捻くれた少年と寂しがり屋の少女   作:ローリング・ビートル

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ドリーミング・デイ #3

 総武高校のグラウンドに到着すると、想像していたより観に来ている人の数は多く、こっちのイベントもかなり気合いを入れてるのがわかった。

 観客には私達と同年代の人達もいて、ぽつぽつ聞こえてくる会話から、友達や気になる異性を観に来ているみたいで、何だか微笑ましい。

 

「さて、八幡君はどこかしら」

「エリチ、その怪しげな望遠カメラはしまってね」

「お姉ちゃん、いつそんなの手に入れたの?」

「ほら、アンタ達バカやってないで、さっさと座るわよ」

 

 呆れた顔で溜め息を吐くにこっちについて、皆が並んで

 こういう時、たまにお姉ちゃんっぽくなるんよねえ。もしかしたら、本当に妹でもおるんやろうか。後で聞いてみよう。

 

「あれ、八幡君じゃない?」 

「ん?」

 

 エリチの言葉に反応し、グラウンドに目を向けると、すっかり見慣れたくせ毛の男の子が、気だるそうに辺りをキョロキョロしていた。どうやら、実行委員の仕事中らしい。

 ……あぁ、からかいたいなぁ……って、ダメダメ。八幡君はお仕事中なんやから。

 

「もう少し間近で観たいわね。よし、行ってくるわ」

 

 エリチがまたわけのわからない事を言い始めたと思ったら、あらびっくり……エリチは私服の下に総武高校のジャージを身につけていた。

 

「……エ、エリチ?」

「お姉ちゃん!?」

「ア、アンタまさか……」

「ん?もちろん手作りよ」

「…………」

 

 才能の無駄遣いにも程がある。隣で亜里沙ちゃんは頭を抱えていた。御愁傷様。

 

「もちろん皆の分も用意してきたわ」

「何でよっ!?」

「念の為よ。念の為」

「…………」

 

 ダメや。この子、はやく何とかしないと……。

 そう考えながらも、何故かウチはワクワクしていた。なんでやろうね。

 

「まったく、行くなら一人で……って、アンタらもなんで行こうとしてんのよ!?」

「姉がこれ以上恥を晒さないように、です……」

「……ほら、なんか面白そうやし?」

「お、面白そうって……」

「大丈夫よ、にこ。別に競技に出るわけじゃないから。近くで彼を……体育祭を視察するだけだから。これも音ノ木坂の為よ」

「せめてもう少し本音隠しなさいよ……ああ、もう!どうなっても知らないからね!」

 

 エリチの手作り総武高校ジャージは、それはもうサイズぴったりだった。

 

 *******

 

 さて、二人三脚のメンバーが足りなくなったようだが、どうしたものか……。

 今の俺のクラス内の状況を考えると、俺から救援を頼むのは限りなく不可能に近い。なので、この件は由比ヶ浜や雪ノ下、もしくは委員長の相模に頑張ってもらうしかないのだが……

 

「…………は?」

 

 ふと斜め前に視線を向けた瞬間、俺の口から驚きの声が零れた。

 ありえないことなっている。いや、何て言うか……いるはずのない人物がそこにいた。

 ……てか、今日来るって言ってたな。じゃあ納得……できねえよ。まあ待て。まだ見間違いの可能性もあるし……。

 予測不可能すぎる展開に、やや混乱しながらも、とりあえずその人物に近づいてみる。

 すると、その人は……東條希は、すっとぼけるように首を傾げて見せた。

 

「あの……何やってるんですか」

 

 応援に来るとは聞いていたが、まさかこんな所までやってくるとは聞いてねえぞ。聞いてたら全力で拒否してたが。

 彼女は、ほんの少し考える素振りを見せてから、にぱあっと笑顔になった。

 

「え?ウチ、君とどこかで会ったっけ?」

「希さんじゃないなら誰なんですかね」

「うふふ、ウチの名前は西條望。よろしくね」

「…………」

 

 わかりやすすぎる偽名である。いや、ここまでくると、偽る気なさすぎて、ある意味正直といえる。てか、誤魔化そうとするなら、関西弁どうにかしましょうね。

 色々言いたい事はあるが、まあまずは……

 

「……てか、そのジャージどうしたんですか?変なサイトでも……」

「これ?エリチの手作り。ウチもびっくりしたんやけど」

「…………」

 

 なんだ、その才能の無駄遣い……。

 呆れ混じりの感心をしていると、こちらに向けて由比ヶ浜が駆け寄ってきた。

 

「あ、ヒッキー!!ちょっといい?ってええ!?な、なんで東條さんがいるの!?」

「違うよ。ウチの名前は西條望やよ」

「あ、そうだったんですか。すいません、人違いでした」

「おい、あっさり騙されんな。少しは疑え」

 

 さすがはアホの子と言いたいところだが、ちょっと将来が心配になってきた。変な壺とか買わされないように注意して欲しい。

 由比ヶ浜は周りをキョロキョロと確認してから、ヒソヒソ声で話しかけた。

 

「あの、な、なんでいるんですか?大丈夫なんですか?」

「まあ、こっそり見るだけだから大丈夫大丈夫。エリチと亜里沙ちゃんは髪が目立つから、こっそり隠れながらやけど。にこっちは小さいし」

 

 胸が大きい者同士の会話を聞いていると、今度は体育教師が駆け寄ってくるのが見えた。

 

「由比ヶ浜、代わりの走者は見つかったか?」

 

 その言葉を聞いた由比ヶ浜は、「あっ」と何か思い出したような表情になった。まあ、希さんの件があったから仕方ない。

 すると、体育教師が何故かじ~っとこちらを見ていた。

 もしかして、このタイミングで「ペアを組め」対策について物申されるのだろうか。あれが使えないのかなり辛いんだけど……。

 内心びくついていると、体育教師はにっこりと暑苦しい笑みを見せた。

 

「よし、お前ら走ってくれ!もう時間がない!」

「「…………え?」」

 

 この人、今何て言った? 

 隣を見ると、希さんにしては珍しく驚いた顔をしていた。

 

 

 

 

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