ライブが始まると会場内の熱気はさらに増し、体が自然とリズムを刻んでいた。
先にステージに現れたのはA-RISE。全国トップクラスの人気を持つ彼女達のステージは、完全に場の空気を支配していた。
「すごい……」
「…………」
由比ヶ浜と、意外にも雪ノ下もステージ上の3人に見とれていた。
まさに王者の貫禄。この後ステージに立つμ'sは……いや、大丈夫か。
何故か俺は何も根拠はないけど、そう確信していた。
やがて曲が終わり、割れんばかりの拍手が鳴り響き、会場を埋め尽くしていく。
総武高メンバーも、自然と惜しみない拍手を送っていた。
「すごかったね……」
「……ああ」
戸塚の呟きに頷くと、材木座も何か呟いた気がしたが、とりあえずそれは置いといて、もう一度ステージに目を向ける。
今からμ'sが……希さんがあそこに立つと思うと、なんだか不思議な気がした。
そうこうしているうちに、あっという間に時間がやってくる。
『さあさあ、皆さんお待たせいたしました~!続いての登場は、音ノ木坂学園のμ'sだ~~!』
やたらテンションの高い司会のアナウンスと同時に、再び会場が暗転する。すると柄にもなく、今から何か始まるという高揚感が沸き上がってきた。
それを後押しするように、9人の姿をスポットライトが照らし出す。
すると、さっきのA-RISEに負けじと、周りから歓声があがった。
由比ヶ浜や戸塚の声も混じっていて、つい頬が緩みそうになる。
そして、μ'sのライブが始まった。
ささやかなイントロにメンバーの歌声が乗っかり、会場の空気が変わる。
それは先程のA-RISEのライブで感じたものと、非常によく似ていて、どこかが違った。
何だか会場を温かく包むような一体感。
さっきは凄すぎるものを見て、見とれていた由比ヶ浜も、今度は笑顔でリズムをとっていた。
そしてそれは、周りの人間も同じらしい。
会場内は、幸せが降り注いだような温かい空気に満たされていた。
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曲が終わり、健闘を称えるような大きな拍手が鳴り響くと、ステージ上の9人は深々と頭を下げた。
「お疲れ」
何故かはわからないが、俺はぽつりと呟き、そのまま拍手を送り続けた。隣では小町が「希さ~ん!」と叫びながら、手を振っている。
何だか、さっきまでの数分間が夢みたいな、不思議な感覚がした。
そうさせるのは、ステージにいる希さんが、あまりに綺麗だったからかもしれない。
そんな感想が自然と出てくるくらいには、心踊る夜だった。
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「はぁ……すごかったね」
「……そうね」
帰り道、由比ヶ浜はまだ先程の興奮を引きずり、雪ノ下はやや疲れを滲ませながらも穏やかに話しながら前を歩いている。その後ろを、俺や小町、戸塚と材木座がテキトーに固まり、歩いていた。駅のすぐそばなので、すぐに帰れるのがありがたい。
そこで、携帯が震えだした。多分、これは……。
すぐに画面を開くと、また予想は当たっていた。
『ありがとう~。帰り気をつけてね~』
……さて、どう返信しようか。
気の利いた文章を送りたいところだったが、帰りの電車の中でも何も思いつかず、結局寝る直前まで携帯と自問自答していた
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翌日の夜。
「やっほー、八幡君。昨日はありがとう」
「あー、いや、こちらこそ。小町も楽しんでたみたいですし」
「君はどうなの?」
「……楽しんでましたけど」
「おっ、いつになく素直やねぇ。明日は雪やろうか?」
「かもしれませんね。明日が楽しみです」
「ふふっ……メール、ありがと。あれで緊張が少し解れたよ」
「……いや、大したことは書いてないんですが」
「それでもええんよ。八幡君がどんな気持ちで送ってくれたかは何となくわかるから」
「それはスピリチュアルな力ですか?」
「女の勘やね」
「ああ……なるほど」
「さらに、寝る前には『お疲れ様です。おやすみなさい』なんてシンプルで優しいメールも貰ったし」
「あ、あれは、自分も寝る前だったんで……なんつーか、気の利いたこと書けないのは申し訳ないです」
「ええんやない?むしろ、八幡君が絵文字を駆使して、長文送ってきたら、そのほうが心配になるやろ?」
「心配されるレベルですか……いや、それより、予選の結果発表はいつなんですか?」
「明日やね。まあ、ジタバタしても仕方ないし、のんびり構えてようかな」
「そっすか。……まあ、大丈夫だと思いますけど」
「そう?」
「あんな綺麗な……魅力的なの見せられたら、まあそう思いますよ」
「……もう一回言ってくれる?」
「いや、その……すいません。用事思い出したんで、し、失礼します……」
危ねえ……ライブ中に思ったこと、そのまま言いそうになったわ……。
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「さっき、綺麗って……ふふっ、ウチだけに言うたわけやないのに、なんでにやけるんやろうねえ」