捻くれた少年と寂しがり屋の少女   作:ローリング・ビートル

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いつか晴れた日に #6

「う~ん……次はどこに行こうかな~」

「……意外とノープランなんですね」

「気まぐれなのもええもんやろ?」

 

 なんか良いこと言った風に見えるのは、この人の普段の言動のおかげだろう。

 頭に残る東條さんの太ももの感触に、まだ胸の奥がじんと熱くなるような気分になりながら、とぼとぼ見慣れた町並みを歩いていると、秋の匂いをはらんだ風が彼女の髪を揺らした。

 

「いい風やね……」

「まあ、涼しくてちょうどいいっすね。一年中このぐらいならさらにいい」

「ふふっ、言うと思った。でも、こうやって季節の移り変わりを眺めるのも素敵やない?」

「……悪くはない、と思います」

「偶然、ウチと君が出会って、もう半年以上経ったんよ」

「そういやそうですね」

 

 改めてそう言われると、何だか不思議な感じがする。

 この人と出会ってから、時間が経つのが早く感じるようになってしまった。からかわれているうちにいつの間にか半年とかすげえな。出来ればそんなに早く大人になりたくはないんだけど……。

 

「八幡くーん?……あかん、ロマンチックな気分じゃなく、先の事考えすぎてだるそうにしてる」

「やっぱり今が最高ですね」

「できればもっと後に言って欲しい台詞やね。じゃあそろそろお昼ご飯にしよっか。八幡君は何か食べたい物ある?」

「そうっすね……やっぱりラーメンですかね」

「あ、いいね。行こっか。じゃあ、この辺りに八幡君のおすすめある?」

「……一応」

「よ~し、じゃあそこに……わわっ」

 

 何かに躓いたのか、東條さんがバランスを崩し、こけそうになった。

 慌てて反応すると、彼女を真正面から抱き止める形になる。

 

「あはは……こけるところやったね。ありがとう」

「い、いえ、大丈夫です……はい」

 

 意外なくらい近くにある彼女の顔に戸惑いながらも、何故かそのまま動けないでいた。

 じんわり温かな感触のせいだろうか、なんて考えていると、彼女は首を傾げ、俺の顔を覗き込んできた。

 

「もしかして……このままでいたい?」

「え、いや……その……」

 

 厚みのある唇から言葉が零れるのを合図に、俺はそっと手を離した。

 それと同じタイミングで、彼女は俺の数歩前を歩き始めた。

 

「ふふっ、なんちゃって♪」

「…………」

 

 いや、まあ冗談なのはわかってたんだけどね?

 何故か彼女はしばらくこちらを振り返らなかったので、その背中を見つめながら、俺はとぼとぼと歩き続けた。

 

 *******

 

 ……ウチはしばらく振り返らなかった。いや、振り返ることができなかった。

 自分の頬が、じんわりと熱くなっているのがわかったから。

 

「ラーメン楽しみやなぁ」

 

 そう言いながら私は……ウチは、そのまま普段どおりを意識しながら足を運んだ。

 それが既に普段どおりじゃないと気づきながら。

 

 *******

 

 いつものラーメン屋に入ると、まだ割と席は空いていた。

 水はセルフサービスなので、二人分持ってカウンター席に並んで座ると、東條さんが口を開いた。

 

「八幡君はよくラーメン屋に行くの?」

「……まあ、そこそこ。東條さんは行かないんですか?」

「ウチ?μ'sのメンバーとは練習帰りにたまに行くよ。凛ちゃんが好きやからね」

「へえ……まあ、運動後のラーメンは美味いですからね。何なら運動してなくても美味いし」

「ようするにいつでも美味しいって言いたいんやね」

「そういうことです」

 

 それから少しして、熱々の湯気を立てながら、ラーメンが運ばれてきた。

 二人して「いただきます」を言ってから、ラーメンを啜ると口の中に、こってりした幸せが広がる。

 

「「ふぅ……」」

 

 そのまま幸福な溜め息を吐くと、偶然タイミングが重なり、東條さんが笑い、俺は口元が緩む。

 

「捻くれてない八幡君を見るのは初めてかもねえ」

「いや、さすがにもう少しあるでしょ」

「う~ん、そういうことにしとこっかな」

「ええぇー……」

 

 そんなしょうもないやりとりの後は、どちらも黙々と麺を啜った。

 

 *******

 

「あ~、美味しかったぁ♪」

「……ええ、ほんとに」

 

 やはりラーメンは最高という事実を、改めて認識しながら、俺は東條さんの言葉に頷いた。

 彼女は、携帯で時間を確認すると、すっと身を寄せてきた。

 

「そろそろ八幡君の家に戻ろっか」

「え?ああ、はい。どうかしたんですか?」

「言ったやろ?今日はゲームやアニメにも付き合うって」

「……そういや言ってましたね……え?まさか、一緒に?」

「うん、一緒に。あっ、もしかして趣味は一人で楽しみたいタイプ?」

「いや、そういうわけじゃ……まあ東條さんがよければ」

 

 本当はめっちゃそういうタイプだし、東條さんならそこに気づいていそうなものだが、この時の俺は否定の言葉を口にできなかっはたし、する気もなかった。

 もしかしたら、初めて個人的な趣味を誰かと共有したいと思った瞬間かもしれない。

 そんな風に大袈裟に考えていると、彼女は俺の耳元に、そっと囁いてきた。 

 

「いきなり押し倒してきたらダメだからね」

「…………」

 

 さすがに上手い切り返しが思いつかず、俺は首筋に手を当て、誤魔化した。

 

 

 

 

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