~学校~
『なるほど、昨日はこれの事だったか…』
俺は小さく呟く。
朝の朝礼が始まると、先生はいきなり昨日の出来事から話をし始めた。どうやら、誰かの財布が盗まれたようだ。
長々と感情を吐露した説明を聞くのがうざかったが、自発的に出てきてくれる事を望む、と最後に付け加え教室を後にした。
午前中の授業は、自習で消化される事になった。
授業が無くなったのはラッキーだが、素直に喜べない。
恐らく、俺はマークされているに違いない。用もなく学校に居てた事実は、疑われるに十分な事だろう。
~教室~
~昼休み~
『今日の朝の話はびっくりしたね』
教室で昨日作ったサンドイッチを食べていると、小恋が不意に話しかけてきた。
俺はもう財布の盗難事件に関心は無かった。案外、落ちてたりしているかも知れない。
『ああ。結局、誰の財布が盗まれたんだろうな』
『誰かの先生の財布らしいよ』
『先生なのか。学生ならともかく、先生だと被害額が凄そうだな』
『学生だとせいぜい小銭だもんね』
『桜井!』
小話もロクに出来ず、委員長の沢井が話に割って入ってきた。
表情からして相当焦っているようだ。
『どうした?』
『すぐに職員室に来てほしいそうよ』
『昼食中なのに…』
『えっ、なんで義之が?』
委員長と小恋との会話を尻目に、教室を出る。
俺には財布を盗んだ事実はない。
事実だけを話せばいい。昨日の自分の全ての行動に財布を取った事実はない。
自分自身に安堵させつつ、職員室に向かった。
~職員室~
足取りが重く感じながらも職員室に到着したら、何人かの生徒が居てた。
恐らく、俺と同様に無意味に学校に居てたから、その時の事情を詳しく説明させられたのだろう。
生徒会らしい人から、しばらく待つ様に指示された。
すぐに職員室から他の生徒が出てきて、自分が入る様に言われた。
『………』
重苦しいムードだ。
職員室に入ると、生徒会の人がズラっと並び、周りも他の先生が見ている。
事の重大さを間接的に伝えているのだろう。
とにかく、すぐにでも職員室を出たいので指定された席に座った。
教頭先生が出てきて、自分と対面に座った。
話しやすい考慮なのか、やたらとスマイルをかけてくる。
『桜内義之君だね。生徒を疑うのは良くない事だが、本当の事を話してね』
『はい』
『早速、本題に入らせてもらうが、君が盗ったのか?』
『は?盗っていません』
あまりにも唐突過ぎる。いきなり、そこまで疑うのも失礼だ。
一体、何を根拠にそこまで突っ込んだ質問されないといけないのか。
『いきなりそこまで疑う以上、根拠はあるんでしょうね!?』
俺は多少怒気を含めて、怒鳴り気味に声をあげた。
すると、先生は手袋を付けて、そっと財布を机の上においた。
『……これは?』
よく見ると、その財布は少し土が付いている。
また、土が乾いたのもあり、砂が全体的に付いている。
『君の靴箱から出てきたんだ。財布が見えない様に靴で隠れる様にね』
『……なんだと』
どういう事だ。なぜ、俺の靴箱に盗まれた財布があったんだ。
唐突だったが、心を落ち着かせ冷静に思考を働かせた。
先ず、俺は盗っていない。それは絶対だ。財布が歩く訳でもない。
誰かが俺の靴箱に置いた事になる。
だが、考えを深める前に先に断言しておかないといけない。
『身に覚えがありません』
『………』
教頭先生は、俺の動揺を観察する様に見てくる。
その観察する様な見方は、あまりに気持ち悪い。
『なぜ、こんなに土が付いているの?』
『俺が知る訳ないでしょう』
こいつは、もう俺が盗んだと確定したのか。
キレそうになる。だが、何とか冷静な状態を保った。
『お金は、いくら盗られていたんですか?』
『……いくらだと思う?』
『………』
