~学校~
~昼休み~
俺は杉並に呼ばれて、運動会とトトカルチョの打ち合わせをしていた。
うちのクラスがもう一度優勝するのは至難の業というのは、依然変わっていない。
何とか死に物狂いのやる気を出させて、少しでも勝率を大きくしないといけない。
この部分が地味に頭の痛い問題だ。今の所、いい案が浮かばないので保留にしている。
後、個人的に気になるのは、杉並が提案した特別な種目が通ったかどうか……
『どんな展開になっている?』
『喜べ桜内。予想外の吉報になったぞ。全学年の種目を入れる事に成功した。今回はそれらがハイスコア扱いだ』
『……具体的には?』
『200、400、600、800メートルをクラスの4人までを代表にして走る感じだ。午前は200と400。残りは午後からだ。おまけに1位のみにスコアが入る』
『俺たちに用意された種目の様だな……』
『優勝を狙いなら、これらを絶対に勝たない限り、うちのクラスの優位性は保てないだろう』
『………』
『今回、運動部の多いクラスに賭けている生徒が多いが、大穴扱いをしているクラスはない。まぁこれからオッズの変動が激しくなるがな』
『まだ3ヵ月も先なのに賭けているのか。気の早い奴らだ』
『早期に賭けた奴らは、配当金に少しだが色を付けてもらえるからな』
『……ゲーム販売みたいなマネはよせ』
『だが、まだまだ予断が出来ない事は確かだな。何もかもだ。臨機応変の対応が今まで以上に必要だ』
~廊下~
中間報告を聞いた後、俺は今になって不思議と思いながら自分の教室へと歩いていた。
杉並の提案が通った事に釈然としなかった。
しかも、ある種目をハイスコアにする事まで……
『………』
……
…
俺は教室のドアを開けようとする前に、生徒会の人間に呼び止められた。
話を聞くと、どうやら高坂先輩が呼んでいるらしい。
さすがに、これ以上授業をサボると本気で怒られそうで後にしてほしいものだが……
~生徒会室~
俺は一体、何度ここへ足を運ばないと行けないんだ。
しかも、デジャブの展開が読めてしまうので、話す前からうんざりしている。
『来たね、弟君。昼休みもすぐ終わるから、手早くいくよ』
『………』
やけに自信を感じさせる……
俺は全ての話題を禁句扱いにして、迂闊にこちらから喋らない様にした。
『一ツ橋君についてだけど』
『………』
『どう、弟君?』
『……今日はいい天気ですね』
俺はあからさまに話題を逸らした。
もう、答える事は話題逸らしくらいしかできない。
『杉並の提案でわかるかな』
『………』
少しだけ話が見えた。
俺に隠れて交換取引をやらなくてもいいのに……
だが、ここで熱くはなれない。
むしろ、その提案した種目が通らないと、うちのクラスが勝つ事は不可能とも言える。
『誤解しないで。私が面白いと思っているのは、弟君が私に挑戦しようとしている事。本当に大丈夫なのかな』
『………』
『ランニングで本当に私に勝てるのかな?』
『今日は曇りそうですね』
『いいわ。杉並から提案した種目は、生徒会からも先生に勧めてあげる』
『……ありがとうございます』
『けどそれとは別に、弟君には一ツ橋君を登校する様に説得して』
『………』
一ツ橋……
やはり、今も悩みの最中だろうか……
『………』
やはり出来ない。
俺が先生や生徒会を介して登校させるなど、あいつも嫌な感覚を覚えるだろう。
……ダメだ。
高坂先輩との勝負は、運動会でなくても出来る事だ。
『話は無かった事にして下さい』
『ちょっと、本当にそれでいいの?』
予想外の対応だったせいか、高坂先輩は慌てている様にも見えた。
冷静さを保とうとしているが、いつもの余裕がない。
『あいつは今苦しんでいる最中です。何かの取引に使うなど到底できない事です』
『………』
さっきまで自信に満ちていたのに、黙り込んでしまった。
俺もこれ以上は無用だと思ったので、教室に帰る事にした。
『ちょっと待って。登校しないと留年になるよ。それでも弟君はいいの?』
『……今日は雨が降りそうですね』
『今はふざけないで』
『ちゃんと答えているつもりです。あくまで先生や生徒会ではなく、一ツ橋のサイド側で』
『………』
『………』
『雷になりそうなので、もう帰ります』
『……弟君』
悲しげな高坂先輩の表情が心に残った……
自分の行った行為に後悔しているのだろう。
何より、生徒会側が一ツ橋の登校拒否の原因を作ってしまっているので、必死に留年になるのを止めようとするのは解らんでもない。
それでも、今は一ツ橋自身が悩み、戦っている最中であって、外野が強引に登校させる時ではない。
今は登校より、心のケアが最優先のはずだ。
~廊下~
自分の教室に戻る途中、偶然にも杉並を見つけた。
俺は杉並に詰め寄り、一ツ橋を特別種目の取引材料に独断で話を進めた事を問いただした。
『杉並、なぜ話を勝手に進めた?』
『何の話だ?』
『とぼけるな。生徒会に特別種目を通す代わりに、一ツ橋を登校させる様に交換条件を飲んだだろ?』
『悪いが、何の事かさっぱり解らん』
……杉並がウソをついている様な様子は見られない。
特別種目を通した時の詳細を説明してもらう事にした。
また、さっき俺が生徒会室で高坂先輩と話した事も、杉並に伝えた。
……
…
『確かに、お前が高坂先輩に勝つつもりでいる事は話した。本人も楽しそうで全学年種目に乗り気だった。だが、一ツ橋の話などしていないぞ』
『……そうなのか、それは悪かった。ではさっきの生徒会での話はどうなっているのだろう』
『推測の話だが、直前で交換条件に切り替えたんじゃないのか。お前しか一ツ橋とコンタクトが取れないから、結構なりふり構わずになってきているな』
『……止めにしよう。推測の話など幾らでも作る事が出来てしまう。根拠が無いなら、根拠のあった所まで思考を戻しておこう』
『一つ確認したいが、トレーニングは順調か?』
『今の所はな。3ヵ月もあるのにあまり休息を増やす訳にもいかんし。かと言っても足を痛めたら水の泡だ』
『……放課後、もう一度打ち合わせしておこう』
『だな』
放課後、もう一度杉並と話し合いになり、特別種目は俺と杉並の2人で出場する予定にした。
まだ決まった訳ではないが、恐らく足に自信の無い奴らは、こんな種目に出たがらないと思う。
全クラスが足の速い生徒で競う事になったら、足の遅い生徒はいい見世物だ。
それに杉並は足がかなり速い方なので、俺としてはこれ以上の適任者はいないと見ている。
変なハイテクだけは使わない様に、釘をさしておいた。