翌日。
奉仕部で早めに宿を出て、朝食をとっているのだが、朝から落ち着かない気分だ。
修学旅行でテンションがおかしなことになっているからだろうか。
……いや、違う。俺に限ってそれはありえない。
女子二人と朝飯を食っているからか。
……この二人とは部活で割と一緒にいるからな。
じゃあ、昨晩戸塚と一緒にお風呂に入れなかったからだろうか。
……まだチャンスはある。あとこれはそういうのじゃない。
だとしたら、奉仕部の依頼の件だろうか。
……まあ、こんがらがった内容ではあるが、文化祭の時ほどは疲れてない。
そうだとしたら、この感覚はなんなんだろう。
いや、本当はもう気づいている。
お土産を探している時だけじゃない。
この慣れない街を歩いている最中、ふと考えてしまうのだ。
あの人がここにいれば、もっと楽しいんじゃないか、なんて……
「ヒッキー、どうかしたの?」
「…………」
「ヒッキーってば!」
「っ!!びっくりしたぁ……どうかしたのか?」
「どうかしたのかじゃないよ~。ほら、はやく食べてお店出ないと二人を見失っちゃうでしょ?」
「……そうだな」
いかん。こんな朝っぱらから何をありえない妄想してんだか……ドルチェ&ガッバーナの香水のせいだろうか?どんな匂いか知らんけど。
「何か心配事でもあるの?」
「あー、今のところは特にないな。せいぜい戸部の喋り方がアレなのが問題ってくらいで」
「今さら!?そこはさすがに変えようがないよ!」
「たしかに問題かもしれないけど、普段から一緒にいるなら大丈夫じゃないかしら」
「ああ、だから今テキトーにぼんやり対策を考えてた」
「うわ、なんにも考えてなさそう……だ、大丈夫だよ!……う~ん、多分……」
何、その頼りない声……まあいいか。戸部だし。ダメ元だし。ダメ元すぎて、なんならダメ出ししたいまである。
それよりも気になるのは葉山の動きだ。ちなみにこれは、海老名さんが喜ぶような意味ではない。
……それとなく邪魔をされている気がする。
とはいえ、その理由やら経緯やらは何となく予想はつく。
こりゃあまた面倒なことになりそうだ……てか、既になってんだよなぁ。
すると、ポケットの中で携帯が震えだした。
確認すると、どうやらメールのようだ。差出人は……まあ二択だな。
特に意味はないが、あえて画面を見ないようにメールを開き、再び画面に目を落とすと、まず顔を思い浮かべたほうだった。
『眠い』
「…………」
いや、俺にどうしろと?
メールを打つ気力があるなら起きようよ……うわ、寝ぼけ眼でメール打ってるとこ想像したら、それはそれで可愛い。それどころじゃないとわかっていても可愛い。
……とりあえず、少し気持ちが落ち着いた。
「比企谷君。いきなりニヤニヤするのをやめなさい」
*******
「…………ふぅ」
あぁ……寝起きの変なテンションで、八幡君に変なメール送っちゃった……。
最近、気が緩みがちやねぇ。やっぱり、あのハグからやろうか……いやいや、朝っぱらから何を思い出しとるんやろ、ウチは……。
すると、背後からこちらに向かってくる足音が聞こえた。この音の感じやリズムで、すぐに誰だかわかった。
「おはよう。どうしたの、希?昨日とは打ってかわって沈んだ表情ね」
「ん~、昨日夜更かししたんよ~」
嘘は言ってない。実際夜更かししちゃったし。ぼんやりしているうちに、いつの間にかだいぶ深夜になっていた。
「夜更かし……いやらしいわね」
「いや、さすがにそれは妄想が過ぎるやろ。エリチにそういう一面があるのは知っとるけど……」
「う、うるさいわね。まあ何もないならいいわ。また占いで不吉な結果でも出たのかと思ったわ」
「ん~、まあカードは悪くないんやけど……」
「?」
私の言葉にエリチは首を傾げたが、私は笑い返すことしかできなかった。
ただ胸が少しざわつくというだけで、細かいところを言語化できる気がしなかったから。
小さな溜め息が零れたけれど、それが何を意味するのから自分でもわからなかった。
*******
数時間後……。
奉仕部の依頼という はあったものの、それなりに楽しかったせいか、あっという間に時間は過ぎていった。
現在、俺達は竹林の道にいる。
そう、戸部はここを告白の場に選んだのだ。由比ヶ浜も「とべっちにしてはナイス……」と呟いていた。
あとは海老名さんが来るのを待つだけだ。
「いよいよだね……」
「ええ。なんかこういう場面は初めてだから、なんか変な感じね」
「あはは……まあ、告白の場面に遭遇するとかまずないし、したとしても、じっくり見たりしないからね」
「…………」
「ヒッキー?」
「比企谷君?」
「…………」
二人から声をかけられているが、今は返事をしている余裕はなかった。
もう海老名さんの姿が見えている。躊躇などしている余裕はない。
ここで俺が……俺のような奴がやれることはただ一つ。
……まあ、やるしかねえか。
そして、俺は彼らの元へと飛び出して行った。