D.C.ⅡS.C. 〔1〕   作:消雪

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〔15〕

~家~

 

 

トレーニングを終えて帰宅すると、家の前で音姉の姿が見えた。

黙って警察を呼んだ事もあり、音姉を怒る他できなかった。

 

俺自身の感情がままならず、今は家への出入りを禁止している。

 

 

『おかえり、弟君』

 

『………』

 

 

 

俺は音姉の挨拶を無視して家に入り、冷蔵庫を開き、2リットルのスポーツ飲料をそのままガブ飲みする。

音姉のぎこちない笑顔が、俺の脳で何度も再生される。

 

何もかも滅茶苦茶だという素直な感情が表に出てしまいそうだ。

ペットボトルを食卓の机に叩きつけ、イスを乱暴に引っ張り出してドスンと座る。

 

 

『吐き気がする……』

 

 

 

今度は感情が隠しきれず、苛立ちの行き場を無くした感情が言葉となって口から漏れる。

 

 

 

『………』

 

 

 

後2日もすれば、停学処分期間が終わり学校生活も再開する。全然、登校する気になれない。

あいつらに会うのも、今では気まずい感覚にある。

 

友達にそういう感覚を持つのは、間違っているのかも知れんが……

 

停学処分を受けた直後、一ツ橋の約束を破った事に責任を痛感するしかなく、誰とも話す余裕はなく、俺も一ツ橋と同様に、着信拒否にしていた。

俺の荒んだ姿を、誰にも見られたくなかった。

 

ただ、一ツ橋からは電話が来るかも知れないので、一ツ橋のみ電話が可能な状態にしている。

 

 

『………』

 

 

 

何となくスマートフォンを開いた。

毎日の様に来るアップデートとニュース以外、何も通知は来ていない。

 

 

『……腹が減っては何とやら、か』

 

 

 

重い足取りで野菜炒めの用意をし始めた。

停学になってから、重苦しい毎日が続いている。

 

 

 

~通学路~

~早朝~

 

 

停学期間もあっという間に過ぎ去り、こうしてカバンを肩からぶら下げて登校している。

 

朝の6時前に登校する必要はどこにもない。ただ、ひたすら早朝の寒さを感じさせる。

生徒の視線を感じざるを得ない事を意識してか、誰も通学してそうにない時間に通学している。

 

 

『うぅ、なんつー寒さだ』

 

 

 

夜の街頭が如何に明かりだけでなく、わずかな暖かさを作っているのがわかる。

凍てつく風が刃となって、顔に刺さるかのようだ。

 

 

~学校~

~教室~

 

 

 

『一番乗り……』

 

 

学校内では、まだ2人しか生徒を見ていない。

ようやく6時25分が経過し、殆どの生徒は朝食すら取っていないだろう。

 

あいつらがまだ布団の暖かみの中で睡眠を取っているのを想像しながら、自分の席に着く。

 

そのまま席で座っていると睡魔に襲われそうなので、突破的に立ち上がり、窓の外の朝焼けを見ながら時間が過ぎるのを待つことにした。

 

 

『………』

 

 

 

疲れるんだよ、ホントに……

 

 

……

 

 

妙な騒がしさが耳に入り、目を開ける。

ほぼ同時に、俺の視界に幾つもの戸惑った表情がある。

 

 

『………』

 

 

 

ちょっとの間、教壇で座っていたつもりが完全に眠っていたようだ。

肩にちょっとした重量に気づくと、コートが2枚重ねられていた。

 

 

『おはよ、義之君』

 

『………』

 

『そろそろ起きないと、先生が来ちゃうよ』

 

『……ああ、ありがと。これ』

 

 

茜の声が、俺の耳を超えて心にまで優しく届く。

寝ぼけた脳を頭を振って、強引に起こす。

 

 

 

『もう1枚、このコートは誰のだ?』

 

『野暮な質問するのは無しでいこうよ』

 

『小恋の?』

 

 

『………』

 

 

 

……あれ、何だか小恋まで元気が無さそうだ。

とりあえず、小恋に向かって手を振ってみる。

 

けど、レスポンスは無しで悲しげな表情を浮かべている。

 

 

『義之君、ちゃんと小恋にもお礼を言ってあげてね』

 

『……ああ』

 

 

 

何気ない挨拶にちょっとした怖さを感じた。

と、言ってもいちいち気にする余裕がない。

 

 

『小恋、サンキュー』

 

『右腕、もう大丈夫なの?』

 

 

 

そういえば、素手で窓ガラスを割ってしまったんだっけか。

包帯が面倒になったので、痛々しい傷だらけの右腕をのぞかせている。

 

 

『ああ、問題ない』

 

『………』

 

『あ、ありがとな。これ』

 

『……心配してたんだよ』

 

 

『………』

 

『……義之』

 

『……後で説明させてくれ』

 

『………』

 

 

『友達に着信拒否する言い訳、今から見ものだわ』

 

『………』

 

 

