捻くれた少年と寂しがり屋の少女   作:ローリング・ビートル

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DOWN TOWN #9

「ふむふむ、ここが比企谷君の部屋か~。意外と綺麗にしてるんやね」

「…………」

 

 ……なんでここに先輩が!?

 いや、今まで先輩とか呼んだことないんだけどね?

 つい変なテンションで、そう考えたくなる今日この頃……。

 クラスメートですら上がったことのない俺の部屋に、何故東條さんがいるのか。

 理由は遡ること数時間前……

 

 *******

 

「ほら、お兄ちゃん!腐った目してないで、はやくはやく!」

「へいへい」

 

 休日の昼間に妹の荷物持ちとか、兄冥利につきる話ではあるけれど、やはり家でゴロゴロしていたい。惰眠を貪りたい。

 そんな気持ちを片隅に、小町の後ろを歩いていると、何故か視線を感じた。

 そして、ふと目線を向けた先に、その人は立っていた。

 

「あら、比企谷君?」

「ど、どうも……」

 

 まさか、また千葉駅近くで会うとは……何、この人?千葉大好きなの?それとも俺の事好きなの?

 

「ふふっ、どうしたん?そんな驚いて」

「いや驚くでしょ、そりゃあ……」

「今日も用事があって来たんよ。もしかしたら比企谷君に会えるかな~とは思ってたんやけど。本当に会えるとは……ウチら赤い糸で結ばれてるんやろうかね?」

「…………」

 

 東條さんが頬に手を当て、いつものように悪戯っぽい笑顔を向けてくる。やばい……これはいつものパターンだ。

 そう思っていたのだが、今回はそうはならなかった。

 

「ちょ、ちょっと、お兄ちゃん!こっち来て!」

 

 いきなり小町から腕を引かれ、ひそひそと耳打ちされる。

 

「何だよ……」

「何だよじゃないよ!誰、あのグラマーな和風美人?小町、あんなの聞いてないよ!」

「……まあ、言ってなかったからなぁ」

「もしかして、比企谷君の妹さん?」

 

 いつの間にか距離を詰めていた東條さんが、会話に割り込んでくる。

 さっきとは打って変わった優しい笑みを向けてくるが、これが作り物であることはすぐにわかった。

 ……この人、間違いなく面白いものを発見したと思ってる。

 しかし、そんな事はどうでもいいと言わんばかりに、二人は既に自己紹介を済ませ、会話を始めていた。

 

「それで、希さんはお兄ちゃんとはどんな関係なんですか?」

「いや、普通にただの知り合いなんだけど……」

 

 ぼそっと言うと、東條さんはわざとらしく両手で顔を覆った。

 

「うぅ……ひどい……ウチと比企谷君の仲なのに~」

「あー、お兄ちゃん、ひど~い」

「…………」

 

 どうやら余計な事は言わないほうがいいようだ。

 首筋に手を当て、溜め息を吐くと、小町が東條さんに人懐っこい笑顔を向けた。

 

「あのですね~、今小町と兄は二人で買い物に来てるんですけど、希さんもよかったら一緒にどうですか?」

 

 小町の唐突すぎる申し出に、東條さんは笑顔で頷いた。

 

「ええよ。もう用事も済んだし」

 

 まさかの即答である。

 ついつい口をポカンと開けていると、彼女はいつもの笑みで、心を揺さぶってきた。

 

「比企谷君がオーケーなら、やけど……」

 

 断れるはずもないし、断る理由もない。別に嫌なイベントでもないし。

 俺は黙って頷き、二人の後を静かについていく事にした。

 心が少し……ほんの少し弾んだ気がしたのは、多分気のせいだろう。

 そして、このことがちょっとした事故のきっかけになるとは、無論知る由もなかった。

 


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