D.C.ⅡS.C. 〔1〕   作:消雪

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〔19〕 4ヵ月後

後、2ヵ月……

 

 

今までの自分と比べると、ここまで走ってなぜ息切れがしないのか?と不思議に思うほどだ。

着実なトレーニングの効果を実感している。

 

運動会が近づくと、運動部の邪魔にならない様に運動場を使う事が出来るので、放課後俺と杉並、お互いの調整具合を確認し合う事にした。

 

 

 

~運動場~

~放課後~

 

 

 

準備運動だけを十二分に行い、体をしっかり温めた上で俺と杉並で勝負する事にした。

どちらが運動場のトラックを4周、先に走り終えるかというシンプルなものだ。

 

練習ではあるが、本番を想定した練習だ。

 

太ももを軽く叩きながら、スタート地点に着いた。

実戦練習は、絶対にやっておかないといけない。

 

意外に自分のミスに気づく事ができるので、必須とも言える練習だ。

 

 

 

『桜内、本番のつもりでやるんだ。準備はいいか?』

 

『ああ。そっちは?』

 

『それより解っているな?』

 

『解っている』

 

 

嫌でも運動部の視線が気になってしまう。

今日、ここで初めて自分の実力を外に知らせる事になる。

 

運動部の視線も感じざるを得ない。

杉並が走る所を見せるだけでも注目するのに、4ヵ月のトレーニングを費やした俺までいる。

 

しかも、2人共本気で走る気でいるので、練習を中断してまでこっちを見ている奴らもいる。

 

 

 

『お前が負けたら、うまい棒チーズ味10本だぞ』

 

『お前こそ、とんかつソース味10本だぞ』

 

『面白い。では、お手並み拝見といこうか』

 

『俺は地獄の思いしながら練習してきたんだぞ。お前こそ大丈夫か』

 

 

……お互いどうでもいい熱まで入っている。

 

俺と杉並の頼みで、雪月花にも協力してもらい運動場にいる。

 

花咲には俺と杉並のタイムを計る役を。

杉並の提案で、雪村には俺たちが走る様子を、陸上部はどの様に受け止めているか観察を。

 

小恋は、なぜか自分が走る訳でもないのにやたらと緊張しだしたので、スタートの合図をしてもらう事にした。

 

 

 

『じゃあ、いい?』

 

『ああ』

 

『いいんだよね?』

 

『小恋が緊張してどうする?よーいドンを言うだけでいいから』

 

 

『じゃあ、よーいドン』

 

『もう少し区切って……、杉並!?』

 

 

 

だが、杉並は一気に駆けだした。

俺も慌てて追いかける。あれをスタートの合図とは思わないはずだ。

 

……あいつ、うまい棒の為だけにわざと走ったな。

乗せられてしまったが、俺も軽快な走りで杉並の後を追う様に走る。

 

 

1周……

3周目までは、スタミナを常に温存しながら走り続ける。そう自分に言いきかせた。

杉並は結構早く走り続けているので、距離が少しずつ開いて、自分が不安に陥る様な感覚を覚える。

 

……いや、焦るな。自分のペースを守って走り続けるんだ。

 

 

2周……

杉並とは40メートル位の差を感じている。

まだスタミナが続くのか。まさか、あんなに走るのが得意だったとは……

 

俺は半ば、勝ちを諦めた。

もういい、自分の練習に切り替えるんだ。

 

 

3周……

俺は温存していたスタミナで、ペースを上げて走った。

一方、杉並はスタミナが切れたのかガス欠状態だった。距離は縮む一方だ。

 

あいつ、後先を考えずに走ったのか……

4周目で捉えてやる。

 

 

4周……

ラストスパートで、一気に残っていたスタミナを全部吐き出す様に走り続けた。

 

ゴールまで後4分の1という所で杉並を完全に捉え、追い抜こうとしたが服を掴んできて離さず、もつれ合いになってしまい、そこで終了してしまった。

 

 

 

『大丈夫?』

 

『……ああ』

 

 

息絶え絶えに返事をした。

俺は杉並に怒りたくても、呼吸を整えるので精いっぱいだった。

 

小恋が小走りに近づいて、俺たちの体についた土を払ってくれている。

杉並もかなり息を乱している。やっぱり最初に早く走り過ぎてバテたのか。

 

 

 

『杉並、服を掴むな!』

 

『結果は出た様なものだ。うまい棒の話は無くしてやったぞ』

 

『うまい棒はどうでもいい!今更ながら人選ミスの不安に駆られるよ』

 

