どうしてこうなった……。
そんな呟きが口から漏れてきそうな現状に、思考回路が上手くついていかない。
だが、そんなことはお構い無しに、時間と物事は進んでいく。
一方、希さんは「フンス!」と気合いを入れていた。
「さあ、八幡君。ウチらも頑張ろうか!」
「いきなりの参加で、よくそんなテンションになれますね」
「まあ、こんな機会滅多にないし?今日のウチは総武高校二年西條望として、八幡君が優勝できるように全力を尽くすよ」
「いや、優勝とか……てか、大丈夫ですか?練習もなしに二人三脚とか……」
「まあ、大丈夫なんやない?ウチら割と一緒におるやん?」
「何の根拠にもなってねえ……てか、めっちゃ楽しそうっすね」
俺の言葉を聞いた彼女は、キョトンとしてから、いつもの悪戯っぽい笑みを見せた。
「……君とだから、楽しいんよ」
「…………そうですか」
いや、そういう言い方は反則じゃないんですかね?べ、別に悪くはないんだけどさあ……いや、もう何て言うか、反則すぎて反則というか。
てか、もう10月なのに暑いな。陽射しのせいで、顔が火照ってやがる。勘弁してくれ。
*******
そうこうしているうちに、すぐに順番が回ってきた。
普通の徒競走とは違う緊張感に戸惑いながらも、深呼吸して気持ちを整えると、希さんが笑顔を向けてきた。
「八幡君、準備はいい?」
「……はい」
この心臓の強さはステージで培われたのだろうか。元々だろうか。やはり心強い。
そして、平塚先生の合図で、一斉にスタートした。
自分が思ったよりもずっとスムーズなスタートに驚きながら、順番に足を運ぶと、自然と速度がついてきた。
「はっ……はっ……」
「はっ……はっ……」
息もぴったりのようで、急造にしては中々のコンビネーションだと思う。だが、問題が一つ。
…………右下で何かが揺れてる!!
そう。スタートと同時に、視界の右斜め下で、希さんの豊満なアレが激しく揺れ動いている。
まったく予想できなかったわけではないが、これは想像以上だ……。
何とか視線を前に、むしろやや上向きに固定しているが、それでもやはり気になってしまう。だって男の子だもん!
ちなみに、順位のほうは現在8組中3位。この状況を考えれば、中々の位置だろう。
だが、ハングリー精神豊かな彼女はそう考えてはいないらしく、まだスピードをはやめようとしている。
これ以上はぶっちゃけこける危険性が高くなるので、遠慮したいところではあるが、彼女に合わせて走らないといけないのも事実。
さらに向こうへ、プルスウルトラ!的なノリでまた1組追い抜くと、もう1組もすぐ近くにいた。
小気味良いリズムはテンポを上げ、やがて前には誰もいなくなる。
あと少し……もう少し……。
だが、欲をかきすぎたのか、どちらからともなく足がもつれ、紐がほどけた。
「あっ!」
「っ!」
踏ん張ろうにも、最早こけるのは避けられないようだ。だが、この人には……
最近の運動の成果か、ただのまぐれか、何とか彼女の体の下に、自分の体を滑り込ませた。
すると、顔面に柔らかな衝撃がきて、後頭部が地面にぶつかった。
「ぐっ!」
「だ、大丈夫!?八幡君!」
「……何とか」
「もう……無理しすぎ。あっ、ウチら1位みたいやね」
「そ、そうすか」
希さんに手を引かれ、ゆっくり立ち上がると、赤組が盛り上がっているのが見えた。
「あの謎の二人組速かったなー」
「あんな人達居たっけ?」
「まあ、1位だし良くね?」
「あの女の人美人だよねー」
「む、胸……胸……」
「すごかったな……色々と……」
「あの人、どっかで見た事あるような?」
「つーか、あの男羨ましすぎるだろ」
「ちっ!ボッチの癖に!!」
うわあ……1位になっただけでなく、最後にこけたせいで、やたら目立ってしまったようだ。そのせいか、何やら色々言われている。てか何人かムカつく事言ってんな。棒か何かでぶん殴ってやりたいわ。
ジロリと声のする方を睨んでいると、希さんが肩をつついてきた。
目を向けると、彼女は何故かしてやったりみたいな笑顔を浮かべている。
「君、なんかチラチラこっち見てたよね」
「っ…………」
「さっき、思いきり胸が顔に当たっとったね」
「っ…………」
「八幡君やらしー♪」
「…………」
何も言い返せない。いや、確かに下心みたいなのがゼロだったわけじゃないが。
すると、彼女はそのぽってりした唇を俺の耳元に近づけ、優しい声音で囁いてきた。
「でも、ありがと。かっこよかったよ♪」
「っ!!」
だから反則技止めて欲しいんだが……。
口元を手で覆い隠すと、希さんはすぐに心配そうな表情になり、俺の服の砂埃を優しくはたいた。
「じゃあ、ケガした所を……」
「あ、それは自分でやっとくんで。希さんは早く隠れてくれると助かります……」
「う~ん、そうやね。じゃあ、顔に残った感触はウチからのご褒美って事で♪」
こちらが何か言い返す前に、彼女はペロッと舌を出し、矢澤さんのいる場所へと小走りで行ってしまった。
……まあ、とりあえずあの感触は忘れないようにしとこう。ご褒美らしいし。
*******
「あ、いた!!ちょっと希!!あんた何ちゃっかり競技に参加してんのよ!!」
「そうよ!なんてうらやま……危ない橋を渡ってるチカァ!」
「でも、1位おめでとうございます!」
「あはは、ごめんねぇ。成り行きで……」
そうは言いながらも、まだウチの胸の中は激しく高鳴っていた。
今まで気づかんかったけど、八幡君って、意外とおっきな体してるんやねぇ。
とくん、と高鳴る胸に手を当て、ウチは顔が赤くなってたらどうしようか、なんて考えていた。