メイド喫茶前に到着すると、既に結構な人だかりができていた。ライブ映像のコメント欄を見た時も思ったが、割と人気があるようだ。
さて、東條さんはどの辺りにいるのだろうか……。
少し離れた場所から、そっと人だかりの隙間を見つめていると、背後に人の気配を……
「ふぅ~……」
「っ!?」
耳元に生温かいものがかかり、ぞわっと総毛立つ感覚がした。
「うん、ええリアクションやね」
「い、いや、何やってんすか。心臓止まるかと思いましたよ……」
振り返ると、小悪魔めいた彼女の笑みがそこにあった。いや、この人は本物の小悪魔じゃなかろうか。
普段は巫女服を着ている小悪魔は、今日はいつかのようなメイド服姿だった。
「…………」
「ふふっ、どうしたん?ぼーっとして」
彼女はぴょんっと跳ねて、俺の前に立った。その際、ある箇所が大きく揺れ、そこだけかなり悪魔的だった。
そこで再び彼女と目が合う……おかしい。やましいところなど何一つないはずなのに、ギクッとちゃったぞ……。
彼女は俺の視線を悟っていたのだろうか、東條さんは目を細め、口を開いた。
「どこ見とるん?」
「……こ、このライブの成功を夢見ています」
「そっかぁ、このライブの成功の鍵はウチの胸に詰まってるんやねぇ」
「…………」
……さて、家に帰ったら腕立て伏せをしっかりやりますかね。
「お待たせ!」
いきなりの大声に視線を向けると、そこにはさっき遭遇した金髪さんがいた。
早すぎる再会に驚いていると、東條さんが彼女に声をかけた。
「あっ、エリチ。随分早かったやん」
「ええ。全力で走ったから何とか……あ」
彼女と目が合う。
俺はとりあえず会釈しておいた。
「……どうも」
「ふふっ、また会ったわね」
「あら?二人は知り合いなん?」
「いや、その、知り合いといいますか……」
「今さっきそこでぶつかったのよ。うんめぃ……偶然ね」
「…………」
この人、なんか変な言い間違いしなかったか?いや、まあ気のせいか。
東條さんは、俺と金髪さんを交互に見てから、今度はさっきとは違う質の笑みを浮かべた。ただ、どこがどう違うのかまではよくわからなかった。
「そう言う希こそ彼と知り合いなの?」
「うん。ウチと比企谷君は仲良し小好しだもんね~」
「え?あ、その……」
「あれ?仲良し小好しだと思ってたのはウチだけやったんかなぁ?」
くっ!何でいきなりこんなテンションに!あと近い近いいい匂い近い!
するとエリチと呼ばれた金髪さんは、強引に俺と東條さんの間に割って入ってきた。
「ほらほら、そんな絡み方したら彼が困ってるでしょう?」
この人もこの人で近いんだが……そ、そして、いい匂い……。
「アンタ達、ライブ前に何やってんのよ」
今度は年下っぽい女子がやってきた。確かこの子は……
「にこっち、どうしたん?」
「どうしたん?じゃないわよっ、絵里も忘れ物取ってきたんなら早く着替えないと、そろそろ時間よ」
「あっ、そうだったわ。じゃあ、比企谷君……だったかしら。ライブ楽しんでいってね」
「あ、はい……」
二人はパタパタとメイド喫茶に入っていった。金髪さんが何度か振り返りながらだったのが気になるが……。
「さぁて、ウチも戻らんと。比企谷君、熱い声援よろしく」
「……まあ、その……心の中でなら」
「ふふっ、じゃあ行ってくるね」
「……ええ」
そう言って駆け出す彼女のやわらかな微笑みは、やっぱり大人びた年上のもので……。
何故か頬がじんわり熱くなるのを感じた。
「あっ、そうそう、にこっちはあれでもウチやエリチと同い年やからね~」
「……そうですか」