『八幡君、目を閉じて?』
「……は?」
『いいから、あとはお姉さんに任せとけばええよ』
「え、いや、だから、その……!」
「っ!!」
目を開け、体を起こすと、そこは見慣れた自分の部屋だとすぐにわかった。
……なんつー夢見てんだか。欲求不満かよ。
自分に呆れながら首筋に手を当てると、この前の出来事を思い出してしまう。
あれが自分の中でどういう意味を持つのか……既にわかりきっている気はするのだが、まだ深く考えられる状況じゃない。
……今はただ……とにかく恥ずかしい!!
何やってんの、俺!?何、その場の勢いだけであんなことしちゃってんの!?中学時代に学んだでしょ!?八幡のバカ!
ひたすら自己嫌悪に陥りながら、今日は少しぐらい遅刻してもいいや、とだらけた気持ちになっていると、携帯が震えていた。
こんな朝早くから誰だろうか……などと考えるまでもなかった。
「……はい」
「おっは~!!」
「元気いいですね。何かいいことでもあったんですか?」
「ん?いいこと?そうやね~……誰かさんに熱くだきしめられたことかな」
「……すいません。本当に勘弁してください」
「あははっ、これはしばらく使えそうやね。うんうん」
「てか、用事は何なんですか?」
「ん?なんかね、八幡君が遅刻してもいいやって気分になってそうやから、注意しとこうと思って」
「…………」
「え?まさか……本当に当たってたん?」
「い、いや、まさか……」
「まさにスピリチュアルやね。さ、八幡君も起きて準備しよっか」
「はあ……まあ、そうしときます」
「うんうん。今日も八幡君はいい子やね」
「めっちゃ子供扱いされてる気がするんですが……」
「どうやろうね~?あ、用事もう一つあった」
「?」
「君の声が聞きたかっただけ……なんてね」
「っ!」
朝からなんつー爆弾投下してきやがる……いや、悪い気は全然しないからいいんだけどね?
この後、洗面所で顔を洗っていたら、小町から「朝から何一人でニヤニヤしてんの?怖すぎるんだけど……」などと言われてしまった。
……いや、本当にあの攻撃はずるいと思います。
*******
「告白!?」
「そうそう、それで手伝って欲しいってワケ」
いきなり場面が変わってすまないが、奉仕部に意外な依頼が来た。
なんと、クラスメートから告白の手伝いをして欲しいという、明らかに面倒極まりない内容……だが、本人は至って真面目らしい。戸部だから、そう見えづらいが。戸部だし。
さらに、その依頼を受けるかどうかの判断が、俺に委ねられようとしている。いや、なんでだよ。
とはいえ、部活の性質上言うことは一つしかないのだが……
「まあ、やってみますか……」
その言葉が、色んな物事を大きく変える鍵になるとは、勿論知る由もなく……。
*******
そして、再び俺は希さんと連絡をとっていた。
「修学旅行、ええなあ。ウチも京都行きたいなあ♪」
「いや、去年行ったでしょう」
「場所は京都やないし、修学旅行先で八幡君をからかえなかった……」
「そもそも去年は出会ってないでしょう」
「あ、それもそうやね。なんかもっと前から君のこと知ってたみたいやから。不思議やね」
「……そうですか」
口ではそう言ったが、たしかにそのとおりだと思う。
ぶっちゃけ去年の今頃は、家族以外の誰かとケータイで話をするなんて思ってもみなかった。なんだそれ、哀しすぎる。
「……あー、一応土産買ってきますんで、とりあえずバイトの時渡しますよ」
「あら、ありがと。じゃあ、ウチはお礼にハグしてあげよっかな」
「いや、それは遠慮しときます。てか、あんた接触多すぎでしょ。俺の事好きなんですか?」
「……う~ん、どうやろうねぇ?」
「…………」
やっぱり変にからかうのはやめておこう。駆け引きでこの人に勝てる気がしない。
「そういや……今度ライブあるって言ってましたね」
「うん。少し先なんやけどね。今度はハロウィンパレードでのライブやから、衣装も面白いもんになるよ」
「面白い……ですか」
「そ、面白いやつ。さらに、八幡君のお土産次第で露出度が上がる仕組みになっております」
「なん……だと……」
なんだ、そのおかしく幸せな仕組み……いや、素晴らしいのかもしれないが、見れるのはいいが、見られるのは……
「八幡君?」
「っ……いえ、なんでも……」
今、俺は何を考えていたのだろうと、すぐに反省をする。何を思いあがっているのだろうか。
気持ち悪い考えを振り払っていると、耳元を彼女のクスクス笑う声がくすぐった。
「どうかしましたか?」
「別に~。やっぱり君と話すのは楽しいなぁ、て思っただけ」
「……それならいいですけど」
急に先日の夢を思い出し、胸の中がざわつき始める。
それを悟られないように、何か話を切り出そうとしたが、上手く言葉が出なかった。
「じゃあ、そろそろウチは寝よっかな。じゃあ、八幡君。修学旅行楽しんで来てね~」
「ええ、それじゃあ」
何も悟られなかった事に安堵を覚えた俺は、戸部の依頼と、その後奉仕部を訪れた海老名さんの遠回しな依頼について考えた。
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「う~ん、なんか隠してる気がする……」