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それでは今回もよろしくお願いします。
春休みが終わり、2年目の高校生活が始まったが、もちろん学年とクラスメートが変わっただけで、大した変化はない。持ち前のボッチ力を発揮している。5年後には書籍化できるのかもしれない。
そして、周りの変化が些細なことに思えるのには理由がある。
結局、春休みの内に巫女さん……東條さんに傘を返すことができなかった。
理由の一つは金欠。バイトをいくつかバックレてから、現在何もしていない俺には、そう何度も遠出をする金はない。
もう一つは……これは理由といえるのかもわからない。
どう会えばいいのか、わからない。
先日の頭なでなでと自己紹介。
あの時の妙な感覚が頭から離れない。
中学時代の自分なら迷わず好きになっていただろうと考えてしまう辺り、俺は期待したくないのだろう。
こんな偶然が重なるなんて……とか。
そんな事を考えている間も、教室内や窓の外の景色は、淀みなく流れていった。
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今日は午前中だけだったので、午後は適当にぶらつこうかと思い、駅前へ足を運んだ。
その途中で考えはまとまった。
小遣いが入ったら、すぐに返しに行こう。
そんで、仮に神社に誰もいなくても返却する。むしろその方が都合がいいまである。
そう、人生はリセットできないが、人間関係はリセットでき……
「あら?」
「…………」
「比企谷君?」
この前みたいに思考回路が働かなくなり、その場に縫い付けられたように、動けなくなってしまう。
そんな俺とは対照的に、彼女は笑顔を向け、そっと言葉を紡いだ。
「スピリチュアルやね」
「……はあ、そ、そうすか」
絡み合う視線は中々解けず、近くを通り過ぎていく人のカツカツと鳴る足音が、この前の雨音に似て聞こえる。
彼女は俺の服装を上から下までじぃっと眺め、感心したように頷いた。
「へえ、制服似合ってるやん」
「ど、どうも……」
春らしい私服姿に身を包んだ彼女は、また距離を詰めてきた。ふわりと優しく甘い香りが鼻腔をくすぐり、彼女に関しての新しい情報がインプットされる。
「今日から新学期始まったんやね」
「ええ、まあ……そっちは……」
つい聞き返してしまう。
「ちょっと遠出がしたくて。カードがこっちがいいって告げたんよ」
「はあ……」
「まあ、確かに面白いことになったね」
東條さんは悪戯っぽい笑みに変わり、また肩に手を置いてくる。先日の感触が鮮明に蘇った。
「暇なら付き合ってくれへん?」
「いえ、今から用事が……」
「ふふっ、嘘下手やなぁ」
「…………」
「……ウチと一緒は嫌?」
「い、いや、別に……そんな事は……」
「じゃあ、行こっか」
リセットボタンはどうやら故障中らしい。
肩に置かれた手が離れると同時に、俺は東條さんと並んで、ゆっくり歩き出していた。
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