『……正直な話、桜内がここまで走れるとはな』

 

 

『二人共、すごいタイムが出たよ。と言っても、服を掴んだから数秒遅らせてタイムを取ったけど』

 

 

花咲に確認を取ってもらうと、運動部も仰天するタイムだったようだ。

ちょっとだけ嬉しかった。

 

だがこれは最低条件で、陸上部の高坂先輩は、他の運動部では太刀打ちできない程の俊足の持ち主だ。

 

 

『………』

 

 

 

高坂先輩は杉並より早いのかも知れない……

今より早く走らないといけないとなると、予想以上の地獄を見えてしまう。

 

 

 

『上出来だわ、桜内』

 

 

雪村も戻ってきたようだ。なぜか俺にだけ言う。

陸上部の観察をしていたらしいが、意味があるのかよく解らなかった。

 

花咲だけがタイムを取っていたかと思ったら、雪村もタイムを計っていた様だ。

お互いに間違いがないか確認している。

 

 

 

『上出来って、陸上部がびっくりする様な記録だったか?』

 

『杉並の情報が正しいのなら、あんた達二人は高坂先輩よりタイムは上だわ』

 

『………』

 

『けど杉並は幾ら早くても当日、何をするか解らない。桜内、あんたに託すわ』

 

 

『任せておけ』

 

『でも、高坂先輩に勝つのは、地獄の苦しみである事は間違いないけどね。どれだけもがき苦しむのやら』

 

 

雪村がさらっと恐ろしい事を言う。

……だが、俺も想像は容易にできてしまう。

 

俺と高坂先輩、どちらが勝つか解らないが、どちらも限界を尽くして走る事になるだろう。

こうなったら、1分でも時間を無駄に出来ない。

 

 

 

『……帰るわ。トレーニングを再開する』

 

『突然ね』

 

『俺には時間がない』

 

『……そう、頑張って』

 

 

『……義之』

 

 

2か月後の為にも、今からトレーニングを再開する為に、先に帰る事にした。

 

今の間に、少しでも余念のない様に鍛えておきたい。

ここまで来れば、最後は笑いたいんだ。

 

……付き合いが悪いのは解っているつもりだ。悪いな雪村、小恋。

 

 

 

~公園~

 

 

 

ランニングの最中、見覚えのある後ろ姿を捉えた。

一ツ橋だ……

 

一人ベンチに座って、スマートフォンをしきりに操作している。

一旦、トレーニングを中断して、一ツ橋の方に向かった。

 

 

 

『久しぶりだな。一ツ橋』

 

『お前か、何してんだ?』

 

『ランニングだ。お前は?』

 

『………』

 

 

『……どうした?』

 

『俺……、とりあえず学校に行く事にした』

 

『……ほう』

 

『感情的だったあの頃とは、考えられない決断だ。うちの家庭はそれほど裕福でもないしな。転校をしたくても……』

 

 

 

なるほど……

貧困の波はどこにでも押し寄せて、行動や選択が制限されてしまうのだな。

 

考え抜いた結果なら、俺からも言う事はない。

生徒会も一安心する事だろう。殆ど思ってもいない幸運かも知れない。

 

 

『学校に復帰しても厳しい現実に会うだろう。でも今は、進学を夢見て新しい学校でやり直す事だけを考えていたい』

 

『そうか』

 

『どちらかと言うと、お前に迷惑をかけた事の方が後悔している。もう、どうしようもない事だが』

 

『………』

 

 

『……本心では、お前が次の運動会で高坂先輩に勝つ事も楽しみではあるがな。登校を決意したのはそれだ』

 

『……そうかよ』

 

 

俺は苦笑いをした。

何が相手にやる気を与えるのか解らないものだ。

 

それだけでも、一ツ橋が登校してくれるのだったら俺は嬉しかった。

努力が全く別の形で表れた感じがした。

 

 

 

『それで、いつから学校に来るんだ?』

 

『……来週からだと思う』

 

『そうか、遅刻するなよ』

 

『……それと俺は学校では一人で居たい。憐れみでお前が無理に話しかけて来るのは苦痛だ。お前はお前で普段通りでやってくれ』

 

 

 

そう言うと、一ツ橋は家路へと走っていった。

俺の性格を少し見通された感じではある。

 

もし一ツ橋が登校するとなれば、挨拶くらいはしっかりやってあげようと思っていた。

……もし、すれ違ったら挨拶くらいはいいだろう。無視は良くないと思うが。

 

判断がよく解らなくなってくる。

 

 

 

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