よろしくお願いします!
彼女との出会い、それはどしゃ降りの雨の日だった。
5メートル先を見通すのにも苦労するような、ひどいどしゃ降りだった。
*******
「……マジか」
神社の片隅で雨宿りしながら、現実逃避しようとする俺。もちろん、そんなことで事態は好転しない。ざあざあと雨が地面に叩きつけられる音に、俺の呟きは虚しくかき消された。あまりの豪雨に、檻に閉じ込められたような感覚になり、慣れない土地なのも手伝って、胸に居座る孤独感が増幅している。
……別に高校の出だしで躓いて、ボッチ生活が続いているからではない。
それに、恐らく出だしが変わっていたところで、ボッチのままだったと思う。まあ、それでも自覚があるだけまだマシだろう。世の中には、自分をリア充と勘違いしている痛い奴もいるらしい。「いつからリア充と錯覚していた?」とツッコミたくなるくらいに痛々しい奴が。
とはいえ、そんな事実で自分を慰めても、現状が変化するわけではないのも事実。
今はとりあえず……雨、止んでくれ。
「はっ……はっ……」
前をぼんやり見ていると、うっすらとこちらに向かってくる人影が見える。色は……白と赤?
まさか……幽霊じゃないよね。浴衣姿の幽霊なら割と歓迎するのだが……いや、やっぱり駄目だ。自分のスペックにはそこそこ自信があるが、特別高いわけじゃない。
どうでもいいことを考えていると、その人影ははっきりと色と形を結び、自分の隣に飛び込んできた。
「あ~、もう!いきなり雨降るとか……」
彼女はぶつぶつ文句を言いながら、手に持ったスーパーの袋についた水滴を払う。しかし、それよりも目を引いたのは、その服装である。
巫女服。
始めて見るわけではないが、彼女はこれまでに見た誰よりも似合っていた。丈長で上品にまとめられた、ほんのり紫がかった髪は、雨に濡れたせいで額や首筋に貼りつき、艶やかな魅力を放っている。
そして、巫女服もずぶ濡れになったせいで、その豊満な身体のラインをはっきりと浮き立たせ、うっさらと紫色が透けて見える胸元から、目が離せないでいた。
数秒そうしていると、彼女がこちらに気づき、顔を向けてきた。
「あら?」
「……っ」
慌てて視線を逸らす。一応断っておくが、俺は決してふしだらな視線を向けていたわけではない。紳士たる俺は、彼女が風邪をひかないか、心配していたのだ。ハチマン、ウソ、ツカナイ。
「君、雨宿り?」
「え?あ、ああ、ひゃい」
噛んでしまった。だから、ふしだらな感情などないと、何度言ったら……。
「ふふっ、焦らんでもええよ?」
関西弁……巫女服に巨乳に関西弁とか、ちょっと属性を欲張りすぎじゃないですかねえ。金髪、ハーフの転校生とか、そんなレベルだ。
とりあえず向き直ると、大人びた美貌に視線を釘付けにされる。
目はぱっちりしているが、けっして鋭くはなく、優しげな視線をこちらに注いでくる。そんな感じに、顔のパーツは整いながらも優しい丸みを帯びており、ぽってりと厚みのある唇の色気も、胸の鼓動を高鳴らせる。
彼女は無言のままの俺に対し、気さくな調子で話しかけてきた。
「ここにはお参りに来たん?」
「え?ええ……まあ……」
今日ここに来たのは、単なる気まぐれだ。来たるべき進級に備え、柄にもなく遠出をして、英気を養おうとしたに過ぎない。そして、何となく神社に足を運び、いい1年とは言わない。平和な1年になりますように、なんて祈っていたところで、運悪く雨に降られた。おい、初っ端から躓いてんじゃねえか。
心中で毒づいていると、巫女さんの微笑みが向けられている事に気づく。
「じゃあ、大事な参拝客さんのために、ウチが傘貸してあげるから待ってて」
「……え?あ……」
こちらが反応する前に、彼女は雨の中、境内へと走っていった。
*******
10分程してから彼女は傘を差しながら戻ってきた。
服は私服になり、髪はおさげにしてある。片手には折りたたみ傘が握られている。
「はい、これ」
「……ありがとうございます」
降って湧いたような幸運に、いまいち現実味が持てずにいると、巫女さんはまた傘を傾け、親しげな視線を送ってきた。
「気いつけて帰り。それとな……」
「?」
「女の子は男の子の視線には意外と敏感なんよ。ウチは慣れてるけど、学校ではさっきみたいにジロジロ見んほうがいいよ」
「…………」
彼女の去り際の悪戯っぽい笑顔は、家に帰っても頭から離れなかった。
読んでくれた方々、ありがとうございます!