D.C.ⅡS.C. 〔1〕   作:消雪

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〔16〕

~学校~

~昼休み~

 

 

雪月花の3人と、俺はグラウンドの隅へと移動した。

グラウンドの隅は草が生い茂り、学校からは俺たちが丸見えだ。

 

学校からここまで約200メートルは運動場が広がり、何の障害物もなく、誰かが近づけば必ず解る。

 

 

 

『ちょっと義之、なんでこんな所で食べるの?』

 

『会話の内容だけに盗み聞きされたくない』

 

 

『杏ちゃん、どう思う?』

 

『やり過ぎではないと思う』

 

 

 

学校の放送では職員室に来る様に言われ、生徒会の視線をも意識せずにはおれず、一ツ橋の話題の時は細心の注意を払う事にした。

 

生徒会がわずかでも俺や一ツ橋の情報を聞きたいのであれば、用心しすぎではない、はず。

 

 

『早速だけど、学校で暴れたのは約束を破られたから?』

 

『………』

 

 

 

俺は弁当のタッパーを開きながら、小恋の問いにうんうんと頷く。

冷凍食品をレンジでチンしただけの弁当に、自分の弁当とは思えない酷さを感じた。

 

 

 

『でも、あれは……』

 

『逮捕が目的ではなかったからいいのか?俺と一ツ橋が約束したのは、警察を呼ばない事だ。語弊を利用して、正当化を図る所に虫唾が走る』

 

『そっか、そうだよね』

 

『そうだよ』

 

 

『それとは別にこの1週間、私達すごく心配してたんだよ』

 

『それはすまんかった。ただ、俺の怒り狂った姿を誰にも見られたくなかったんだよ』

 

『着信拒否までする事なの?』

 

『……ごめん』

 

 

『もう一度!』

 

『ごめんなさい』

 

 

 

花咲と雪村は黙ってこちらを観察している。

小恋は二人の様子をお構いなく、恐らく溜めていたであろう感情と疑問をぶつけてくる。

 

 

 

『生徒会の動きや先生はどうしている?』

 

『えっ?』

 

『一ツ橋への対応はどうなっている?』

 

『それは……』

 

 

『質問に答えなくていいわ、小恋』

 

『?』

 

 

さっきまで黙り込んでいた雪村が突然口を挟む。

俺は黙って次の言葉を待った。

 

 

『生徒会の事は後で手早く説明するわ。今は桜内、あなたの事だけを話して』

 

『……わかった』

 

 

 

雪村は俺以外の話になる事を嫌った様だ。

昼休みもそこまで時間が長くないので、説明は簡略化した。

 

細かい話は、また後で出来るだろう。

 

 

『俺自身……、前回の運動会の横やりが受け入れられない様だ』

 

『義之、それはもう仕方がないって』

 

『いーや、次の運動会もトトをやる予定だ。次は徹底して隠匿する』

 

『もう……』

 

 

『それ、私も一枚噛ませてもらうわ』

 

『私もーー。杉並君に聞けばいいのよね』

 

 

 

二人が和んだ様子を見てホッとする。

女の会話の華やかさというのは、どこか心が安らぐ。

 

これがもし、バカ笑いしているバカ女なら騒がしいとしか受け取れないものだが。

 

 

 

『じゃあ、今のトレーニングはトトだけが目的なの?』

 

『いや、高坂先輩の得意分野であるランニングの自信を潰す目的でもある』

 

『自信を潰すって……』

 

『最初は前回の運動会、今は一ツ橋の事。何かしらやり返したいんだ』

 

 

『ランニングに勝って、それで終わり?』

 

『嫌味の一つでも言おうか。たったの半年の練習で勝ってしまいましたねーとか』

 

『義之、それは酷いよ』

 

『……ま、考えておく。俺の感情次第といったところだ』

 

 

『そんな事をせず、非公式新聞部に入部してみたらどう?』

 

『小恋にしては大胆な意見だな。再入部して学校内でイタズラしまくった方が良かったかもな』

 

『そういう意味で言ったんじゃないよ!』

 

『でも、自分の頭で決めてここまで来たんだ。今更、変更する気はない』

 

 

『勝算はあるの?』

 

『苦戦を強いられる事だけは間違いない』

 

『でも100メートルのタイムとか、高坂先輩と比較しないの?』

 

『杉並の調べによると、ほぼ互角らしい。もう3ヵ月も無いが、やれる所までやるよ』

 

 

『思ったより期待できそうね。義之ならこけない限りやれるわ』

 

『……たったの3ヵ月で高坂先輩に並ぶとか凄すぎるんだけど』

 

 

『非公式新聞部に居た時は、生徒会から逃げるのが仕事だったからな。元々、ランニングには自信があった』

 

 

一呼吸置いて、雪月花の顔を見る。

向こうは『?』という感じの視線を返してくる。

 

こうした俺の日常にあった顔見知りが居ると、安心感に満たされる。

 

一人で殻に閉じこもるより、皆に打ち明けた方が良かったのではと後悔の念に駆られる。

 

 

 

『話は変わるけど、今日一ツ橋君と会っていたの?』

 

『ああ……』

 

『学校の単位の事もあるし、登校できそう?』

 

『いや、……話では転校を念頭に置いているようだ』

 

 

『ええっ!そうなの……』

 

『………』

 

 

 

一同に黙り込んでしまう。

出来るなら再登校して、今の学校を卒業すればいい。

 

