D.C.ⅡS.C. 〔1〕   作:消雪

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〔23〕

~学校~

~保健室~

 

 

 

『どんな感じ?』

 

『何とか』

 

『少し落ち着いてきたかな』

 

『……ええ』

 

 

 

いつの間にか保健室のベッドで横になっていた。

俺はうつろな目で水越先生を見ている。

 

手や足の痺れもあったが、さっきと比べると少しマシになっていた。

今日の運動会であれだけ筋肉を使い、まったくほぐしていない事に気づいて、慌ててストレッチを始めた。

 

 

 

『急に立ったらダメ!!』

 

『む、う……』

 

 

 

気持ち悪い……

慌ててベッドに腰をかけた。吐き気だけは何とか堪える。

 

なんてヘロヘロなんだ。

まさか、こんなに疲れ果てているとは……。改めて今の自分の状態を認識した。

 

 

 

『まだ顔色も白いし、唇も紫色に変色しているわ。いいと言うまで寝てなさい!』

 

『……体が慣れない。せめて、座らせて』

 

『全く……』

 

『………』

 

 

……

 

 

 

運動会はどうなったのか……

わずかに呼吸を乱しながら、そんな事を考えていた。

 

倒れるまでに至ったが、体力の全てを出しきりホッとしていた。

これが本当の休息ってやつだな。

今は何もできず暇なはずなのに、ひらすら休息時間を実感していた。

 

そういえば、高坂先輩……

 

 

 

『先生、高坂先輩は?』

 

『さぁ。運動場に居るんじゃない?』

 

『でも、倒れたでしょ?』

 

『桜内君みたいに倒れた訳じゃないでしょ。すぐに立ち上がったじゃない』

 

 

『そうですか……』

 

『あなたの場合は、実力以上の物が出ていたんじゃない?だから倒れちゃったとか。しかし、どういう体をしてるんだか』

 

『………』

 

『まぁ何にせよ、おめでとう。それにしても桜内君はモテモテね』

 

 

 

……音姉?由夢?、それとも雪月花辺りが保健室に来たのか。

正体が分からずモヤモヤしたが、すぐにどうでもいいとモヤモヤが体内で溶けていった。

 

考える事自体が疲労に繋がってしまう。

 

体も精神も疲れ切っていた。

今は、家に帰ってすぐに寝たい。これしか頭になかった。

 

 

……

 

 

 

ようやく頭が回って分かったが、運動会は既に閉会式を終えていたらしい。

クラスの皆は、自宅へ帰っているようだ。

 

残っているのが、設営の撤去作業のある人たちだ。

高坂先輩も、その撤去作業に加わっているのかな。俺はヘトヘトの状態なのに……

 

総合的な体力で言うと、俺はまだまだ高坂先輩に勝てない事だけは解った。

ふと時計を見ると、17時を指している。

 

 

 

『良かったら車で帰らない?私が運転するから』

 

『……いえ、もう大丈夫そうです』

 

『途中で倒れたら私が困るんだけど、本当に大丈夫なの?』

 

『はい。恐らく……』

 

 

 

突如、勢いよくドアが開いて反射的にそっちを向いた。

慌てて音の方に向いたので、頭痛で頭に手を抑える。

 

 

 

『弟君、心配したよ……』

 

『朝倉さん、ノックくらいしなさい』

 

『すいません。もう大丈夫なんですか?』

 

『本人はそう言ってるけど、運動会の祝杯なんて持っての他よ。家に着いたらすぐに休みなさい』

 

 

『……言われなくてもそうします』

 

 

 

~靴箱~

 

 

 

水越先生意には家に着いたら学校に、『無事に家に着きました』と電話する事を約束して家に帰る事にした。

カバンを取りに行きたいが、自分のクラスまで戻る事も出来ず、音姉に取りに行ってもらった。

 

今の体力では、ゆっくり歩く事くらいしか出来ない。

階段を登っていたら、途中でしゃがみ込んでしまう。

 

 

 

『サンキュー』

 

『いい!カバンは私が持つから』

 

