~学校~
~生徒会室~
『盗んでいないのだから、盗んでいないと答えるしかありません』
『財布が歩いた訳でもないだろう』
次の日、登校すると今度は、先生が問い詰めてきた。
しかも朝っぱらから2人で言い合い。うざい事この上ない。
この問題が長引く事は予想していたが、神経がまいってきている。
何か打開策を考えないといけないかもしれない。
~昼休み~
イライラしてしまい授業を受ける気がせず、1~4限目の授業は全てサボり、昼食も早めに取って、ランニングの準備をしていた。
しかし準備万端だったのに案外、肝心な事を見逃したりするものだ。
体育の時、体操着に着替えるときはいつも教室を使う。
昼休みに教室が使える訳がなく、どこの部室もカギがかかっている。
……となると、制服で走る事になる。結構、恥ずかしい事になってきた。
『………』
しかし、やらないといけない。いけないんだ。
ランニングをするだけだ。ランニングをするだけなんだ。
トレーニングをするだけなんだ。何も悪い事ではない。
とにかく走らないといけないので、人の目を気にせず走り出した。
~運動場~
『いいか、慣れるまでの問題だ』
何度か小さく呟き、自分に何度も言い聞かせる。
自分の足跡を綺麗になくすグラウンドレーキを用意し、上の制服とカッターシャツも脱いで、Tシャツになる。
外で日差しに当たりながら、昼食を取っている学生らは何を始める気なのかと見ている。
今も、ビッシリと視線が痛いくらいに感じる。
『………』
体操、ストレッチを終えると、早速走り始めた。
あちこち足跡を付けると、グラウンドレーキで整備する箇所も増えてしまう。
ラインの外側のみ走ろう。
幾つもの注意事項を課し、ランニングを続ける。
『はぁ、はぁ、はぁ』
3週目まで来ると、人の目を気にする余裕はなく、ランニングに没頭してしまう。
スピードを意識しすぎたのか、筋肉痛で疲労が取れていないのか、やけに疲労を感じてしまう。
もっと遅く走れ、もっと遅く走れ、自分に言いきかせて自分のペースを作る。
~バーガーショップ~
学校で授業を受ける気を無くし、今日は全ての授業をサボる事にした。
ドリンクだけを頼み、読書に時間を費やす。
携帯にはクラスメイトからメールが来て、受信箱に幾つものメールが届いている。
それを一つ一つ、開いてみる。
『弟君、今どこにいるの!?』
『兄さん、運動場で走っていたって本当?しかも制服で?というか行動がよく解らなくて、理由を知りたいんですけど』
『義之!学校に戻ってきて。先生、怒ってたよ』
『授業を全部サボるとは、やるなー義之。今度、俺も誘ってくれよな』
渉は相変わらずだな。吹いてしまいそうになった。
残りの3件も面白そうなので、一気に読む事にした。
『あなたの行動は滅茶苦茶面白いわ』
『戻ってきなさーーーい』
『話がある』
??、差出人は杉並か。でも何だろう。
……、今回の財布の盗難事件の話が濃厚っぽいな。
すぐ、『どこで会う?』と返信をして、2~3分の間、携帯を眺めていた。
メールの着信音が鳴り、すぐメールを開いた。
『お前の居るバーガーショップでな。10分で行く』
『………』
なんで、俺の居る場所が分かるんだよ……
俺は服をまさぐり、発信機が付けられていないか無意識にチェックした。
勿論、そんな物は付いていないわけだが……
……
…
『待たせたな、桜井よ』
『待つほどでもないよ。俺は時間を潰していたんだし』
『隣、いいか?』
『ああ、……お前水しか頼んでないのか?』
『こんな体を壊す店で注文する気になれん!』
『よせ!、聞こえるだろ』
俺はすぐ周りを見渡した。
客しかいないのが幸いして、胸を撫で下ろした。
杉並は本当に何を言うか解ったものじゃない。
店長に聞かれたら、退店を命じられていたかも知れない。
『迂闊な事を言うなよ。肝を冷やしたぞ』
『だが桜井、貴様も体に悪い事が分かっているからこそドリンクのみではないのか?』
『……変に鋭いな』
『お前の考えなどお見通しだ』