雪村がさらっと痛いポイントを突いてきた。

いつもより真顔になっている様で、どこかトゲを感じる。

 

どいつもこいつも、俺が一番しんどいというのに……

 

 

『その着信拒否の設定を元に戻しておいてね』

 

『ラジャー』

 

 

 

俺はポケットからスマートフォンを出すと、手早く設定をタップして元に戻そうとした。

その時、不意に電話の着信音が鳴った。

 

……一ツ橋だ。

 

 

『………』

 

『どうしたの?』

 

『……ちょっと授業サボるわ』

 

『義之!!』

 

 

 

小恋の怒った声を後にして、すぐに電話に出てみた。

何だかわからないが、これを逃すとチャンスが無い様な感覚を覚えた。

 

 

『……一ツ橋か』

 

『ひょっとして学校か、今?』

 

『ああ、停学から復帰した』

 

『………』

 

 

 

一ツ橋にとってはアテが外れたのか。2分ほど沈黙が続く。

だが、電話を切ろうともしない。

 

何か込み入った事情が出来たのか勘ぐってしまう。

昼休みまで学校をサボる計算で、外で会えないか提案した。

 

 

 

~公園~

 

 

 

『……一ツ、橋』

 

『久しぶりだな』

 

『………』

 

『どうした?』

 

 

痩せたな、という言葉を口にせず手軽な話題を探す。

 

一ツ橋と会った途端に、罪悪感に見舞われる。

次の言葉が上手く出ず、顔を覆ったりしてしまう。

 

 

 

『悪かったな、約束を破ってしまった』

 

『お前じゃないだろ。なぜ、気に病むんだ?』

 

『………』

 

『……正直、感謝している。俺の為に本気で怒り、停学にまでなったんだろ?目の前で暴れてくれた時は、快感すら覚えた』

 

 

『……悪かった』

 

『だから謝るな。話が進まん』

 

『……再登校できそうか?』

 

『……限界を感じる。出来るなら転校したいくらいだ。何もかもやり直したい』

 

 

何か妙に会話を続かせる事ができない。

何を言ってあげたらいいのか解らなくて、少しパニックになって頭をかきむしる。

 

 

 

『いや、違うんだ。あの学校は辞める事にしたんだ』

 

『………』

 

『俯くな。ため息も出すな。俺にしてみれば、もうこれしかないんだ』

 

『………』

 

 

 

恐らく、一ツ橋が学校に登校しても厳しい現状に置かれるのは先ず間違いない。

だが、何とかしてやりたいというのも俺の本心にはある。

 

俺が一ツ橋の話し相手をしてやるほどの聖人君子な一面を持ち合わせておらず、沈黙を守る自分に反吐が出てしまう。

 

 

『大丈夫か?ずっと無口になってるぞ』

 

『大丈夫だ。俺は、何も、問題ない』

 

『ところで、今学校をサボって来たのか?』

 

『まぁな』

 

 

『そうか、じゃあ先生には一ツ橋の相談を受けていたとでも言ってくれ。もう行くわ』

 

『……すまない』

 

『謝るな!』

 

 

口調は厳しいが、笑いながら言っていた。

俺は冷静さを保つことができず、心が浮ついていた。

 

 

……

 

 

 

既に一ツ橋が帰った後だが、俺は公園のベンチに腰を掛けて呆然としていた。

浮ついていた心も、すっかり冷静さを取り戻している。

 

一ツ橋の転校、これはもう止めようがない。

あいつにとっては一からやり直したい。それが全てだと思っている。

 

そう発言した時のあいつは、表情が明るくなったのが印象的だった。

俺はずっと釈然としないままだった。

 

 

……学校に戻るか。

 

 

 

~学校~

~靴箱~

 

 

この時間は4限目の授業中だ。

何の授業だったか解らないが、とにかく大目玉を食らう事だけは予想できた。

 

言い訳などしようがない。

保健室で具合が悪くなったと言う事もせず、教室へと歩いた。

 

 

~教室~

 

 

 

ドアを開けると、先生と生徒たちの視線が一斉に注がれる。

戸惑った奴、寝ぼけている奴、無表情な奴、そして怒っている先生。

 

 

『桜内!、どこへ行っていた?』

 

『……公園』

 

『課題は免れんぞ。またサボりか?』

 

 

 

そうです。

適当に返事しようとしたが、自分の意思とは全く別の言葉を返していた。

 

 

『一ツ橋の相談を聞いてました』

 

 

 

なぜか、先生は狼狽している様子を見せて、すぐに返答しようとしない。

分かりやすいほどに慌てている。

 

 

『一ツ橋は元気にしているのか?』

 

『痩せた印象があったので、元気かどうか分かりません』

 

『……では、今までお前には相談していたのか?』

 

『今日が初めてです』

 

 

 

質問が矢継ぎ早に飛んできたが、後は知らぬ存ぜぬで通してしまい、俺に聞くだけ無駄という態度を決め込んだ。

授業を進行しない訳にもいかず、先生は授業を再開し始めた。

 

 

 

 

 

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