捻くれた少年と寂しがり屋の少女   作:ローリング・ビートル

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いつか晴れた日に #2

 文化祭が終わってから3日後。俺はベッドの上で悶えていた。

 

「うわぁ…………」

 

 めっちゃ恥ずかしい。思い出すだけでも顔が真っ赤になりそうだ。あのまま東條さんの言うとおりに膝枕をされていたら、恥ずかしさで死んでいたかもしれない。

 しかし、あの時癒されていたのは否定しようのない事実なわけで……さらに彼女の優しすぎる笑顔が、いちいち胸を締めつけていた。

 すると、その内心を容易に悟り、からかうかのように携帯が震えだした。

 相手が誰だかは言うまでもない。

 

「……もしもし」

「やっはろ~!」

「とりあえず、文字だけだと誰だかわかりづらいんで、いつも通りにやってもらえませんか」

「あはは、そうやね」

 

 メタい話になったが、まあそれは些細な事だろう。

 とりあえず、さっきまでのあれこれを悟られぬよう、至って平静を装い、いつも通りの声のトーンを強く意識した。

 

「そ、そろそろ、文化祭っすね」

「いや~、あれからエリチ達も、文化祭の準備張り切ってるんよ」

「……そうですか。てか、大変じゃないですか?生徒会とライブの練習両立すんの」

「まあ、大変は大変やけど、皆がいるから楽しいかな」

 

 そういうのは多分、俺には無理な考え方だな。いや、プリキュア観てる時は思えるな。

 

「今、俺には無理な考え方だな。とか思ったやろ」

「……別に今スピリチュアルな力使わなくてもいいですよ」

「あははっ、使っとらんよ。ほら、八幡君の思考パターンって、慣れたら読みやすいから。ね?」

「…………」

 

 いや、「ね?」って言われても……なんだ、それ可愛いっすね。

 そこで、ふとこの前の違和感が胸をよぎった。

 普段とは違う口調。

 それだけのはずなのに、やけに引っかかった。

 だが、今それを聞くのが正しいのかはわからない。

 

「もしも~し、聞いてる?」

「……あぁ、すいません。ぼーっとしてたんで」

「あらあら、せっかく八幡君を褒めちぎっとったのに」

「いや、絶対にそれはないでしょ」

「ふふっ、おかしいなぁ~。ウチはいっつも八幡君を褒めちぎってるのに、なんで疑われるかなぁ」

「褒めちぎるの意味をググったらどうですか?」

「それもそうやね……ふわぁぁ……八幡君の声聞いてたら、なんか眠くなってきたなぁ」

「話がつまらなくてすいません」

「あははっ。違うよ。ほっとしとるんよ。それじゃあ、おやすみ~」

「……ええ。それじゃあ」

 

 訪れた静寂に、なんだか胸のあたりにぽっかり穴が空いたような気分になった。

 

 *******

 

 音ノ木坂学院・文化祭当日。

 あいにくの雨だが、無事開催され、俺と小町は開始と同時に校舎の中へ足を踏み入れていた。

 

「わあ~……すっごい盛り上がってるね~」

「ああ、たしかに」

 

 外はどんよりしているにも関わらず、校内はそれを感じさせないくらい盛り上がっていた。総武高校より規模は小さくとも、かなり活気がある。

 すると、東條さんがこちらに駆け寄ってきた。

 

「やっほー、来たみたいやね。お二人さん」

「あっ、希さん!こんにちは~」

「……どうも」

「こんにちは。おやおや、八幡君?女子校だからって、そんなに緊張せんでもええんよ。むしろキョロキョロしてたほうが怪しいから」

「ま、まあ、それはわかってるんですが……」

 

 客の女子率がこんな高いなんて聞いてないよ!

 いや、マジで……男子なんて、片手で数えられるくらいしか見かけていない。うっかり回れ右するとこだったわ。

 

「ふふっ、たまにはええやん?女の子に囲まれるのも」

「……そ、それよか、ライブの準備はいいんですか?」

「今も絶賛準備中やけど?ほら、八幡君をからかって、エネルギー充電しとかんと」

「…………」

 

 それで一体何が充電されるというのだろうか。

 すると、彼女がほんの一瞬だけ不安そうに目を伏したのに気づいた。

 それを気のせいだとは、どうしても思えなかった。

 

「……あの……」

「じゃあそろそろいかんとね。二人も最後まで楽しんでね~♪」

「わっかりました~♪」

「…………」

 

 陽気に手を振り合う二人を見ながら、俺は黙って片手を挙げ、彼女を見送った。

 これが気のせいならいいんだが……。

 そう思いながら、彼女の背中が角を曲がるまで、俺は黙って見送った。

 

 *******

 

 小町としばらく色んな教室を見回ると、思いの外はやく時間が過ぎた。

 

「いや~、こっちの文化祭も楽しいね~」

「……まあ、裏でどんな面倒があるか知らなきゃな」

「またそういう事言う……本当は希さん……μ'sに会えるのが嬉しくてたまらないくせに」

「小町ちゃん。今言い直した理由はなぁに?」

 

 そんなしょうもないやりとりをしていると、いきなり校内放送のベルが鳴り響いた。

 

「皆さん、お待たせいたしました!それでは14時から屋上ステージで、我が校が誇るスクールアイドル・μ'sのライブが始まります!雨の中ではありますが、是非足を運んでください!」

 

 テンションの高い放送に、校内のあちこちから歓声があがる。これだけで、μ'sへの期待値の高さがわかるというものだ。私服姿の女の子もはしゃいでいるあたり、その知名度も上がっているのだと頷ける。入学希望者も増えてるらしいからな。

 もしかしたら、その期待の高さで気負っているのだろうか。

 

「お兄ちゃん、どしたの?」

「……ああ、悪い。今行く」

 

 ……まさかな。

 この時の俺は、俺自身の気持ちにすら気づいていなかった。

 

 *******

 

 わかりきっていた事だが、雨はさっきよりも強かった。風があまり吹いてないのが幸いか。

 屋上は傘をさした観客でカラフルに彩られている。後ろの人はかなり見えづらいだろうが……本当に早めに来てよかった。

 期待に満ちた空気がだいぶ高まり始めたところで、メンバーが登場し、空まで届きそうなくらいに歓声があがる。隣にいる小町も、片っ端からメンバーの名前を叫んでいた。

 そんな中、東條さんと目が合う。

 この偶然もスピリチュアルなんかね。

 彼女は、雨に打たれながらも笑みを見せたので、俺は黙ったまま頷いた。

 そして、興奮の為か、顔がやたら赤い高坂さんが喋り始めた。 

 

「皆さん、こんにちは!私達はスクールアイドル・μ'sです!今日は最後まで楽しみましょう!」

 

 元気な開幕宣言から、雨をかき消すような爆音と共に、ライブが開演した。

 

 

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