捻くれた少年と寂しがり屋の少女   作:ローリング・ビートル

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君は天然色 #3

 夏休みの過ごし方……それはやはり、エアコンの効いた部屋で読書やゲームやアニメが最高だと思うし、これまではそれを実践してきた。

 しかし今年はだいぶ違った。何故なら……

 

「比企谷く~ん。そろそろ休憩入ってええよ~」

「……はい」

 

 こうして、俺は夏休みに入ってからも、たまに神社でのバイトに励んでいた。立派な社蓄への道をコツコツ歩んでいるようで、何なら今すぐ帰りたい。しかし……

 

「比企谷君、今日はやけに頑張ってるね。何かあったん?」

「……いや、別に何も。まあ、何もないからこそ、こうして有り余ったエネルギーを発散させているんだと思いますけど……」

 

 結局、宿題を終わらせ、部活は休みなので、自然と仕事に精をだしてしまう。関係ないけど、精をだすって下ネタにも聞こえます!

 そんなくだらないことを考えているとは知らずに、東條さんは腕を組み、感心したように頷いていた。それにより、胸が強調されているが、おそらくご褒美だと思うので、黙ってチラ見しておくとしよう。

 

「うんうん。とっても健全やね。そんな健全な比企谷君には、このMAXコーヒーを上げよう♪」

「……どうも」

 

 さらにMAXコーヒーのご褒美までつくとか、さてはここ……優良ホワイト企業だな?

 俺は幸運に感謝しながら、とろけるように甘い液体で喉を潤した。

 

「美味しそうに飲むねえ」

「実際美味しいですからね」

「この前のシチュエーションとどっちが美味しい?」

「……何の話ですかね」

「比企谷君がウチを押し倒したり、二人乗りの時に背中で胸の感触を味わったり……」

「…………そういや、μ'sのほうは最近どうですかね?」

「露骨に話題をすり替えたね~。皆元気にやってるよ。誰か気になるん?」

「いや、別に」

「まあまあ、もうだいぶスクールアイドルの顔も覚えたんやろ?比企谷君の推しメンは誰かお姉さんに言ってごらん♪」

 

 推しメン、か……まあ、あの人しかいないな。

 

「……優木あんじゅ」

「え、何て?聞こえんかったからもう一度」

「……優木あんじゅ」

「……そっかぁ。ああ、喉が渇いたなぁ」

「えっ?」

 

 東條さんは、いきなり俺の手からマッ缶を奪い取り、こくこくと飲み始めた。

 それ、まだ半分以上残っていたんだが……。

 あと間接キスになってますけど……。

 すぐに飲み終えた彼女は、空になった缶を俺に渡し、爽やかな笑顔を向けてきた。

 

「さっ、休憩終わりだから、そろそろ行こっか♪」

「は、はい……」

 

 何故だろうか。いい笑顔なのに、目が笑っていない気がするんだが。

 しかし、そこにツッコむ勇気はなく、黙って立ち上がると、彼女は今思い出したと言わんばかりのテンションで、衝撃的な一言を呟いた。

 

「あっ、そうだ。今度海行こっか」

「……は?」

 

 そんな一言をはっきり理解するのに、俺は数分の時間を要した。

 

 *******

 

 どこまでも広がる青い海。

 真っ直ぐに横たわる水平線。

 そして、穏やかに揺らめく海。

 ……マジか。本当に来たのか。

 先日東條さんから言われた時には、冗談かと思い流していたのだが、昨日の夜連絡が来たのにはマジで焦った。

 まだ現実味がないからか、砂浜から伝わってくる熱も、周りを取り囲む喧騒も、どこか遠く感じる。

 ちなみに、東條さん……達は着替え中だ。

 まあ、そろそろ来る頃だと思うが。

 

「お兄ちゃん、お兄ちゃん!おっ待たせ~!」

 

 まず着替え終ったのは、ディアマイシスターか。

 こちらにとてとてと歩み寄ってくる小町は、可愛らしい黄色い水着を着ていた。とはいえ、妹の水着姿だが……

 

「ほらほら、何か言うことはないの?」

「ああ、世界一可愛い」

「うわ、テキトー……でも、あの二人の水着姿を見て、そのテンションでいれるかな」

「…………」

 

 小町の言葉に、つい想像力が働き始めるが、ここは何とか抑える。落ち着け。俺は家に帰りたいだけなんだ。

 

「比企谷く~ん!」

 

 ざわめきが砂浜を揺らした。

 振り向くと、絢瀬さんがこちらに駆け寄ってくるのが見えた。モデルばりのプロポーションに加え、白い肌と水色のビキニ姿がひたすら眩しく、男子だけでなく、女子の視線も集めている。

 そんな視線を気にもせず、彼女はこちらに得意気な笑みを見せた。

 そして、その後ろを東條さんが苦笑いで歩いている。言うまでもなく周りの視線を集めながら。

 すると……

 

「おい、見ろよ。アイツ……」

「うわ……美少女3人も……」

「ザキ」

「ちっ、ボッチのくせに!!」

 

 やはりこうなるか……てか、なんでお前は俺がボッチなの知ってんだよ。そろそろ正体が知りたい。

 しかし、どこにもそれらしい姿は見当たらなかった。ちっ、逃げやがったか……。

 

「ふふっ、比企谷君どうしたん?顔、赤いけど」

「い、いや、嘘ですよね。全然赤くないですよね」

「さっ、比企谷君、オイル、塗ってくれないかしら」

「……は?」

「比企谷君、オイル塗ってくれないかしら」

「…………」

 

 まさか、このようなベタなイベントに遭遇する日が来ようとは……何ならこの前夢で見たくらい理想的なイベントである。

 だが断る!!

 

「いや、その……さすがに直接触れるのは、アレなんで……」

「照れなくてもいいわ。私も初めてだから、ね?」

「…………」

 

 言い方がエロい気がするのは気のせいでしょうか?

 

「比企谷君、塗ってあげたらええやん?」

「…………」

 

 逃げ道を塞ぐように、東條さんがニヤニヤと笑顔を向けてきた……アンタ、絶対に楽しんでるだろ。

 

 *******

 

「よしっ、ありがと!比企谷君♪」

 

 絢瀬さんは、やたらいい笑顔で砂浜へと駆け出した。顔が赤かったのは陽射しのせいだろうか。どちらにしろ……疲れた。

 くっ……おいしい体験のはずなのに、ほとんど記憶にねえよ!MOTTAINAI!

 

「比企谷君、比企谷君」

「…………」

 

 東條さんの声が聞こえただけで、嫌な予感がした。むしろ確信した。

 

「ウチにも塗って♪」

「い、いや、その……」 

「なんで~、エリチには塗ってあげたんやろ?」

「ぐっ……」

「ふふっ、お・ね・が・い♪」

「…………」

 

 拒否権はないらしい。知ってたけど。

 俺は緊張を紛らすようにため息を吐き、サンオイルをゆっくりと右手に垂らした。

 

 

 


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