「へえ、八幡君が文化祭実行委員ねえ……」
「……まあ、寝てる間に勝手に決まったんですがね」
俺は神社のバイトの休憩時間に、東條さんと文化祭について話し合っていた。
二学期が始まり、さっそく文化祭実行委員を決めていたのだが、寝てたらいつの間にか決められていた……。
それを聞いた東條さんは、何故か優しく頷き、俺の肩に手を置いた。
「まあ、文化祭が終わるまではバイトも休みでええよ。どうせなら楽しくやれるといいね」
「……そう、ですね。そういや、そっちも今月の終わりには大会みたいなのがあるんじゃないですか?」
「ああ、ラブライブの事?そうやね……実は結構緊張しとるんよ」
「東條さんでも緊張するんですね。なんつーか……意外です」
「あははっ、ウチをなんだと思っとるん?緊張くらい普通にするよ」
そう言いながら笑う彼女は、たしかに普通の女の子に見えた。まあ、普段がスピリチュアルとかなんとか、やたらと風変わりだからな。
「八幡君はもちろん観に来てくれるんやろ?」
「……その日、用事がなければ」
「ありがと。じゃあ、ウチもしっかりいいもの見せんといかんね」
「…………」
いつから俺のオブラートに包んだこのフレーズは肯定の意味を持つようになったのだろう。まあ別にいいんだけどさ……。
「よしっ、しばらくバイト来れない分、今日はしっかり働いてもらおうかな」
「……了解」
しばらく彼女の顔が見れないという単純な事実に、胸の中に靄がかかったような気分になりながら、俺は立ち上がった。
*******
さあウチも頑張らんといかんね。
八幡君の高校の文化祭も楽しみだけど、今は練習に全力を注がなきゃいけない。
ただ、少し気になることがあった。
「穂乃果、少し飛ばしすぎですよ。休憩時間くらいはしっかり休んでください。最近夜もランニングしてるそうじゃないですか」
「もう少しだけお願い!ほら、大会まであとちょっとしかないから!」
「……わかりました」
最近、穂乃果ちゃんが頑張りすぎている。あれは明らかにオーバーワークだ。ただ本人の頑張りを尊重したい気持ちもあるので、海未ちゃんもあまり強く言えないでいる。
さらに……
「ことりちゃん、どうかしたにゃー?」
「えっ?あ、ううん。なんでもないよ。あはは……」
ことりちゃんも目に見えて元気がない。こう、何か言いたい事があるけど、言えずにいるみたい。これは……すごく深刻そうやね。
部活が終わってから聞いてみようかな。
「希、どうかした?」
「ああ、エリチ。なんでもないよ」
「そう。ならいいんだけど、あまり無理しちゃダメよ」
「あはは、エリチに言われるとは思わんかったわ」
「ふふっ、そう?じゃあ、私達もそろそろ練習に」
エリチは生徒会長の仕事もあるし、ここはウチがしっかりやらんとね。
*******
いざ始まってみると、文化祭の準備は予想よりかなりしんどいものとなっていた。
最初はそれなりに上手く回っていたのだが、雪ノ下姉に焚き付けられた実行委員長の鶴の一声で、ほとんどの実行委員がクラスの出し物を優先し始め、だいぶやばい事になった。
さて、どうしたもんかね……。
「ヒッキー!調子はどう?」
「…………由比ヶ浜か」
「今の間、何!?名前忘れてたとか!?」
「そ、そんなわけないじゃないかー」
「口調変わった!?もう、信じらんない!」
「まあ、それは冗談だが、どうかしたか?雪ノ下に用事か?」
「あー、それもあるんだけど、まあ、なんていうか……ヒッキーは元気かなって」
「まあ、今すぐ帰りたくなるくらいには元気だ」
「それ、本当に元気なの!?あ、ヒッキー的には元気だね」
「納得されちゃったよ。まあ、俺が言い出したんだが……そういや、クラスの方はどうなんだ?」
「えーと……巫女服着たいって言ったら却下されちゃった。あはは……」
「いや、当たり前だろ。『星の王子さま』に巫女なんて出てこないぞ。あれはそもそも日本の作品じゃ……」
「いや、それくらい知ってるし!そういうんじゃなくて……ヒッキーって、巫女服好きなんだよね?」
「……は?」
「だって希さんが言ってたよ?ヒッキーは三度の飯より巫女服が好きだって」
「いや、誰がそんな事……いや、言いそうなの一人しかいねえな。あの人何考えてんだ……」
「あはは、希さんってヒッキーからかうの好きだよね。わかる気はするけど」
「いや、わからなくていいから。そんなからかいがいのある奴じゃないから」
「彩ちゃんも言ってたよ。『じゃあ、僕も着て、八幡をからかおうかな』って」
「えっ、マジ?なんだよ、それ。どこだ。どこで見れるんだ?」
「あたしの時と反応が違う!ヒッキー、さすがに食いつきすぎだよ!」
「すまん、少し正気を失ってた……」
「そんなに!?ヒッキー、彩ちゃん好きすぎじゃない!?」
だって仕方ないだろ?戸塚が巫女服でからかってくるんだぜ……って、いかんいかん。戸塚は男子、戸塚は男子……。
「まったくもう……じゃあ、あたしはゆきのんのとこ行ってくるね。それじゃ頑張ってね。ヒッキー」
「……ああ」
由比ヶ浜を見送ってから、俺はスマホの画面を開き、東條さんにメッセージを送った。
普段なら10分もしないうちに返ってくるのだが、今日は夜まで返信はなかった。