それでは今回もよろしくお願いします。
「…………」
「どうしたん?いきなり考え込んで」
「いや、どうしたもんかと思いまして……」
「?」
「俺は一人で行動する時は、最大限楽しめるよう、綿密な計画を立てますが、誰かといる時は基本人任せで、後をついていくタイプですので、どうしたもんかと思いまして……」
「素直な意見ありがと。なんか色々と悲しいけど」
そう。問題はそこなのだ。
女子との交際経験が乏しい俺は、こういう時に簡単に時間を潰せる方法など思いつかない。告白やらメールや電話やらで女子の時間を潰してきた俺ではあるが。何だそれ、哀しすぎる。
すると、東條さんが口を挟んだ。
「じゃあ、君がいつも行く場所でええよ」
「え?」
「君の予定にウチが勝手についていくだけなんやから。どこでも文句は言わんよ。ただし……」
彼女は俺の耳元に艶のある色っぽい唇を寄せた。
「エッチな場所はあかんよ?」
「なっ……」
耳朶を撫でる艶めかしい声音と、首筋をくすぐる甘い吐息に、顔が赤くなるのを感じながら、慌てて飛び退く。い、今、ぞくっとしたぞ……。
彼女はなんてことないように、クスクス笑い、目を細めた。な、何でしょう……そのシマウマを見つけたライオンのような目は……。
「ほな……行こ?」
*******
「本屋ね、ウチもよく行くよ」
「そうなんすか?」
「ええ、占いの本とか料理の本とかを買いにね。あとは……」
「?」
「ヒ・ミ・ツ♪」
何だよ、それすげえ気になるじゃねえか。
ヒミツののんたんかよ。それとも、かみさまみならいかよ。いや、もっとストレートに考えよう。
つい、大人なコーナーに目がいってしまう。
もしやヒミツとはそういうヒミツなのか……私、気になります!
「ん~~~?」
東條さんがこちらの考えを読んでいるかのようにニヤニヤ笑う。これもスピリチュアルな力の一端なのだろうか。
「比企谷君は何を考えてるんやろうな~?」
東條さんは悪戯っぽく笑いながら、俺が見ていた棚の前に移動し、適当にグラビアアイドルの写真集を引き抜く。
「ウチのこんなカッコとか~?」
次にタオル一枚を巻きつけただけの女性が挑発的な笑みを向けてくる表紙の雑誌を向けてくる。
「こんなんかな~?」
「ち、違います……」
やめいやめいやめい……!
想像しちゃうじゃねえか。妄想しちゃうじゃねえか。それと、焦っちゃうでしょっ、泣いちゃうでしょっ!
そんなやり取りは、周りの人に少し注目されていた。
「うわ、すっげえ美人……」
「いいなあ……」
「あんた何見てんのよ」
「畜生……ボッチの癖に……!」
「綺麗ずら~」
おい、誰だよ。ボッチとか言ったの。東條さんに失礼だろうが……はい、すいません。俺ですよね。
本屋でここまで精神力をガリガリすり減らされたのは、間違いなく人生で初めてだろう。
店員から冷たい視線を頂いた辺りで、さっさと店から退散することにした。
読んでくれた方々、ありがとうございます!