~生徒会室~
生徒会の中では、未だに財布の盗難事件について大きな未解決問題として根強く残っている。
今日は早く帰宅して、今まで起こっていた事を整理するつもりだったが、生徒会の人間に呼ばれた。
空腹状態という事もあり、感情的にイラつき、すぐにでも帰りたい気持ちでいっぱいだった。
『何度、説明を求められても答えは変わりませんよ』
俺がそう言い放つと、高坂先輩が一歩前に出た。
『当時、学校に残っていた他の生徒は状況、時間の確認が取れているので除外してるの』
『それで俺が盗んだと?』
『……出来たら、もう一度よく思い出してくれないかな』
『………』
俺の中では、既にその盗難事件は解明済みで、いくらでも事実を提供できるが、奴なりに更生してくれるなら今回の事は水に流す考えでいた。
最悪、不登校になってしまったら、俺としても責任を感じてしまう。
『ね、何か思い出した?』
努めて明るく質問する高坂先輩。彼女なりに苦心しているようだ。
だが音姉の方は深刻で、財布の盗難事件の追及は、俺を疑う事の追及になってしまっている。
精神的に、だいぶと参っているようだ。
『特に何も』
『生徒会としても進展が欲しいところなのよ。このままだと、何度も弟君を呼ぶ事になるよ』
『では、俺が盗んだという事で鞘を納めて下さい』
俺がそう言うと皆、ギョっとして見ている。
音姉に至っては、目を見開いて両手で口を押えている。
『……どうしました?』
『弟君が盗んだの?』
『盗んでいませんよ』
『じゃあ、なんで弟君が盗んだ事で鞘を納めていいの?』
『話が終わらないからです』
『………』
~家~
その後、失言だったのか疑心の目で見られる様になり、余計にやりにくくなった。
俺は俺で、私的感情として高坂先輩に嫌気さしてきた。
そして俺は、雪村のある事を思い出して考え込んでいた。
『走りで高坂先輩に勝ってみればどう?』
感情の向け先として、悪くないと考え始めていた。
ストレスのガス抜きとしても、トレーニングもいいだろう。
何より、この問題にはなるべく関わりたくないし考えたくない。
それに、いい気分転換になるかも知れない。
~早朝~
『ハッ、ハッ、ハッ、おえ……、気持ち悪い』
ゆっくり走っているのに、飛ばし過ぎたか。極端に体力が回復しない。
その場に座り込んで、体力の回復を待った。
『はぁ、はぁ、はぁ』
3時半の真っ暗の中、アラームで起床して、ハムやチーズ、事前に斜め切りしておいたキュウリでサンドイッチを作り、朝日が出ていないが明るくなった頃を見計らい、ランニングを開始した。
朝は意外に寒いが、走っていると体が温まり、上着が邪魔になってくる。
今はとにかく走る事に、体を慣れさせようとしたが、どうやら走り過ぎたようだ。
『……思い出した。朝食まだ食ってねーぞ俺』
……とにかく、スローでいいから走り続けよう。キツくなれば、歩くだけにすればいい。
~家~
『はぁ、はぁ、はぁ』
走り過ぎて、今度は少し食欲が失せてきた。食べ物より今は水分だ。水が欲しい。
今も就寝中の音姉と由夢の家を見た後、ポケットから家のカギを乱暴に出し、ドアを開けた。
冷蔵庫にある2リットルのスポーツドリンクを一気にラッパ飲みした。
殆ど残っていないし、そのまま強引に喉へ流し込んだ。
『はぁ、はぁ、生き返ったー』
その場で尻もちをつき、しばらく放心状態のまま息を整える。
このまま長く休憩すると筋肉通が残りそうなので、ストレッチを何度も行い、筋肉や筋を伸ばす。
だが練習としては、あまり良くない事をしている。
こんな苦痛すぎる事をやっていては、あっという間に三日坊主だ。
次はもっと柔軟、スクワットを増やそう。
自分の部屋に戻ろうとすると、サンドイッチを作ったのを思い出す。
『腹が減っては戦はできず。体力気力の回復の為にも、多少無理でも食おう』
せっかく、美味しく作ったサンドイッチなのに、こんな食い方をしてしまうとは……
~学校~
~昼休み~
朝のランニングと筋トレのせいで、授業を殆ど寝て過ごした。
現に今も眠気が取れない。睡魔のウイルスに感染させられた位に、脳が睡眠を欲する。
『義之、いい加減に起きて』
『………』
小恋の怒気の含んだ声に、目をつむりながら体を起こす。
うっすら目を開けると、いつもの雪月花のメンバーが弁当を持って立っている。
『寝不足なの?』
『いや、大丈夫だ』
小恋の心配を軽くかわす。
どれだけ気を払っても、最初の頃は筋肉痛になるのは仕方ない。
軽くストレッチを始める。
『………』
『どうした、雪村』
『まさか、冗談が冗談でなくなったの?』
『盗難の一件以来、俺を疑いすぎだからな。得意分野で挫折を味わせてやるのも一興だと思った』
花咲も小恋も何の事か解らず、ポカーンとしている。
この場合、雪村が先読みし過ぎだが。
『杏ちゃん、何の話?』
『あなた……、あの昼食の時、一緒に居合わせていたでしょ』
俺も鞄の中からサンドイッチを取り出して、昼食の準備をする。
茜は必死に思い出そうとし、小恋は雪村に何の事か教えてとお願いしている。
『もしかして高坂先輩を……って、えーーーーーーー!!!』
『……茜、騒音迷惑』
たしなめる様に、雪村が花咲に注意する。
小恋が何の事かと更に強く質問しているのに対し、花咲はただただ驚いている。
『義之君、本気で高坂先輩に……』
『ああ、春秋と運動会が年に2回あるだろ。出来ればその時にでも』
『嘘でしょ?本気で高坂先輩と……』
『6カ月後を目指してな。その間は地獄を見る事になりそうだが……』
『面白い事になりそうね。でも挫折を味わうのはどちらかしら』
『杉並にも伝えておいてくれ。次のクイズ大会の準備を頼むと』
『ふふっ、わかったわ』
『……義之君、本気なのね』
何の事だと問い詰めてくる小恋を皆、華麗にスルーして昼休みを過ごした。
ちょっと可哀想だったかな。
~家~
放課後、すぐに帰宅してトレーニングについて吟味していた。
あまり無理をして、走りすぎるのは良くないと判断して、ふくらはぎと太ももの筋トレ、柔軟を重点に置く事にした。
それと出来るなら、整備された運動場を使うのが一番いい。
ゴミや石ころもなく、滑りやすい箇所もなく、平坦で足を痛めにくく、怪我をする要素が少ない。
例え、怪我をしてもすぐ保健室で治療が行える。水分補給で500mlのペットボトルを持つ必要もない。
水飲み場で自由に飲める。
その運動場の地質を知って、走り慣れておくのも大きな要素だ。
『と言っても』
放課後は部活動で、皆、忙しなく運動場を使っている。
部活に入っていない俺が、勝手に運動場に入ったら怒られるだろう。
『朝か昼に使う事になる。……運動場の整備さえやっておけば文句は言われないだろう』
昼食は4限目に早弁。昼食タイムにランニング。アラームで15分前に終了し、運動場を整備する。
それと最初だし、先生に断りだけ入れておくか。
一つ一つ、頭で必要な事を整理し、計画を作っていく。