『で、話とは何だ?』
『聞くまでもなかろう』
やはりそうか。俺は読みかけの本を閉じて、鞄に入れた。
俺自身、質問したい事が山ほど出来るかも知れない。
トイレの時間も惜しいので、ドリンクも飲むのを止めた。
『だが俺の話の前に、先に貴様の話からだ』
『……何の?』
『決まっているだろう。昼休みのお前と一ツ橋とのバトルの話だ』
『……バトルではないからな』
~中略~
『大まかに話したが、そんな感じだ。素直に白状したし、先生や生徒会には言わない様にした。と言っても音姉は例外になってしまうが』
『桜井……、お前なぜそんなところで男気を見せる様なマネをする。お前は何も悪くないのだぞ』
『俺が最初から生徒会に事実を伝える気でいたら、白状してくれそうになかったんだよ』
『……バカになったのか、桜井』
『………』
『一ツ橋の不可解な行動をしている写真を生徒会に提出するだけでいい。おって、一ツ橋が生徒会に追及されて詰むだろう。お前が白状させる必要はない』
……今、俺は杉並の真剣さに面食らっている。
いつもの杉並なら、こんな真剣な口調を続ける事はない。どこかで冗談かバカげた事を言う奴だ。
表情も全く緩まないので、俺の取った行動をもう一度、考え直してみる事にした。
『あんな奴に情をかけても、何の得にもならんぞ。仇になっているだけだ』
『仇になっている?進行形という事は……』
『話がある、とメールしたのはその事だ』
『続けてくれ』
俺がそう言うと、杉並は化学の授業で使う様な小さな長方形の紙を取り出し、頼んだ水に浸して色が変わるか確認している。
こいつ、そんなにこの店の品質が信用ならないのか。
『昨日、生徒会に複数の生徒から情報をもたらされた』
『どんな?』
『財布が盗まれたその日、お前が保健室に出入りしているのを見たという情報だ』
『俺が?』
『そう言っただろう』
『バカげてる。その日は保健室の近くにすら行かなかった。流石にその位の記憶は残っている』
『お前の言っている事が正しいのなら、誰かがウソの客観的事実を作っている事になるな』
『………』
『………』
俺は暫く言葉を失った。
そんな事をする人間は限られてしまう。
俺にウソの客観的事実を作る事で、優位性を作る人物……
『一ツ橋か?』
『生徒会ではお前の疑惑は薄れている。その日、お前が誰にも目撃されず学校に残っていたのが不幸中の不幸だが、一ツ橋の場合、確実に保健室に出入りをしている。しかも先生は仮眠中だ』
『……俺と一ツ橋、均等の立場にする為の嘘の証言って事か?』
『今朝、お前が先生に呼ばれたのは複数の証言が理由だ。ただし、頭の悪い先生には違いないが』
『頭の悪い?』
『生徒の証言を真に受けすぎという事だ。その複数の生徒の名前を知る限り、一ツ橋とよく喋っていた連中だ』
……おかしい、杉並の説明は生徒会の情報を知り過ぎている。
生徒会が俺の疑惑が薄れている事、生徒会に証言した生徒の名前を全て把握している事、今朝俺が先生に呼ばれた理由……
生徒会もこういう情報は基本、一般にしないはずだ。
しかも、杉並は生徒会のブラックリストで、相当な警戒をされている。
『やけに生徒会の内情に詳しいな。内通者でも作ったか?』
『おっと、喋り過ぎたか。まぁこれは隠す事でも何でもないがな』
『それで?』
『朝倉姉の方から俺に頼まれた事だ』
『な……、一体何を?』
『お前を救う目的で、一時的に組んでほしい。情報の共有をしてほしいとな』
『………』
『猫の手も借りたいってやつだ。今は生徒会も決定的な打つ手がないのだろう。朝倉姉には、今日にでもお前が事情を話しておく事だな』
『……ありがとう、解っている』
俺は残っていたジュースを一気に飲み干した。
……くそっ、まさかそんな行動に出てくるとは思いもしなかった。
今後の動向も気が抜けないのかも知れない。迂闊な行動を控えねば……
正直、4話くらいに終わらせるつもりだったが、あれもこれもとイベントを作ってしまい、かなり長くなってきている。失敗した……