頭に血が昇ったのが解る。机を蹴り飛ばしてやろうか。
キレる手前だったが、拳を強く握ったところで自分を抑えた。
『実は、お金は盗られていなかったんだ』
『……え?』
『運転免許証もクレジットカードも無くなっていない。盗難にあった先生の確認では、ポイントカードが一つ無くなっている事を聞いている。ポイントが貯まっていても、大したカードではないらしいが…』
『……因みに、その財布は俺の靴で隠れている状態だったんでしょう。どうやって見つけたんです?』
『内密に生徒会に頼んだんだよ。生徒が隠せそうな場所…。例えば、生徒の机の中やトイレ。靴箱や靴の中、ゴミ箱の下をね』
『………』
『すると、君の靴箱の中から出てきた訳だ』
『……何度も言う事になりますが、俺は盗っていません』
『君が100%犯人だとは言っていない。ただ、生徒会から目を付けられブラックリスト載るくらい人物だ。前の運動会で賭け事をやっていた事も解っている』
『………』
『偏見。日頃の行いという奴だよ。疑いが晴れないのは解ってほしい。新しく新事実が出るまではね』
『………』
~放課後~
被害にあった先生の財布の中の貴重品は全て残っていたので、警察までの事態には発展しなかった。
だが、この問題は学校内で解決するまで今後も続くようだ。
俺の午後からの全ての授業は削られ、昨日の行動を全て話す事になった。
いくら話しても、運動会を思い返していた時間は、さすがに納得させる事ができなかった。
午後からの授業は全て休んだんだ。
恐らく、俺の事は先生を通じてクラスメイトに伝わったはず。
その誤解を解く労力を考えると、今から気が滅入ってくる。
『くっそ』
勢いに任せて思いっきり壁を蹴った。
バンっという乾いた音が鳴り響き、幾つもの誰かの視線が突き刺さる。
『………』
先ず、教室に戻って鞄を取りに戻らないと。
~教室~
『義之』
教室に戻ると、小恋が駆け寄ってきた。
その後ろには、花咲に雪村、いつものメンバーがいる。
『一体、どうなってるの!?』
『……何から話せばいいのか、俺にも解らない』
職員室で同じ格好を維持していたので、関節がやけにバキバキと音を立てる。
すぐに雪村も花咲も、俺に駆け寄ってきた。
『大まかな事情は先生から聞いたわ。でも…』
『でも?』
『クラスメイトは義之君に嫌疑を感じていたわ』
『…俺がクラスに残っていた時間を、納得させる説明ができんからね』
ちょっとクラスに残る事が、こんな仇になるとは。災いは唐突に来るものだ。
俺は本当に何もしていないというのに。
『男の嫉妬心ね』
『嫉妬……?』
『あんたはいつも女に囲まれる事が多かったじゃない。だから、余計に叩かれている気がするわ』
『因果応報とは種類があるようだな。別に悪気や下心は無かったが…』
『この二人からは確認しづらいと思うから私から言うわ』
『……どうぞ』
『盗んでいないよね?』
『当たり前だ』
盗んでいないものは盗んでいないと言う以外にない。
だが、盗む盗んでいない事より、疑いをかけられる事の方がツライ。
『その答えが聞きたかっただけ。安心したわ』
『どういう事だよ』
『あんたの口から盗んでいないと聞きたかっただけ。それだけ聞きたかったから』
『私もそれさえ聞く事ができれば、もう十分義之を信用できる!』
『……小恋、お前なぁ』
小恋は目に涙をためるほど安心してるし。
そんなに信用ないのか、俺は……
『実際に何があったか、本人から聞くのが一番説得力を感じるものだから』
『………』
『だから、悪く受け取っちゃだめだよ』
『そういうものなんだな』
確かに花咲の言う通り、本人からの言葉が一番わかりやすいのだろう。
実際、親友と呼べる人間に嘘はつきにくいものだ。
大部分を修正。