「♪~~」
「希、今日は機嫌いいわね。何か良いことでもあった?」
「別に~、いつもどおりやよ」
エリチの言葉についつい首を傾げてしまう。そんなに舞い上がっているように見えたのだろうか?
つい自分の頬を触ってみると、エリチがこっちを見ながらニヤニヤ笑っていた。
「な、なぁに?」
「ふふっ、いつものように誤魔化そうとしても私にはわかるわよ」
「はあ……」
エリチの宝石のような青い瞳は、本当に全てを見透かすくらいに輝いている。しかし、ウチ自身にもわからない。そもそもどんだけ機嫌よさそうやったんやろ?
思い当たる節はなくはないけど……まあそれが全部じゃないし。
「さっ、練習練習♪」
「……比企谷君ね」
「っ!」
何故かはわからないけど、図星を突かれたみたいに体がビクッとしてしまう。
……何でやろうね?
「も~、エリチったら。いきなり変なこと言わんでよ~」
「ふふっ、たまにはいいじゃない。だって事実なんだし」
事実……なんかなぁ?
色々あって、最近連絡を取り合うことは多いけど、彼と話してる時の感覚がそういうのかは正直わからない。
……そもそも恋がよくわからないのかもしれない。
告白された事とかは一応あるけど、転校が多いという最もらしい理由をこじつけてお断りしていた。
それに、周りの女の子達の恋愛話にもあまり興味が持てなかった。
「希~……もしも~し」
「えっ?ああ、ごめん。ぼーっとしとった」
おっといけない。つい考え込んでた。
すると、エリチが頭を撫でてきた。
「何でいきなり子供扱い……いつもはそっちがポンコツやのに」
「そうだったかしら?この私がポンコツだったことなんて一度もないけど」
「今世紀最大のウソをどうもありがと」
「それより、比企谷君のこと色々教えなさいよ。どんな風に知り合ったのかしら?」
「エリチどうしたん?やけに食いつくね~」
珍しい。普段は男子の話なんてしないのに。
すると、彼女は何故かドヤ顔で笑った。ポンコツが少し出てきたね。
「だって……あんな素敵な目をした男の子、初めて見たわ」
「……目?」
つい首を傾げてしまう。
おかしいなぁ?私が知ってる比企谷君とエリチが言ってる比企谷君は別人なんやろうか。
彼の目はどんより濁っていて、スピリチュアルの力で何とかしたいと思ってたんやけど……まあ、あのままでも可愛くはあるかな?
エリチはどこかうっとりした表情をしている……こ、これはマジなやつやね。
「それで、希」
「な、なぁに?」
「比企谷君について、できるだけ詳しく教えてくれないかしら?」
「……ウチもまだ詳しく知らんからねぇ」
よくよく考えてみれば、まだウチは比企谷君の事はそんなに知らない。
入ってる部活や、変な作文は知ってても、もっと日常的な事についてはよくわからない。
この前も比企谷君の哀愁漂う思い出話やったし……今度はそういう話もしてみようかな。
「希~、もしも~し。ふぅ……やっぱりライバルになりそうね」
「え?なんか言った?」
「何も」
「いやアンタ達、何話してんのよ」
いつからいたのか、にこっちがジト目でこちらを見ていた。今日も相変わらずにこっちやね。
「どうかしたん?」
「さっきから黙って聞いてれば……いい?私達はアイドルなのよ。男に現を抜かしてる暇なんてないんだから!」
「そ、そうやね!アイドルやもんね!よしっ、今日もレッスン頑張ろう!」
エリチの追及を逃れる為に、ウチは全力でにこっちの話に乗ることにした。後でにこっちにはブラ○クサンダーでもあげよう。
「あっ、希!もう……」
エリチの視線を背中に感じながら、自分の頬が少し紅くなっている気がした。
*******
「ふぅ……」
家に帰り、ベッドに身を投げ出すと、やっと気持ちが落ち着く。
エリチ……一目惚れしたんやろうか。
お堅い性格の彼女にしては意外だけど、予想外の出来事なんて、人生幾らでも起こる。
……ウチにもいつか、そんな日が来るんやろうか?
とてもじゃないが、想像がつかない。
いや、今はそれより……比企谷君に電話しとかんと。好きな食べ物くらいは……何のためかはわからないけど。
彼の番号を選択すると、飾り気のないコール音がしばらく鳴り続けた。
七回……八回……九か「はい」
その声につい笑みが零れてしまう。
「ふふっ、やっと出た。ねえ、比企谷君……」
さあ、なんて事ない話をしよう。