~学校~
『ふーん、トトカルチョは既に終わったのに、まだ熱くなっているのか』
『まぁ、、な』
学校の昼休み時間、杉並から早速突っ込まれる。俺は朝から無口で、他のクラスメイト同士の愚痴を盗み聞きしていた。やはり不満は残ってしまう。
杉並には感情というものは無いのだろうか。次の日、昨日の不満を感じずにいられる事は中々できない。
俺以外のクラスメイトもそうだ。
運動部が少なく、人気薄だったうちのクラスが勝った事。
あんな奇跡、もう二度と起こせそうにない。死力を尽くして優勝した対価が没収されて、内心何人かのクラスメイトも荒れている事だろう。
『何なら、もう一つクイズ大会を紹介しようか』
『もういい、バレるのがオチだ』
『次は、お前の好きな3分クッキングでやろうではないか』
『俺は3分に料理をこだわらないし、しばらくは賭け事はやらん』
そういう気分ではなくなっている。
優勝したはずなのに、何も得る事が出来なかった。そんな感じになっている。
今から考えれば、最初から賭け事もせず、力も入れずにやってれば良かった。
そうすれば、ここまで落ち込む事もなかっただろう。
『今日はおかんむりだね、義之君』
『そうね、あんた朝から頭から湯気がたち昇ってるわよ』
クラスメイトの花咲茜と雪村杏が話に参加してくる。
朝から花咲も不満そうにしていたが、雪村はいつも物静かで全く表情が読めない。
『もう仕方ないじゃない。賭け金が手元に戻る事はないし、あまりイライラしていても体に悪いだけよ』
『………』
雪村の現実的な慰めが、いやに心地良い。
幾ら考えてもイライラしても、どうしようもない。それだけは確かなんだ。
そして、幾らかその不公平な現実を堪える事も、必要な事なのかも知れない。
『ま、今回はあんたが一番頑張っただけに、感情の制御が難しいとは思うけど』
『ん~、でももう忘れようよ義之君。どうしようもない事なんだしさ』
『解っている、解っているよ…』
考えてみれば、こいつらだって悔しいんだ。
俺だけがいつまでも無口になっててもしょうがない。
よし、気持ちを切り替えるか。
『ところで知っているか、桜井よ』
『何が?』
『高坂は、虫が大の苦手だそうだ。それで丸く収めればいいだろう』
『???』
作り物のゴキブリでも使おうって事か。
気持ちを切り替えたばかりだが…、まぁその位の悪戯ならやってみてもいいが。
むしろ、今より溜飲が下がるかも知れん。乗るか!
『今回は一枚噛むよ、杉並。作り物のゴキブリでも使うか』
『また、やる気になっちゃって…』
茜がため息交じりに言ってくる。
『はぁ、違うな!本物を使うに決まっているだろう』
『本物を使う気だったのかよ。本物は俺も苦手なんだが…』
『家にゴキブリホイホイを設置しておけば、1週間もかからずに手に入れよう』
『それで?』
『高坂の背中にこっそりテープで張り付ける』
『…待て』
そんな事をすれば、叫ぶを通り越して烈火の如く激怒するだろう。
最悪、俺にも同じクラスメイトにも飛び火するかも知れん。
そうなったら生徒会からは、確実にブラックリストに登録されてしまうだろう。
その後、行動の制限を食らうかも知れん。
『そうね、あるいは…』
さっきから考えていた雪村が何か思いついたかの様に口を開いた。
『走りで高坂先輩に勝ってみればどう?』
『高坂先輩は陸上部で、学校内では一番早いんだぞ。どうやって勝つんだよ』
『男と女では、筋肉の量や体の頑丈さは違うわ。オリンピックでは女が男より早く走る例など存在しないし、走り幅跳びだってそう』
『………』
『昨日の運動会、あんたは俊足で有名な一ツ橋を抜いたんだから。トレーニングをしていないのに、一ツ橋を抜くのは現状でなお、かなり足が速いと思うわ』
『けど、それなら杉並に頼…』
『俺は猛烈に忙しい!!』
すかさず、杉並から大声で制止される。
元々、杉並は根気よくトレーニングする柄ではない。ハイテク技術を頼って、反則退場がオチだろう。
だが、俺は雪村の話半分とも聞いていない。
大体、高坂先輩と走りでやり合う事が出来るまで、どの位の月日が掛かるのか。
『因みに雪村、俺はどの位のトレーニングを積む事になるのか?』
『最初から本格的なトレーニングは出来ないわ。走りに慣れているとみているけど、短く見積もっても、半年くらいかかるかしら』
『………』
『いいじゃない。高坂先輩を走りで負かせれば凄い事よ』
『…俺は冗談で聞いているだけだからな』
『あら、私は本気でやってもらおうと話していたのに…』
『茜からも何とか言ってやってくれ』
『う~ん、でも6カ月のトレーニング後の義之君を想像すると何か凄そう』
『もういい。他力本願は良くない。やりたきゃご自分でどうぞ!』
半ば会話を途中で退席して、教室を後にした。
半年もかかるとか、到底トレーニングが続きそうにない。
何より、相手の得意分野に立つ事自体が割りに合わない気がする。
『………』
俺が半年トレーニングして負けてしまったら、何の為のトレーニングになるのか。学校において笑い話ランキングに、自分の名前が載る事になる。
思い違いと無謀なる挑戦者、桜内義之…。
まだ、授業まで時間はある。
外の水場で髪を濡らして、すっきりしていくか。