あの作文、つい何度も読み返しちゃったなぁ。
字の感じからして、多分思ったことをそのまま書きなぐっただけなんやろうけど、だからこその嘘偽りのない本音。
決して肯定はできない。でもあっさり否定もできない。
そんな彼の考え方……って、ウチ考えすぎやね。はやく書類まとめないと……
「希、やけに機嫌よさそうね」
「ん?そう?そう見える?」
「μ'sの子達とは別の良いことがあったのかしら?」
「無駄に鋭いんやね、エリチは。まあ、ちょっと……ね。興味深いものに出会ったというか……」
「何か匂うチカ」
「ん?エリチ、今……」
語尾がおかしかったような……。
「何?どうかしたの?」
「……ううん。何でもないよ」
エリチはいつもの賢い可愛いオーラを振り撒いている。うん、やっぱりウチの気のせいやね。ぼーっとしすぎてたのかも。
書類をまとめ終えたエリチは、こっちに立ち上がり、真面目な表情になった。
「じゃあ、私は理事長室に行ってくるわね」
「うん。いってらっしゃい」
足早に生徒会室を出ていくエリチの背中は、どこか焦っていて、余裕がないように思える。
新学期に入ってから持ち上がった廃校問題。動揺している生徒も少なくない。責任感が人一倍強いエリチは尚更だった。
そして今日も理事長に、生徒会として廃校阻止の活動をする許可をもらいに直談判しに行ってる。
この前はNOを突きつけられた。
……きっと理事長は気づいているんやろうな。エリチが無理してること……。
そこで、校門の辺りを三人並んで歩く女の子達が見えた。彼女達は、今朝も早い時間からトレーニングをしていた。
そう。廃校阻止に向け、動いている子達がここにも……。
「……騒がしくなりそうやね」
カードは確かにそう告げていた。
*******
「へぇ~、比企谷君がテニスを……ふふっ」
「はい。まあ、成り行きで」
「……そのわりにはやけに機嫌よさそうやね」
「そうですか?」
「うん。返事がやけに早いし、声も弾んでる。もしかして、テニス部に可愛い子でもおったん?」
「いや、依頼人は男子ですよ」
「じゃあ可愛い男の娘やったん?」
「……ち、ちち、違いますす、よ?んな訳ないじゃないですか……!」
「めっちゃ動揺しとるやん……ふふっ、でも見てみたいなぁ、比企谷君がテニスしてるとこ」
「いや、めっちゃ笑う気満々でしょ」
「ウチがそんな意地悪なお姉さんに見える?」
「…………」
「おやおや?何で黙るん?言いたい事があるなら、はっきり言った方がええよ?」
「いえ、な、何も……」
「ふふっ、まあ頑張ってね」
「……ありがとうございます」
通話を終え、ベッドに寝転がる。夜に携帯がいきなり震えて怪奇現象だと思わなくなった辺り、大きな進歩じゃなかろうか。悲しすぎる。
……今日はやけに喋ってた気がするが……ただの気のせいだろうか。
一瞬で訪れた静寂が耳に馴染むまで、少し時間がかかった。
しかし、それからすぐに眠気がやってきた。
眠りに落ちる寸前、俺の書いた作文と彼女の傘が頭の中に浮かんだ。