「比企谷君……いい朝やねぇ」
「ええ。家で寝ていられたらもっといい朝でしたね」
休日の朝、俺は神社周辺のゴミ拾いに勤しんでいた。本来なら惰眠を貪り、ゲームか読書をする予定だったのだが、前日の夜に東條さんから呼び出されたのだ。呼び出されただけであっさり出てきちゃう俺……案外社蓄適正が高いのかもしれん。
溜め息を吐く俺に、東條さんはクスクスと笑った。
「ふふっ、たまには朝陽を思いきり体に浴びたほうがええんよ」
「……スピリチュアル的に、ですか?」
「そうやね。それに……」
東條さんは、顔をぐいっと近づけ、耳元で囁いた。
「……君と迎える朝も中々素敵やん?」
「い、いや、変な言い方はやめてくれませんかね……」
うっかり変な妄想しそうになるだろうが。脳内で二人で朝を迎えて何気なく暮らしちゃうだろうが。
まあ、この人のからかいに逐一反応していたら時間が幾つあっても足らないので、さっさと作業を再開する。この手の単純作業は別に嫌いじゃない。働きたくはないが。
「ふふっ、何だかんだ真面目にやってくれるところは好きよ」
「そ、そりゃどうも……」
落ち着け、俺。好きという単語にいちいち反応するな。これも全てからかい上手の東條さんの罠だ。
しかし、神社という場所だからか、こうしていると運気が良くなっていくような気がする。もしかしたら帰りに一万円ぐらい拾っちゃうんじゃなかろうか。
「邪な考えを持つと運気が下がるから気をつけなあかんよ」
「…………」
地の文読む力あるとかスピリチュアルすぎんだろ……。
*******
「はぁ……ようやく終わった」
「お疲れさん♪」
作業を終え、手の甲で額の汗を拭っていると、東條さんがスポーツドリンクを手渡してきた。
「……どうも」
「ふふっ、いい汗かいとるね。気分はどう?」
「……やっぱ将来は専業主夫になるべきだと確信しました」
「あはは……まあ君らしい答えやね。じゃあ、もう上がりだから、着替えたら行こっか」
「えっ?まだ何かあるんですか?」
「そんな露骨に警戒しなくてええやん?朝から働いてくれたお礼にご飯くらいご馳走するだけやよ」
「いや、その、俺は給料分働いただけなので、お礼を言われる筋合いはないと言いますか……それに、奢ってもらうとか申し訳ないんで……」
自分でも何を言いたいのかわからないまま、とりあえず言い訳じみた言葉を並べ立てると、彼女はそれをさらりと受け流すように笑い、俺の隣に並んだ。
「誰も奢るとは言っとらんよ。こういう時の為に用意してたから」
「……え?」
ワンテンポ遅れて彼女の言葉の意味に気づいた時には、既に彼女は歩き出していた。
俺は慌ててその背中に声をかけた。
「いや、さすがに家とか……」
「なんか問題あるん?」
「えっ、いや、その……てかあんた、俺の事好きなんですか?」
「ふふっ、かもね♪」
「はっ?……」
「何て言ったらどうする?」
「…………別に」
「あははっ、そんな顔しないの。お礼したい気持ちは本当やし。それに……」
「?」
首を傾げた俺に、彼女は今日一番の小悪魔めいた笑みを見せた。それだけで、何だか先の言葉が予想できてしまった。
「比企谷君なら突然押し倒すような度胸はないやろ?」
「…………」
……予想できていたが、対応はできそうもない。
何か反論しようにも今は何も思いつかなかったので、続きは彼女の家に向かう途中で考えることにした。
……結局ついて行っちゃうのかよ。