D.C.ⅡS.C. 〔1〕   作:消雪

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〔17〕

~家~

 

 

あれ……

学校から帰宅したばかりなのに、家の中から夕ご飯の美味しそうな匂いがする。

 

恐らく音姉だろう。由夢ではない、はず。

自分の切羽詰まった心境とは裏腹に、俺の家の中は家庭的なムードがある様な……

 

家のドアを開けて、すぐに正体を確認した。

 

 

 

『あ、おかえりなさい。ただいまくらい言ってよ』

 

『……ただいまー』

 

『おかえりー』

 

『あ、あの、音姉?』

 

 

『何よ。今夕ご飯を作っているんだから早く手伝ってよ』

 

『……オッケー』

 

 

 

状況は飲み込めないが、何だか明るそうだったので一緒に夕飯を作る事にした。

こうなれば、夕ご飯の準備の時に聞こう。

 

自分の部屋に走ると、制服をその辺に脱ぎ捨てて、ジーパンとTシャツ、セーターと手早く着替える。

 

 

~食卓~

 

 

 

『おまたせー』

 

『まだ手を洗ってないでしょ』

 

『洗ったよ』

 

『手洗いの時間が短かった。やり直し』

 

 

……人という者は、どこにでも聞き耳を立てているものだ。俺もそのタイプの人間だが。

今度は、肘の下から指の間、爪の溝もしっかり時間をかけて手洗いをする。

 

……もう、大丈夫だろう。

 

 

 

『おまたせ』

 

『手が汚いと食中毒になる事もあるんだから。冬は特に気を付けないと』

 

『すまん、でももう大丈夫だから』

 

『じゃあ、キュウリを切ってくれる。いつものトマトとキュウリのサラダだよ』

 

 

何だか和やかな時間が流れていく……

キュウリを薄切りにし、塩をピッと足してよく混ぜ、水分を取る為に放置。

 

その間にトマトを一口サイズに切っていく。

 

何だかな……。そろそろ、本題に移ってもいいだろう。

 

 

『あのさ、音姉?』

 

『何よ!』

 

 

 

いきなり振り向き、あまりの剣幕に後ずさってしまった。

右手には包丁まで持っている。

 

 

『音姉、それ不用意に持ったら危ない』

 

『弟君が悪いんだよ。ずっと家に入れてくれないんだから。こうするしかないでしょ』

 

『………』

 

 

 

また料理に専念し出す。料理の手早さは変わらない。

けど、今度は沈黙してしまい、空気が一層悪くなった。

 

 

『事情は説明したかと。色々、錯乱してて一人になりたかったというか……』

 

『今日は弟君にしっかり栄養をつけるんだから』

 

 

 

何だか上手く会話が出来ていない。音姉の方もギクシャクした感じはある。

遠回しに言うのを止めて、単刀直入に尋ねる事にした。

 

 

『生徒会を止めるの?』

 

『……そうだよ』

 

『でも、いいのか?唐突すぎないか?』

 

『いいの。弟君を停学にさせちゃったし、一ツ橋君はいつ学校に復帰できるのか解らない。転校する様な話も出て来ている』

 

 

『……音姉のせいじゃない。警察を呼んだのも反対していたはずだ』

 

『もういいの。その問題は疲れちゃったから、弟君と普段の生活に戻らせて』

 

『解った。いつ家に来てくれてもいいから』

 

『……うん』

 

 

 

俺は手を洗うと、自然と音姉の背中をさすっていた。

何の思考もなく、なぜ自分がこの様な行動を取っているのかも分からない。

 

音姉は、何もレスポンスを返さず、一心不乱に料理を作り続けている。

俺は音姉の横顔を見ながら、背中を何度も上から下へさすり続けていた。安心させる様に。

 

鼻をスンスンする聞こえて、泣き出す前に音姉を抱きしめていた。

 

 

 

『苦労かけてすまんかった。音姉も一人の女の子だもんな。今はいっぱい泣いて』

 

『……うん』

 

『感情をため込むよりは、ずっといいから』

 

『……うん、寂しかった』

 

 

 

音姉がため込んだ感情を出して泣いていると、俺まで誰かの胸を借りて泣きたくなった。

……やっぱり、すっきりするのかなという錯覚に陥る。

 

いやいや、男の俺がしっかりしないでどうする!

自分自身を奮い立たせた。

 

 

……

 

 

 

『そ、その状態は一体……』

 

 

由夢が控え気味に家に入ってくると、この状況を飲み込めず目を丸くしていた。

音姉は我関せずと、ずっと俺の胸に顔を預けている。

 

 

 

『お姉ちゃん?』

 

『………』

 

『お姉ちゃん!』

 

『………』

 

 

微かに、もうちょっとだけという声が聞こえた。

音姉は殆ど甘えん坊の様になって、俺から離れようとしない。

 

俺の肩をしっかり抱きしめて、力が緩まない。

俺も身動きが取れず、音姉を抱きしめている。

 

音姉も由夢の声は聞こえているはずだが、返そうとしない。

 

 

 

『兄さん!』

 

『ど、うした?』

 

『それ、説明してよ!』

 

『ドラマのワンシーンというか……』

 

 

『兄さん!!』

 

『聞こえてるよ。大きな声出すなって』

 

『どうなってるの!?』

 

『音姉の休息時間というか……』

 

 

『兄さん!!』

 

『近所迷惑だからよせって。もうちょっとだけだってさ』

 

『………』

 

『食事の支度ももうすぐだからさ』

 

 

 

激怒している様子だったが、一変して笑顔になり、覚悟だけしておいて下さいと恐怖の一言を残して居間に向かった。

今度は由夢の対応もしないといかんのか……

 

しかし、このゴタゴタが妙に楽しくも思えた。

 

 

 

『弟君にイジワルしてみた』

 

『……勘弁してくれ』

 

『……弟君の胸の中に居ると、びっくりするほど安心感を覚える。さっきまで落ち込んでいた自分が何処にいたのかと思う位に』

 

『胸の中で泣く……。ツライ時は良さそうだな。俺もいつかそうなってそうだ』

 

 

無意識に発言していた。弱気な一面が不意に出てしまった。

だが、音姉は聞いていないフリをした。

 

 

 

『……夕食にもどろっか。由夢ちゃんも待ってるし』

 

『下ごしらえが済んだら後は頼むよ。由夢の機嫌を取っておきたい』

 

『……怒ってそう?』

 

『凄まじい程にな。自分で何とか出来ない場合、ヘルプを頼む』

 

 

考えてみれば由夢と会うのも久しぶりだ。

俺が荒れていた頃、壁を殴って大きな音を立てていたので、さすがの由夢も怖かったらしい。

 

だが、いつの間にか形勢逆転して、俺は由夢の方が怖く感じる。

 

結局、その日の内に機嫌を直してくれなかった……

でも、時間の経過で直る気もした。

 

今は自分のやる事もあるので、そっちに集中したい。

 

 

 

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