るな』

 

『そうしないと、追う側は一つの方向に向かって全力で走ってくるからな。的を絞らせない為だ』

 

『……杉並と行動してただけはあるな。その脚力も』

 

 

すっかり太陽は沈んでしまい、じきに夜になる。

俺は音姉に『帰りは遅くなるので、夕飯は頼む。俺は何とかする』とメールを送信すると、一ツ橋の方へ向き直った。

 

 

 

『話というのは、財布の盗難の件だ』

 

『……それか』

 

『なぜ、謝らない?それでは生徒会も謝意がないと見られても仕方がない。いつまで経っても終わらないだろ』

 

『………』

 

 

俺の携帯に着信音が鳴り、メールを確認すると『何とかするってどうするの?』と音姉が返信をくれたので、『総菜の半額セールで何か買っておく』と返した。

 

俺は一ツ橋が喋るのを待ったが、中々話してくれない。

その後、また携帯に着信が入り確認すると『テーブルに置いておくから、それを食べて』と書かれていた。

 

『世話かけてすまない』と返信した。

 

 

 

『ああいうのって警察が来るだろ?』

 

『ん?』

 

 

小声でボソボソと喋っていたので、はっきり聞き取れなかった。

 

 

 

『聞こえなかった。もう一回言ってくれ』

 

『だから、警察だよ。俺、捕まるんだろ?』

 

『中身は盗まれていなかったから、警察は来ないだろう』

 

『解らないだろそんな事』

 

 

……まさか、警察が来るのが怖くて、盗んだ事を認めたがらなかったのか

中身は盗まれていなかったんだし、先生も、生徒会も無情な事をしないだろう。

 

盗まなかった事の評価くらいはあるはずだ。

 

 

 

『……俺、将来は外国で働きたいんだ』

 

『外国で?』

 

『ニュージーランドで』

 

『そ、そうなのか』

 

 

いきなり外国の話になった。

ニュージーランド、人より羊の数が多いと言われる国か。

 

正直、首都の名前すら分からない。

隣のオーストラリアの存在が、あまりに大きい気がする。主に面積が。

 

 

 

『それ、財布の事と関係があるのか?』

 

『日本人がニュージーランドで働く場合、ある条件が必要なんだ』

 

『……それは?』

 

『国内で一度も逮捕されていないという証書が必要だ』

 

 

『……そんなのあるのか』

 

『そうだ』

 

『……逮捕歴がつくかも知れないから、敢えて謝らなかったと?』

 

『………』

 

 

ようやく事情が飲めた。

心配のし過ぎの様な気もするが、それだけ外国で働く事の熱意が強いという事だろう。

 

というか、いつまでも謝意が無ければ、反省してもらう為に警察を呼ばれる事を考えなかったのか。

色々、試行錯誤してしまったのだろう。問題が複雑で無くて良かったところだ。

 

 

『では、俺が生徒会と先生の両方に警察を呼ぶか呼ばないか確認してやるよ。それなら確信が持てるだろう』

 

『……いいのか?』

 

『俺としても、この問題は早く終わってほしいんだ。トレーニングに集中できん』

 

『……悪いな』

 

 

『ただし、警察が来ないと確認が取れれば、ちゃんと謝ってくれよ』

 

『……解ってる』

 

『じゃあ、お互いにそろそろ帰ろう。確認が取れたら連絡をする』

 

『……解った』

 

 

ようやく、この1件が終わりそうで胸を撫で下ろした。

俺もこれ以上、帰りが遅くなる訳にはいかないので、家路に着く事にした。

 

しかし、一言くらいお礼を言えっての。

 

 

 

~学校~

~昼休み~

 

 

『……以上です』

 

 

 

俺は生徒会に行って、一ツ橋の内面の事情を説明した。

無論、生徒会も先生も逮捕まで考えていなかった。

 

あくまで反省をしてもらうという程度で、課題を提出してもらう程度だった。

 

 

『………』

 

 

 

高坂先輩の視線が鋭く俺を捉える。

やはり、昨日の逃避行動を取った事でご立腹しているのだろうか。

 

 

『あの、高坂先輩』

 

『何かな?』

 

『昨日、逃げてしまってごめんなさい』

 

『………』

 

 

『弟君、逃げたって何の事?』

 

 

 

音姉が間髪入れずに質問する。あまり話したくないが、黙っているのもおかしい事だ。

俺は一ツ橋のストーカーまがいの事や、高坂先輩の制止を振り切って逃げた事も説明に加えた。

 

今度は、音姉も訝しそうな表情をする。

 

 

 

『なんで逃げたの?また勝手な行動して……』

 

『生徒会の人間では腹を割って話してくれなかったから、その……』

 

 

思わず口ごもる。

面倒を避けたかったのが本心だが、生徒会にとって迷惑な行動を取った事には違いなかった。

 

 

『それはどうでもいいの!』

 

 

 

高坂先輩が俺と音姉の間を割って入る。

俺はきょとんとして、次の言葉を待った。

 

 

 

『あんなに足、速かったっけ?』

 

『……足は速い方ですよ』

 

『それは前から知っていたけど、あんなに早く走るのは見た事ないわ』

 

『トレーニングの成果かも』

 

 

話題が逸れて言い忘れそうなので、一ツ橋の言いたかった本心を伝えた。

『警察は絶対に呼ばない事。それで謝るし、全て解決です』

 

それで全て問題は解決するのだから。

だが、生徒会員らと高坂先輩は不服そうだった。

 

 

 

『……桜内君、出しゃばり過ぎるよ』

 

 

高坂先輩は、俺を弟君と呼ばず、苗字で読んだ。

それ自体、感情の表れが読めてしまう。

 

 

 

『そうだったかも知れません。だが実際には……』

 

『後はこちらでやるわ。もう義之君はこの問題に関わらないで』

 

『だが実際には……』

 

 

『関わらないでと言ったはずよ!』

 

『………』

 

 

 

高坂先輩は感情を隠さず、俺を制止させる。もはや、有無も言わせずなのか。

実際には、生徒会や先生では口の開かない問題だったはずだ。

 

しかし、相手の感情を考えるとこれ以上の口論は不要だろう。

かえって、怒りを買うだけだ。

 

 

 

『……解りました。警察を呼ばない事も確認とれたので、これで失礼します』

 

『………』

 

 

 

~公園~

 

 

 

『この問題に振り回されっぱなしだな、俺……』

 

 

ランニングしながら、心で思った事が口に出る。

今度こそこれで終わってほしい問題だと切に願った。

 

帰宅時に、一ツ橋に会ったので事情を伝えた。

とりあえず、素直に謝ってくれる事だろう。

 

今日はなるべくスピードを抑えて、長く走ろう。

ずっと無心で走っていたい。

 

 

 

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