夏休み最終日。
特にやることもないという、ある意味一番贅沢な一日を過ごし、あとは明日に備えて寝るだけ……と思っていたら、携帯が震えだした。
まあ、こんなタイミングで電話をかけてくる人は、あの人以外にいないだろう。
「やっほ~。こんばんは、八幡君」
「……どうも」
予想的中。しかし、彼女も少し眠いのか、声が若干とろんとしていた。
「あらら、夏休みがあと1ヶ月足りない~って顔してそうやね」
「……まあ否定はしませんよ。てか実際足りないと思うんですが……」
「まあまあ、そんな事言わずに。二学期はイベントがあって楽しいやろ。ウチらも文化祭があるし。八幡君もそうやろ?あと修学旅行とか……」
「そういや、そんなイベントがありましたね……」
うっかりしていた……そういやあったな。まあ、ぼーっとしてりゃ、そのうち終わってるだろ。できるだけ楽な作業に割り振られることを祈る。
「う~ん、かなりめんどくさそうやん……」
「まあ、どうにかして何もやらないをやるかを考えているところですね」
「ふふっ、それじゃあウチが当日行こっかな。なんか面白そうやし」
「今のやりとりのどこに面白そうな要素が?」
「文化祭じゃなくて八幡君が、だけど」
「いや、それこそ面白味にかけると思うんですが……」
「いやいや、八幡君こそ自分の面白さに気づいとらんやろ?八幡君よりからかいがいのある男の子はなかなかおらん」
「そりゃあ、どうも……つーか、褒められてる気がしない……」
「ウチの中では大絶賛なんやけどねえ」
俺の周りの女子、褒め方が下手すぎやしませんかね……褒められてるのに心が削られてる気がするんだが……。
「もちろん八幡君は音ノ木坂の学園祭に来てくれるんやろ?」
「……まあ、用事がなければ」
「うん。それでええよ。来たらたっぷりからか……もてなしてあげるから」
「今からかうって言おうとしてましたよね?本音隠せてませんよね」
「あっ、流れ星」
「誤魔化し方が雑すぎる……」
「八幡君を楽しくからかえるシチュエーションに出会えますように。よしっ」
「星に願っちゃったよ……てか、そんな願ってまで望むもんですかね」
「もちろん。ウチはね、こう見えて結構寂しがり屋さんなんよ」
「……そう、なんですか?」
それは意外な気がした。
なんだか実年齢より精神的に大人びて見えるからだろうか。
そんな事を考えていると、彼女はすぐに声色を変えた。
「うん。そうなんよ。ウチ、寂しがり屋だから……構って♪」
「っ…………」
甘い声音に脳が蕩け、体に電流が走ったかのような感覚。
たとえ自分の見せ方を心得ている者のフェイクだとしても、胸が高鳴らずにはいられなかった。本当にずるいな、この人……。
そして、彼女はスピリチュアルな力のおかげかは知らないが、それすらもお見通しのようで……
「ふふっ、可愛い?」
「……あー、そろそろ寝たほうがよくないですか?」
「素直やないね」
「明日に向け、体力を温存したいんですよ」
「じゃあ、八幡君が二学期を頑張れるように、ウチからプレゼントを送ろうかな」
「は?プレゼント?いや、それは……」
「そんな警戒せんでも、割と素敵なものやから楽しみにしててええよ」
「……そ、そうですか」
「おっと、もうこんな時間やね。それじゃあ、おやすみ~♪」
「あ、はい……って、もう切れてるじゃねえか」
電話をかけてくる時と同じでいきなりだな、と思いながら携帯をベッドに置こうとすると、再び携帯が震えだす。どうやら今度はメールみたいだ。
差出人は……やはり東條さんか。
しかもメールに画像が添付されている。
これがもしかして、さっき言ってたプレゼントってやつか……ぶっちゃけ開きづらい。
いや、あの人がウィルスを飛ばしてきたりしないのはわかってるんだけど……新しいからかいネタとかになりそうな……。
しかし、虎穴に入らずんば虎子を得ず。もしかしたら本当に良いものかもしれん。
意を決して画面を開くと、東條さんの水着写真がスマホに表示された。
この前着ていた物とは別の水着だった。さらに、派手目なアクセサリーも着けている。これは新しいPVに使ったやつか。
俺は苦笑いしながら、その画像を保存した。
……確かに良いものだ……こりゃあとんだドスライズだぜ。
夏休み最後の一日は、いつの間にか終わりを告げていた。