『皆帰ってた?』

 

『そりゃそうでしょ。下校時間はとっくに過ぎているんだから』

 

 

『そっか、じゃあ帰ろうか』

 

『ダメ!私が靴を取るから』

 

 

 

音姉が近くにあった折り畳みイスを持ってきて座らせてくれる。

ここまで体力が消耗しきっていると、年老いたじいさんと大差ない。

 

俺はイスに座って、靴を履き替える。

音姉が折り畳みイスを、元の場所に戻すのを待ってから校門へ向かった。

 

……

 

あれ……

見慣れた人間が居ると思ったら、由夢が門に背を預けて待っていた。

 

 

 

『兄さん!』

 

『寒いんだから学校の中で待っててくれ』

 

『私の心配してる場合じゃないでしょ!』

 

『………』

 

 

『お姉ちゃん、兄さんは?』

 

『目に全く力を感じない。家で倒れたら危ないから、今日は弟君の家に泊まるわ』

 

『……でも、兄さんだよ?』

 

『少なくとも、今日は泥のように眠るよ。変な心配しないで』

 

 

『………』

 

 

 

帰宅の最中、俺は何度かゆっくり歩いてと言ってしまう。

何度か立ち止まったりもする。

 

音姉や由夢は歩幅を合わせて歩いてくれるが、それでも堪りかねて言ってしまう。

何度か呼吸を整え、体力をわずかに回復させて歩きだす。

 

 

 

『運動会、本当に凄かったよ……』

 

『………』

 

『あっ、黙って聞いてるだけでいいから』

 

『………』

 

 

由夢が重苦しいムードに耐えかねたのか、突然話し出す。

気分が変わるのもいいのかも知れない。

 

 

 

『正直に言うと、兄さんが高坂先輩に勝てる訳がなく、運動会が終わったらとにかく先輩に負けた兄さんを「よく頑張ったよ」と励ます事しか考えてなかった』

 

『………』

 

『同じ言葉になるけど意味は違う……。本当によく頑張りました。それからおめでとう』

 

『……ありがとう』

 

 

 

こんな素直な由夢を見る事が出来ただけでも、結構嬉しい。

中々、思った事を素直に言えないタイプだから。

 

 

 

『じゃあ私からも弟君に……』

 

『祝辞?』

 

 

 

ちょっとだけ冗談めかしたが、見事にスルーされた。

 

 

 

 

『私もすごく驚いた。まゆきも言ってたけど、弟君がいつの間にこれだけ早く走る様になったのか分からなかった』

 

『………』

 

『同時にいつものトレーニングを思い返したわ。どれだけハードな練習を続けてきたのか……』

 

『……皆知らないからな』

 

 

『勝ち負け云々より、本当によく頑張り続けたわ。おめでとう。本当におめでとう』

 

『……ありがとう』

 

 

 

なんだか音姉が泣いている様に見えたので、何か話題を探す事にした。

だが探すまでもなく、重要な事をまだ知らない事に気づいた。

 

俺のクラスは果たして優勝したのか?

800メートル走で倒れてから、その後の運動会も全く分からない。

 

 

 

『俺のクラス、優勝してた?』

 

『そうだよ。弟君のクラスは圧勝だったかも知れないね』

 

『やった。でも圧勝って?』

 

『杉並君の反則で減点されたのに、優勝してたから』

 

 

『ルール違反ではないとか言ってたけど、一般常識で解ってほしいです……』

 

 

 

あいつは、実力はあるのに最後で何かをやらかすからな。普通にやれば何でも能力抜群なんだ。

けど、杉並らしいか。

 

あの滅茶苦茶な性格の方が、魅力なのかも知れない。

理解できる奴は、少数になるかも知れないが。

 

 

……次に気になるのは、クイズ大会の方だ。

小遣い程度には稼げたか、今からかなり楽しみだ。

 

 

帰宅した後、電話を先に済ませ、飯、風呂を流れる様に済ませると、漫画やゲームをする気力もなくベッドで眠りについた。

 

 

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