だが、一ツ橋の場合、財布の盗難事件による厳しい目と現状に晒される。

友達も去ってしまい、学校生活のどこに楽しさを見出す事ができるのか。

 

転校を反対する理由が見当たらない程だ。

 

 

不意に雪村が視線を学校側に向けた。

俺もつられて、雪村の視線の方に顔を向ける。

 

顔の知らない生徒が2人、こちらに向かっている。

俺は小声で、今の会話内容は秘密と指示する。

 

俺たちはまだ食べ終えていない昼食を再開した。

 

 

 

『桜内さんですよね?先生が呼んでいますよ』

 

『後で行くよ。今は無理だ』

 

『放送で随分長い間呼び出しています。すぐに職員室まで来て下さい』

 

『………』

 

 

一先ず、雪月花との話は中断しないとダメっぽいな。

だが学校外なら、ほぼ無限に内緒話が可能だ。

 

俺は重い腰を上げた途端、小恋が止めに入った。

 

 

 

『今は大切な話をしている最中です。後にして下さい』

 

『……こちらも大切な話があります』

 

 

『小恋、また場所を変えて話すよ』

 

『だって!、まだ……』

 

『いいんだよ。こいつらは俺を半ば強引に連れていくのだから、何にも答える気はない』

 

 

俺は嫌味を送付して、聞こえる様に言った。

生徒の表情が失敗したのか、ムカついたのか何とも読めない様子だ。

 

 

……

 

 

 

~職員室~

 

 

 

『もう一度聞く。今日、一ツ橋と相談をしていたのだろう?』

 

『そうです』

 

『どんな相談事なんだ?』

 

『繰り返しますが、他言無用だと言われました』

 

 

『このまま登校しないと彼は留年になってしまう。それでもいいのか?』

 

『………』

 

『本人と連絡が取れないんだ。頼みのツテは桜井だけだ』

 

『………』

 

 

 

俺と先生らとの押し問答が続く。

留年を理由に、一ツ橋を強引に登校させる事しか考えていない。

 

一ツ橋の精神的な考慮が全くなく、反吐が出そうだった。

卒業さえすれば、精神がどんな状態になってもいいのだろうか……

 

 

 

~生徒会室~

 

 

 

先生らはラチがあかないと見て、今度は生徒会員と話す事になった。

先生の姿は見えないが、盗み聞きしているのだろう。

 

しかし、高坂先輩を見るのも久しぶりだ。

話がどのような展開になるのか、一興ではある。

 

だがもっと気になったのは、音姉の姿が何処にもいない事だ。

 

 

 

『久しぶりね、弟君』

 

『……お久しぶりです』

 

『さてと……』

 

『………』

 

 

 

一呼吸を置いたと思ったら、中々話をしようとしない。

俺から切り出す事もせず、腕を組んで待った。

 

 

 

『一ツ橋君は元気にしてる?』

 

『元気にしていると思っているのですか?なぜ約束を破ったのか聞きたいくらいです』

 

『生徒会内では反省してもらおうとしただけよ。弟君も嫌な思いをしたでしょ?』

 

『何であろうと約束は約束です』

 

 

『このままでは一ツ橋君、留年になるよ』

 

『……その展開ですか』

 

『それでもいいの?』

 

『……同じ事を俺が本人に言った気がします。後の事は知りません』

 

 

 

最初から俺はまともに話す気などない。

何時間かかろうが、のらりくらりとはぐらかす事しか考えていなかった。

 

しかし、この重要な話においてブレーンである生徒会長の音姉が居ないのは釈然としなかった。

不自然すぎて突っ込まずにいられなかった。

 

 

 

『ところで、音姉は?』

 

『……喋ったら一ツ橋君の事、話してくれる?』

 

『………』

 

『………』

 

 

 

俺は軽く嫌な顔を向けた。駆け引きにもなっていない。

俺が家に帰って、音姉に聞けばわかる事だ。

 

最も、最近は話す事もなくなってしまったが……

 

 

 

『喋らなくて結構です。そろそろ話を切り上げたいのですが……』

 

『そう……』

 

『では、失礼します』

 

『……音姫は生徒会を退部したわ。正確には今は引き留めている最中だけどね』

 

 

 

衝撃な言葉に無意識に足が止まった。

生徒会を抜けた!?

 

一体なぜ……

 

 

 

『なぜ、音姉は退部を申し出たのですか?』

 

『元々、音姫は警察を呼ぶのには反対していた。弟君の約束を破る事になるし、事態の深刻性を招く事も危険視していた』

 

『………』

 

『謝意のない一ツ橋を感情的に許せず、生徒会と先生とで内々に話を進めた。その結果、弟君は大暴れして停学。一ツ橋は不登校になって今に至るわけ。さすがに窓ガラスを割ってまで侵入するとは読めなかったわ。あれは、完全に私の誤算』

 

 

『………』

 

『一ツ橋の将来を大きく変わる事になれば許される事ではない。音姫は会長としての責任を取ろうとしているの』

 

『………』

 

『全部私たちが悪かったの。もし気が変わったら、いつでも話に来て。いつでもいいから』

 

 

 

俺は無言で速足に生徒会室を出た。

まさか、そんな話になっていたとは微塵も思わなかった。

 

今日の分のトレーニングをやるだけやって、すぐに音姉の話を聞いてやらねば。

予想以上の深刻さに、感情的な部分が消え去り、ただ心配だけが残った。

 

 

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