D.C.ⅡS.C. 〔1〕   作:消雪

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〔5〕

~家~

 

 

学校から自宅に帰ると、芳乃家の方で音姉と由夢の門前で立っていた。

俺に気づくと、すぐ小走りで駆けてきた。

 

 

 

『お帰り、兄さん!』

 

『……お帰りなさい』

 

 

『……ああ、ただいま』

 

 

今まで兄弟の様に暮らしていたから2人の事はよく知っている。

見事なまでにぎこちなさが目立つ。

 

 

 

『……あはは』

 

『………』

 

 

 

会話も即効で途切れ、ぎこちない愛想笑いだけが残る。

音姉の方は、疲労感が見え隠れしていた。

 

音姉は生徒会長でもあるから、今回の件は重くのしかかったに違いない。

何せ、疑う側なのだから……

 

 

 

『音姉、由夢。先に断言しておくが、俺は盗んではいないよ』

 

『そんな事くらい解っているよ!』

 

 

 

由夢が珍しく怒鳴り声をあげる。

音姉が由夢の肩に手を置いて、何か言いたげな由夢を制止する。

 

 

 

『由夢ちゃんには、私から説明したわ。細部まで何回もね。でもね……』

 

『どうした?』

 

『このまま新しい事実が出るまで、弟君は疑われるままになるわ。そんなの出ないかも知れない』

 

『………』

 

 

『兄さんの学校生活が滅茶苦茶になってしまう……。でも、どうしたらいいのか解らない』

 

 

言われるまで気づかなかった。確かに、盗人扱いにされるかも知れない。

最悪、友人以外誰も近寄ろうとしないかも知れん。

 

 

 

『他の生徒は図書室に居た事や、友達と居た、部活を見ていた事で対象から外されているの』

 

『立場は最悪になる一方か……。それで全員対象外なのか?』

 

『弟君の他に、後一人いるけど…』

 

 

生徒会の秘密なのか、ハッとした表情をした後、口を閉じてしまう。

 

杉並ではないだろうなと祈りつつ、これは聞いておく必要があるのかも知れないと、直感をした。

 

 

 

『そいつの名前は?』

 

『………』

 

『音姉、頼むよ!』

 

『………』

 

 

しばらく思い悩んだ末、音姉は口を開いた。

 

 

『絶対に秘密だからね。由夢ちゃんも』

 

『解ったわ』

 

『で、名前は?』

 

『由夢ちゃんも弟君も面識がないと思うよ。名前は一ツ橋君だよ』

 

 

『……私は知らない。兄さんは?』

 

『………』

 

 

 

友達にそんな名前はいないが、どこか聞き覚えのある名前だ。

記憶を辿ってみるが、上手く思い出せない。

 

 

『兄さん!』

 

『あ、悪い。俺も誰か解らない』

 

 

 

無難に答えておいた。

そうなると、生徒会は俺と一ツ橋という奴のどちらかが、盗んだ可能性のある奴と見ているのか。

 

明日にでも、どんな奴か面を拝んでおこう。

 

 

 

『ありがとう音姉。由夢も内密に。間違っても下手な探りを入れるなよ』

 

『解ってますよ。私は兄さんより慎重です』

 

 

『あの、弟君?』

 

『どうしたんだ』

 

『私は弟君が盗んだとは思ってはいないわ。そんな人格をしていないし』

 

『……音姉?』

 

 

『………』

 

 

何を考えてかやたらと思いつめ、下唇を噛んで必死に感情を殺している。

???、一体どうしたんだ……

 

 

『もし、魔が差したというなら……』

 

『………』

 

 

 

その言葉で俺は頭に強い衝撃を受けた。

時間が止まったとすら思えた。

 

音姉は俺を疑っているのか……

疑われていたのか。

 

 

 

『お姉ちゃん!そんな訳ないでしょ』

 

『魔が差したのなら仕方ないわ。誰にだってある事だもん』

 

『酷すぎる!じゃあ兄さんが盗んだと思ってるの?』

 

