~家~
『そろそろ、支度するか』
俺は運動会の打ち上げで、クラスメンバーを全員喫茶店に呼んだ。
今は懐が暖かいから、こういう金の使い方も悪くはないだろう。
俺たちにとって運動会は、いい思い出として残るだろう。
それなら、もっといい思い出としておきたい。
結局、クイズ大会は既に生徒会に知られており、杉並がクラスメイトに配当金を配る前にすぐに捕まってしまった。
前回と同じく、全て没収されると思っていた。
俺は運動会に大きな結果を残す事が出来たので、以前の様な感情のくすぶりはなかったが……
……
…
~学校~
~生徒会室~
『はい、これ。私たちは見なかった事にしておくから』
『……これ、配当金の?いいんですか?』
『弟君を怒らせたらすごく怖いからね。でも変な事には使わないで』
『……これ』
俺は高坂先輩に封筒を受け取ると、妙な厚みを感じて慌てて金を数えた。
6万円も入っている……
俺だけいいのだろうか。
頭に買いたい物が色々と浮かんだが、俺だけ一人で使うのは罪悪感を感じる。
『自由に使っていいんですよね?』
『……何に使うの?』
『この金を使ってクラス全員で打ち上げをしようかと』
『ま、妥当ね。でも、お金の出どころは言わないでね』
『良かったら、一緒に飲み食いしませんか?音姉も由夢も呼ぶつもりだし』
『太っ腹ね。早速お金が無くなるわよ』
『クラス全員が頑張ってくれたし。何だかお金の使い方が前回と変わらない気もする』
『ホントね。使い方は前回と変わらないのに、なんで弟君はあんなに怒ったのだか』
……
…
~家~
『………』
ふと、洗濯されたジャージやTシャツに目が止まった。
少し前は、自分がいつもトレーニングに使い酷していたものだ。
いつも汗まみれにしていた運動着だが、こうやって静かに置かれていると何だかしんみりしてしまう。
……自分が走っていた時の記憶が鮮明になり、切なくなる。
『いかん、いかん』
今日の主役は俺なんだし、辛気臭いのは止めておこう。
あまり気になるなら、また走って汗まみれにしてやればいい。
俺は玄関へと向かうと、今度は運動靴に目が止まる。
『………』
トレーニングしていたあの時の思い出が、あちこちに散らばっている。
500mlの空っぽのペットボトルも、汗拭きの専用に使っていたタオルも。
『そうか、お前らも来たいんだな』
俺はカバンを取り出しTシャツ、タオル、シューズと片っ端からカバンに詰め込んでいった。
一緒に祝ってやろう。トレーニング中に世話になったのだから。
よし、気持ちも全て切り替わった。
忘れ物は何もないはずだから。
END