D.C.ⅡS.C. 〔1〕   作:消雪

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〔3〕

~教室~

~放課後~

 

 

 

『またね、義之』

 

『またなー』

 

 

『ああ、またなー』

 

 

 

教室で雪村と花咲に挨拶を済ませた後、俺はぼんやりと一人、教室で過ごしていた。

渉と小恋は、部活へと急ぎ足で向かって行った。何か、イベントの準備でもあるのだろうか。

 

 

『………』

 

 

 

昨日、あれだけ感情的になっていた事も忘れ、今になって運動会で優勝する事ができたという実感が沸いている。

 

24万円が没収にされた事は、自分の中でやはり大きかった。

だがその感情が消えると、今度は優勝した余韻に浸ってしまう。

 

そして何より、今年一番の思い出となるかも知れない。

 

俺が得点の高い種目で活躍し、優勝に貢献したのだから。

勿論、優勝は皆の尽力があってこそだ。

 

いつもは全てのクラスメイトとそこまで喋る事はなくても、賭けのお陰とはいえ、本気でお互いを応援し合い、全力で取り組む事ができたのは、得難い事なのだろう。

 

 

『………』

 

 

 

教室の窓から、昨日行われていた運動場を見てみた。

今は部活動から掛け声と、土を蹴る音が絶え間なく聞こえている。

 

部活動を終えている姿もある。

 

考え事をしている間に、随分時間が経過したようだ。

そろそろ帰宅するか。鞄を肩でぶら下げて、靴箱へと歩く。

 

 

~靴箱~

 

 

 

夕焼けが沈みかけている。俺は冷蔵庫の残りと夕飯のメニューを考えつつ、靴を履き替える。

 

 

『あれ、珍しい時間帯に帰るんだね』

 

『……高坂先輩』

 

 

 

ちょっとマズい相手だったが、昨日の行いは俺の中で引っかかっていたので、すぐに気持ちを切り替えた。

 

 

 

『昨日はすいませんでした。感情的になってしまって…』

 

『ホント、弟君じゃないのかと思ったよ。私も内心、びっくりしたよ』

 

『すいませんでした』

 

『いいのいいの。金額が大きかった分、悔しいのは解るつもりだから。でも、こんな時間帯まで何してたの?』

 

 

『……昨日の運動会を思い出していたんです』

 

『運動会を……?』

 

『ええ。運動会で優勝した事の喜びを、今になって感じて余韻に浸っていました』

 

『確かに意外だったわ。後で聞いて分かったけど、弟君のクラスは運動部員が少なかったんだよね』

 

 

『はい』

 

『で、スコアの高い種目は弟君が1着だもんね。運動部員にも勝ってるし…』

 

『それは皆の応援と、皆の活躍のお陰です。一丸となって何かに挑戦する力は、全力以上のものが出る感じでした』

 

『それだけの足があるのに、部活動をしないなんて何だか勿体ないな…』

 

 

『んー、やる気しないですからね。それに高坂先輩は能力より、やる気を買う方でしょ』

 

『まぁそうなんだけどね、でも何だか勿体ない感じが残るなー』

 

『すいません、そろそろ自分は帰るので。買い物も済ませないといけないし』

 

『おっと、すっかり話し込んじゃったね。じゃあ、またね弟君』

 

 

『またです』

 

 

~家~

 

 

 

夕食は簡単なキノコスパゲティとポテトサラダ、コンソメスープにした。

明日の朝の朝食用に、残ったポテトサラダを食パンに塗って、サンドイッチを作っている。

 

夕食では、俺の顔色を全力でうかがっていた音姉と由夢だったが、俺の方から『昨日はすまんかった』と謝ると、二人とも一気に緊張感が解けた感じだ。

 

しかも、由夢が調子に乗って『明日の朝ごはんお願いね』と頼まれるまで増長している。

音姉は手伝ってくれそうだったが、生徒会から電話が来て、長電話になっている。

 

明日の朝ごはんの支度を終えると、後は粉末のコーンスープを机の上に置いて自分の部屋に戻った。

 

 

『………』

 

 

 

運動会で限界まで使った足の筋肉が今になって悲鳴を出している。

明日辺り、筋肉痛になりそうだ。普段、あれだけ走る事もないので仕方ない事だが。

 

 

≪コンコン≫

ドアがノックされる。

 

『開けていいよ』

 

 

昨日の事もあったので明るく返した。

ドアが開くと、音姉が神妙な面持ちで俺を見ている。

すぐに俺は異変を感じ取った。

 

 

『今、いいかな。弟君』

 

『ああ。何かあったの?』

 

 

 

俺は努めて冷静な対応をした。

けど、いつもの明るい様子が無いので、いやに気になる。

 

 

『今日、弟君は帰りが遅かったんだよね?』

 

『ああ、そうだけど』

 

 

 

質問が強調された様に感じたが、気づかないフリをして話を進める事にした。

 

 

『えっと、何かしていたのかな?』

 

『特に何もしてないけど…』

 

『でも、何かしていたから学校に残っていたんだよね?』

 

『強いて言うなら、昨日の運動会の事を思い出していたんだよ。あの時になって優勝の嬉しさを感じていたというか……』

 

 

『それだけ?』

 

『ぼんやり昨日の運動会を考えていたら、時間が思ったより過ぎていたんだ。後は靴箱で高坂先輩と会って今と同じ様な話をしていたよ』

 

『えっと、他には?』

 

『……何かあったみたいだけど、先にそれを話してくれ』

 

 

『確認するけど、学校には教室で運動会の事を考えていて残ってたんだよね?』

 

『そうだよ』

 

『職員室や他のクラスには出入りはしてないよね?』

 

『……俺への質問は止めにしてくれ。一体何があった?』

 

 

『…生徒会の事だから、今はちょっと話せないの。ごめんなさい』

 

 

部屋から出ようとする音姉をすかさず手を掴んだ。

さすがに、気にせずにはいられない。

 

音姉の表情から察するに、何かあったに違いない。

 

 

『………』

 

『大丈夫だ。俺は秘密を守るから』

 

『………』

 

『何があった?俺に関する事なのか?』

 

 

 

問い詰めたが、音姉の表情が一変して明るくなった。

何かは解らないが、吹っ切れた感じがした。

 

 

『ううん、何でもない』

 

『へ?』

 

『私の弟君なんだもん。嘘がつける訳がないもん』

 

『訳が解らないんだが。一体何だったんだ?』

 

 

『それは生徒会の事だから、今はちょっと言えないの。そこは、ごめんなさい』

 

『お互いに何でもないなら、もういいよ。気が向いた時にでも話してくれ』

 

『うん、夜中にごめんね』

 

『それと明日の朝食のサンドイッチだけど、ラップして冷蔵庫に入れてあるから。由夢にも伝えておいて』

 

 

『あ、ありがとう。明日、美味しく頂くよ』

 

『じゃあ、おやすみー』

 

『うん、おやすみなさい』

 

 

ドアが静かに閉じられると静寂が支配する。

本当は何があったか気になったが、笑顔を取り戻せるのなら、そこまで深刻な事はないだろう。

 

 

『いかん、いかん』

 

 

俺は考えだすとキリがなくなるので、音楽でも付けて気分を変えた。

歌を聴きつつ、眠気を待った。

 

好きな歌でも不思議なもので、知っている歌を繰り返し聞くと、わりと眠たくなってくる。

 

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