捻くれた少年と寂しがり屋の少女   作:ローリング・ビートル

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君は天然色 #7

 東條さんの提案で、急遽花火をすることになったのだが、まだ夜まで結構な時間があるので、とりあえず時間を潰す事になった。

 それはいいのだが……

 

「何故ウチに……」

「まあ細かい事はええやん?比企谷君の部屋でエッチな本を探す捜索隊が増えたわけやし」

 

 それがイヤなんですが……それと由比ヶ浜……「一体何冊あるんだろ」とか小声で言うな。顔を赤らめるな。

 

「じゃあ、小町も参加します!」

「せんでいい」

 

 小町ちゃん、お兄ちゃんがそんなもの持ってると思ってたの?ちょっとショックなんだけど。

 こうしてあるはずのないお宝捜索隊が結成された。

 いや、活動させないけどね?

 

「残念やね。八幡君なら『探せ!性癖の全てをそこに置いてきた!』とか言いそうなのに……」

「いつからそんなキャラ付けされてたんですかね」

 

 忸怩たる思いである。むしろ紳士扱いされてると思っていたのだが……。

 

「八幡、君……」

 

 背後で由比ヶ浜が何か呟いたが、近くを通りすぎた車の音にかき消され、よく聞こえなかった。

 

 *******

 

 数時間後。

 

「八幡よ、何故に貴様が夜の公園で花火など、リア充なイベントを?」

「それよかお前はいつからいた。話はそれからだ」

「まあまあ、花火は皆でやったほうが楽しいよ、八幡」

 

 いきなり参加する運びとなった材木座はともかく、戸塚の参加は素直に嬉しい。スピリチュアルな力を今だけは信じちゃうくらいだ。

 しかし、まさかこのメンバーで花火をすることになるとは、ある意味これが一番スピリチュアルやね!

 まあ、実際企画してくれたのは東條さんだし……。

 すると、彼女としっかり目が合った。

 

「ん?どうかしたん?」

「……いえ、何でもないですけど」

「ふふっ、そんな可愛い顔されたら気になるやん?」

「……そ、そりゃあ、暗くて視界が悪くなってるんですかね?」

「あははっ、そうかもしれんね♪」

 

 彼女は勢いよく放たれる虹色の光を、うっとりと見つめながら、くすりと笑ってみせた。

 ぼんやりと頼りない光が浮かび上がらせる輪郭や、その小さな笑顔が、切なくなるような儚さで、やけに胸の奥底を締めつけた。

 

「……比企谷君、何をそんな暗い顔してるの?」

「え?あ、いや……え?」 

 

 何の前触れもなく、背中に柔らかい感触と共に甘い囁き声が乗っかってくる。こ、これは……ま、まさか……いや、間違いなく……

 

「エリチ……だいぶ早い到着やね」

「そりゃあ、比企谷君……じゃなくて、希から呼ばれれば5分で飛んでこれるわ」

 

 その速度は色々と超えちゃってる気がするんですが、いいんですか……あと背中に当たってるのが色々と変な気分になるんで離れてくれると嬉しいんですが……。 

 

「あの……ヒッキーが困ってますから!」

 

 すると、由比ヶ浜が左腕にしがみついてきた。それと同時に柔らかいものが肘に当たる。いや、だからそれだとさっきより困った状況になってるからね。

 

「じゃあウチはこっちとった~!」

 

 やはりこの人も参加してきたか……ええい、そのしてやったりな表情やめい。色々と本気になったらどうしてくれる。

 

「なんだ、あの羨ましい状況……」

「おのれ、八幡……貴様はこちら側であろう……!爆発せよ!」

「ちっ、気に入らねえぜ!ボッチのくせによ!」

「エクスプロージョン」

 

 何やら怨嗟の声が聞こえてくる。

 おい材木座、何故お前まで一緒になっている。

 そして、そこのお前……何故お前は俺をボッチだと……ちっ、逃げやがったか。

 それとエクスプロージョンはやめてね、皆巻き込んじゃうから……。

 

 *******

 

 しかし、いざ始めてみると早いもので、東條さんが持ってきた花火は3分の2ほど消化された。

 小町と由比ヶ浜はまだまだはしゃいでいるが、俺は端っこで線香花火の小さな光を見つめていた。あぁ、なんか落ち着く……。

 

「一人で寂しくせんで、ウチもまぜて~」

 

 東條さんが隣に来て、自分が持つ線香花火を俺のにくっつけてきた。

 すると、二つの花火は合体して、ほんの少しだけ大きな塊になる。

 このなんともいえない状況に、どちらからともなく笑いあった。

 

「このままやるしかないかな」

「……そうっすね」

 

 二人して、ぼんやりと灯る炎を見つめる。材木座達が騒ぐ声や、花火の弾ける音が遠ざかった気がした。

 

「綺麗やね」

「ええ、まあ……」

「でも、なんか悲しい色やね」

「……かもしれませんね」

「ごめん。冗談やから気にせんでええよ」

「そうなんですか?」

「うん……そうなんよ」

 

 ぱちぱちと小さな火花を散らしながら、ゆっくり燃え尽きていく姿は、確かにそう見える。

 やがて小さな炎は地べたに落下し、あっという間に消えた。

 東條さんの横顔を見ると、街灯の弱々しい光に照らされた瞳が、淡く優しく揺れていた。

 その目はここではないどこか……もう戻りはしない何かを見ているようだった。

 それだけで急に心がざわつき、何か言わなければいけない気がした。

 

「……もう一本やりましょうか」

「そうやね。また……合体させる?」

「いや、合体とか……」

「あははっ、比企谷君は何を考えとるんかな~」

 

 それは健全な意味のほうでよろしいでしょうか?

 いつものように俺をからかう笑顔にほっとしながら、俺は彼女に線香花火を差し出した。 


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