体育祭が無事に終わり、携帯を確認すると、希さんからメールが来ていた。
内容を確認すると、どうやらもう帰っているらしい。
……とりあえず、ばれなくてよかった。
いや、知り合いには普通にバレてたけどね!雪ノ下からも片付けの後に説教されたし!
雪ノ下からの説教を思い出し、くたびれた気分になりながら鞄を漁っていると、何やら入れた覚えのないひんやり硬い物に手が触れた。
……なんだ、これ?いや、なんか馴染んだ感触の気が……。
おそるおそる引っ張りあげると、手にはMAXコーヒーが握られていた。
さらに、紙きれがテープで貼り付けられている。
『お疲れ様。今日はありがと。楽しかったよ♪またやってみたいなぁ』
何だか声が聞こえてくるようで、つい頬が緩んでしまう。
丸っこい文字で書かれた言葉は、じんわりと胸に染み込んできた。
……とりあえず、これっきりにしといてください。マジでヒヤヒヤしたんで。
*******
数日後……。
「ああ、そっちは今月修学旅行ですか」
「うん。まあ行くのは穂乃果ちゃん達やけどね」
「場所はどこなんですか?」
「ウチらの時と同じで沖縄やね。沖縄の海、気持ちよかったよ~♪また泳ぎに行きたいくらい!」
「…………」
「今、ウチらの水着姿を想像しとったやろ?」
「……美ら海水族館には行ったんですか?あ、果ての浜は?」
「露骨に誤魔化してるなぁ。まあ、そのムッツリ感が八幡君らしいんやけどね」
「俺らしさとは……てか、なんか用があったんじゃないんですか?」
「あ、そうそう。すっかり忘れとった。八幡君と話すの楽しいから、つい脱線するんよね」
「なんすか、その優しい責任転嫁」
「あはは。実はね、今度結婚式場のイベントにμ'sが出演することになったんよ」
「はあ」
「来週の日曜日なんやけど、来れそう?」
「……まあ、特に用事もないんで構いませんけど」
「そっかぁ。いつも通りやね。よかったぁ」
「おーい、何気に失礼……いや、はっきり失礼ですよー」
「ふふっ、衣装もいつもと違うテイストやから、楽しみにしててええよ。あ、水着やないからね!」
「さすがにそのぐらいはわかるんですが……」
「じゃあ、よしっ!来週はよろしく~。あっ、今週のバイトも忘れんようにね~」
「……了解」
通話が途切れ、先程までの会話の余韻に浸りながら、
結婚式場ね……まあ、滅多に行く機会がない、というか今後も行く機会があるかもわからないしな。あるとすれば小町の結婚式くらいだろうか……うわ、つい想像しちゃったじゃねえか。泣けるからやめろ。
まあ、とにかく……今回はどんなイベントになることやら……。
*******
イベント当日……。
「いや~、さすが結婚式場のイベント。女子率高いなぁ。お兄ちゃん、小町がいてよかったね」
「ああ、それはこういうイベントがなくても毎日思ってるぞ」
「いや、さすがにそれは気持ち悪い」
「ひどい……」
いつものようなやりとりをしながら、小町と並んで歩いていると、確かに女子率高ぇ……一人で来てたら、うっかり回れ右してたわー。本当に小町がいてよかった。何なら、朝起きた時から、夜寝る時までそう考えている。要するに小町最高。
「八幡君、相変わらず目つき悪いよ?」
「うおっ!びっくりしたぁ……」
これは得意技なのだろうか、スピリチュアルな力なのだろうか、また知らないうちに背後を取られていた。これ、未だに慣れないんだけど……。
小町はあまり気にしていないのか、にぱぁっと可愛らしい笑みを希さんに向けていた。
「あ!希さん、こんにちは~!今日は小町まで誘っていただいて嬉しいです!」
「こちらこそ来てくれてありがとう。相変わらず小町ちゃんは可愛いなぁ♪」
希さんも同じ考えのようで、小町の頭を撫で、嬉しそうに目を細めている。すると……
「今日は来てくれてありがとう。相変わらず可愛い目をしてるわね」
「っ!」
いつの間にか傍にいた絢瀬さんが、頭を撫でてきた。いや、距離感……!
しなやかな指先の感触に、何やら不穏な気配を感じていると、彼女は上目遣いでこちらを見てきた。
「この前の体育祭は完全に希のターンだったわ。てなわけで今度は私の魅力満載の……」
「エ・リ・チ?」
「はい」
いつものようにツッコミを入れている希さんだが、その身に纏った雰囲気は、いつもとどこか違う。なんかこう怖いというか……うん、怖い。紫色のオーラは……気のせい、だよな?
「ほうほう」
何故かはわからないが、小町が一人で納得したように頷いていた。
*******
イベント始まると、ステージ上では、希さんを含めた6人のメンバーが、パフォーマンスを始めた。2年生組はいないが、その不在を感じさせないパフォーマンスに、会場はの熱気は増していく。
その中でも一際目を引くのが、やはりウエディングドレスに実を包んでいる星空凛だろうか。照れ笑いのような表情に、会場全体が虜になったかのように思えた。
タキシードをアレンジした衣装に身を包んだ他のメンバーも、ステージに彩りを添え、観客の盛り上がりも、より一層熱を増していく。
そこで、希さんと目が合った……気がした。まあ、今回は席がステージに近いしな。そんな偶然もあるだろう。
だが、この時の俺は知る由もなかった。
この後、俺達の関係がハッキリ変わり始める出来事が起こる事に……。