昼休み。
いつもなら一人でベストプレイスにて、昼食を楽しんでいるところだが、今日は違う。
俺は今、奉仕部の部室にて、パソコンとにらめっこをしていた。
「だ、大丈夫?ヒッキー、すごい顔しかめてるけど」
「あなた、少し緊張しすぎじゃないかしら」
「八幡、深呼吸してみたら?」
「あ、ああ、悪い……」
もちろん部室内には雪ノ下と由比ヶ浜もいて、さらに戸塚もいる。
この場に集まっている理由は一つ。
ラブライブの予選の結果を確認するためだ。
現在、発表時間まであと三分を切ったところなのだが……。
「ふぅ……」
戸塚に言われたとおり深呼吸をすると、ほんの少しだが、気持ちが落ち着く。まあ、あれだ……今さらジタバタしても仕方ないというか、そもそも俺にはジタバタしようもない。
今頃希さんは、どんな気分で発表を待っているのだろうか……表向きは余裕綽々なのは間違いないだろうが。
「あった!あったよ!μ'sって書いてある!」
「……え?」
由比ヶ浜の言葉に、思わず声が漏れる。
すると、隣にいる戸塚が「やったー!」と喜ぶのが聞こえ、雪ノ下がほっと胸を撫で下ろすのが見えた。決して物理的に撫で下ろしやすそうとか思ってない。ちなみに、材木座は教室の隅で、したり顔で頷いていた。いつからいたんだよ……いや、今はそれより……
「……おい、マジか」
「マジだよ!ほら、見てみなって」
由比ヶ浜に言われ、おそるおそる確認してみると、そこには確かにμ'sの名前と写真が表示されていた。
すると、胸の中につかえていた何かが、すぅっと抜けていくのを感じた。
……よかった。
素直な感想と共に、つい口元が緩むのをこっそり左手で隠し、窓の外に目を向けた。
朝はあまり意識していなかったが、突き抜けるような青い空は、雲一つなくて、遠くても繋がってるような不思議な感覚がした。
まあ、何がとは言わないが……柄じゃないし。
「比企谷君、気持ち悪い思い出し笑いはやめなさい」
雪ノ下の罵倒を聞きながら、俺は希さんに『おめでとうございます』とメールを打ち、すぐに送った。
*******
その日の夜、風呂から上がり、自分の部屋に戻ったところで、狙いすましたかのように携帯が震える。これもうスピリチュアルというよりエスパーじゃねえの?なんて考えながら通話を押すと、いつもの陽気な声が聞こえてきた。
「こんばんは~、八幡君」
「……どうも」
「相変わらずテンション低めやねぇ。昼間はあんなに早くお祝いメールくれたのに」
「これがデフォなんで、慣れてくれると助かります。それと……おめでとうございます」
無難な返しと祝いの言葉をセットで送ると、クスクス笑うのが聞こえてきた。
「うん、ありがと♪エリチも八幡君からのメールを見て、目をギラギラ……キラキラさせとったよ」
「今、ギラギラって言いませんでしたか?え、何?俺食べられちゃうんですか?」
あの人、普段はクールっぽい感じなのに、たまに頭のネジが吹っ飛んだようなテンションになるの、本当に謎すぎる。
「まあまあ、細かい事は気にせんでええやん」
「全然細かくない気がしたんですが……」
「それより、八幡君は今度体育祭があるんやろ?」
「はあ、てかよく知ってましたね」
「そりゃあもう、結衣ちゃんが言ってたから。実行委員会にもなっとるんやろ?」
「……ええ。まあ」
「はぁ……お姉さんは哀しいなぁ。八幡君がそんな大事なことをウチに黙ってたなんて」
「いや……黙ってたというか、そっちもライブ前だったんで……」
「知ってるよ~♪もちろん、応援に行ってあげるから、楽しみにしてて」
「…………確か部外者は出入り禁止ですが」
「そんなウソが通用すると思った?」
「…………」
いかん。μ'sの予選突破をお祝いする予定が、ウチの学校の体育祭の話になってる。まあ、希さんが話したければ別に構わないのだが……。
「まあ、実行委員会っつっても、俺の役割はサポートみたいなもんですし、競技もそんな出ないですからね」
「へえ……それじゃあ、そんなやる気のない八幡君に、やる気がでるおまじないをしてあげよう」
「……おまじない?」
「徒競走で一等になったら、ひとつだけ何でも言うこと聞いてあげる」
「はあ…………は?」
「ん?聞こえんかった?徒競走で一等になったら、ひとつだけ何でも言うこと聞くって言ったんやけど。こう見えて、ウチは約束は守るよ」
「…………」
「ふふっ、それじゃあ期待してるよ、少年♪あ、でも、はりきりすぎてケガせんようにね」
「え?あ、はい……」
「それじゃあ、おやすみ~~♪」
彼女の言葉と同時に通話が途切れてからも、しばらく携帯を耳に当てていた。
……いや、別に変な事は考えていない。そもそも体育祭とは運動を通じて、心と体を育み、生徒同士の交流を深める場であって、下心を持ち込むなどもってのほか。最後までスポーツマンシップをまっとうするのが俺の役目。なあ、そうだろ?
……はあ。とりあえず、ほんの少しだけ頑張りますかね。少しだけ。