捻くれた少年と寂しがり屋の少女   作:ローリング・ビートル

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風をあつめて ♯3

 雨がざあざあ降りしきる中を、俺が傘を持ち、所謂相合い傘状態でのんびり進む。秋葉原の賑やかな街並みから住宅街に差し掛かるまで、特にこれといった会話もなく、雨音が車の音や、赤の他人のすれ違いざまの会話をかき消すように鳴り響くのを黙って聴いていた。

 最初に彼女が口にしたのは、お礼の言葉だった。

 

「ありがと」

「?」

 

 俺は何も答えられず、また沈黙が訪れた。

 横顔をちらりと見やると、その横顔ははっとするほどの見たこともない美しさと、鈍色の海のような憂いが共存していて、目が離せなくなる。

 そして、彼女の瞳は、この雨降りの街ではないどこか遠くを見ているようだった。

 

 *******

 

 巫女さんの住むマンションの前まで辿り着くと、彼女は入り口の雨よけの下に移り、にこっと微笑んだ。

 

「送ってくれてありがと。その傘使ってええよ」

「……っす。どうも」

 

 急な笑顔にうっかりときめきそうになるが、何とか堪える。落ち着け。名前も知らない美少女と相合い傘をしたからといって、この先特別なイベントが起こるわけではない。ただ偶然が重なっただけの話だ。そこに意味なんて求めるものではない。

 すると、左肩に何か添えられた。

 見てみると、それは彼女の手だ。

 

「君は優しいなぁ」

 

 俺の左肩の……雨に濡れた箇所を優しく撫でてくる。

 

「ずっとウチが濡れんようにしとったんやろ?」

「いや、別に……」

 

 傘を借りるのだから、少しでも貸し借りゼロにしておきたいだけだ。あとは……いや、いいか。

 しかし、そんな内心などお構いなしに彼女はやわらかく微笑み、肩に置いた手をそっと……俺の頭に移動させた。

 

「なっ……」

「いい子いい子♪君は優しい子やね」

 

 白く細い指先と、小さな掌の感触を頭に感じ、急激に心音が跳ね上がる。

 だがそれでいて、その温もりから伝わってくるのは、抗いがたい安らぎ。一撫でごとに、心身の疲れを拭われるような圧倒的な癒し。

 そして、こちらを見上げてくる優しい眼差し。

 や、やばい……このままじゃ……。

 何かに目覚めてしまいそうな予感がしたので離れようとすると、彼女の方から先に手を離した。

 

「ふふっ、ごめんなぁ。嫌やった?」

「い、いや、なんつーか……」

 

 悪びれる素振りも見せずにそんな事を言われると、もうこちらとしては文句も何もなくなってしまう。まあ、元より言う気も起きてなかったんだが……。

 

「ふふっ、可愛いなぁ」

「そ、そうすか、失礼しましゅ……」

 

 噛んでしまったことも気恥ずかしさに拍車をかけ、一刻も早く立ち去ろうとすると、先に彼女の方が手をひらひら振って、マンションの中に入っ……

 

「なあ、ウチの名前は東條希。君の名前は?」

 

 くるりと彼女は振り返り、自己紹介をしてきた。

 唐突な展開に混乱とまではいかないが、また動悸のようなものを感じながら、何とか自分の名前を告げる。

 

「…………比企谷、八幡です」

 

 互いに自分の名前を言い合い、何とも言えない間を埋めるように雨音が鳴り響く。

 二人してしばらくそのまま雨音を聴き続けた。

 




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