『私だってこんな事を言いたくないわ!だって、だって……』

 

 

 

あまりの衝撃に、嫌な汗をかいていた。

だが、必死に冷静な心を取り戻す。

 

呆然としていた俺が我に返ると、由夢が音姉に怒鳴っている姿が見えた。

由夢の肩を抑えて、慌てて止めにかかる。

 

 

 

『いいんだ由夢。音姉にツラくあたるな』

 

『だって、兄さんが財布を盗んだと思っているんだよ!』

 

 

 

由夢は感情を隠す事もせず、音姉が俺を疑った事に信じられないといった感じだ。

このままではいけないと思い、俺は包み隠さず自分の考えを述べていた。

 

 

 

『そうではない。生徒会の立場上、私心を捨てて確認したんだ。すごい事だよ』

 

『えっ?』

 

『俺も由夢も兄弟を疑うなど出来ない事だと思う。ましてや疑いの言葉をかけるなど、一つ間違えれば完全に嫌われてしまう。恐ろしく勇気のある事だと思うんだ』

 

『………』

 

 

『……兄弟だから絶対に信じ合うという発想自体が危なかったかもしれない。音姉が一番バランスの取れた考え方なんだよ』

 

『……兄さん』

 

 

音姉を見ると、目から涙が溢れていた。

嗚咽を何度も必死に堪えて、泣き続けている。

 

自分でも気づかない内に、音姉の方へ歩いていた。

 

 

『すごい勇気だったよ、音姉』

 

『……ごめんなさい、弟君』

 

『こんな事くらいで嫌いになったりしない。だから早く泣き止んでくれ』

 

『うん、ありがとう』

 

 

 

恐らく、音姉はこれからも本気で信じるし、疑ってもくるだろう。

例え反感を覚える事を言われても、それは相手を思っての言葉だ。

 

それは、これからも変わる事はない。

それを今、ここで理解できた事はどこか心を楽にさせてくれた。

 

 

『?』

 

 

 

由夢の方を見ると、ジト目になっている。

こっちの方は理解が難しそうだ。

 

 

『ゆ、由夢?』

 

『何ですか?』

 

『何ですかって機嫌が悪いじゃないか』

 

『別に何でもないですよー』

 

 

そう言うと、我先に朝倉家の方に帰っていった。

思いなしか悲しそうだったが……

 

?マークがいっぱいの俺には、何がどうなったのかさっぱりだ。

随分、長話になったのでそろそろ切り上げる事にした。

 

 

『音姉もそろそろ家で休んだ方がいいよ』

 

『そうね、そうするわ』

 

『由夢のやつは……、腹でも減ったのかな』

 

 

 

敢えて適当に、真剣な話から離れようとした。

正直、ずっとこんな調子だと疲れてしまう。

 

 

『多分、私の内心にあった考えを、先に弟君に気づいたのが悔しかったのかも』

 

『……そういう事か』

 

『きっと、そういう事だよ』

 

『伊達に1年多く生きていないと伝えておいてくれ』

 

 

『ふふっ、変わらない!と返されそうだけど伝えておくわ。それから…』

 

『それから?』

 

『ありがとう。私は嫌われると思っていたから…』

 

『それはもう考えるな。嫌う事はないから』

 

 

『……絶対に?』

 

『絶対に』

 

 

~家~

 

 

芳乃家に帰ると、すぐに出来る飯を考えていたら、すでにテーブルに並べてあった。

そのテーブルの上にはピンク色の小さな紙もある。

 

『温めて食べてね。本当に災難だったね。力になれないけど頑張ってね』か。

音姉が長話になる事を予想しての事だろう。

 

誰もいないテーブルで『いただきます』と声を出した。

食事が進むに連れ、今後の事を考えていた。

 

 

『………』

 

 

 

だが、すぐに止めてしまった。

精神が参るほど考えていたら、疲れてしまう。

 

考えすぎない事。そこは俺の長所でもあった。

一つ心当たりが出来たんだし、先ずはそこから当たってみよう。

 

 

 

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