捻くれた少年と寂しがり屋の少女   作:ローリング・ビートル

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ドリーミング・デイ #10

 家に帰り、制服のままソファーに腰を下ろすと、そのまま眠ってしまいそうだった。ちょっと最近根詰めすぎたかもしれない。

 だが、そんな疲れた身体でも、習慣になっていることは覚えているのか、自然と携帯をチェックしていた。

 メールは特にないようだ。別に特定の誰かからのを待っているわけでは……いや、やはり気になる。

 修学旅行最終日になり、もう家に着いててもおかしくないのに、八幡君からのメールがない。

 ……この言い方は違うかな。家族や恋人じゃないし。

 ただ、胸騒ぎがする。

 とりあえずこの仕返しだけはしたいなぁ。

 

「ふぅ……今度会ったら、たっぷりからかわんといかんね」

 

 ぽつりと呟いた言葉は、一人きりの部屋に、やけに大きく響いた。

 

 *******

 

「いやあ、まさか修学旅行から帰ってきて、すぐ風邪ひくなんてねえ。まあ、お兄ちゃんらしいかもだけど……」

「……俺らしいとは」

 

 修学旅行を終え、帰宅したその夜に、体調不良を感じ、その日はそのまま寝たのだが、翌朝にはさらに悪化していた。

 ……まさかこのタイミングで風邪をひくとは。

 朧気ながら、あの日の夜の事がぼんやりと頭の中に浮かんできた。

 

『あなたのそのやり方……とても嫌い』

 

『すまない。君がそういうやり方しか知らないとわかっていたのに……』

 

『なんで色んな事がわかるのに、それがわからないの!?……ああいうの……やだ』

 

 奉仕部の依頼……。

 どうやら、俺は色々と間違えてしまったようだ。

 ……いや、そんなのは今さらか。

 間違えていたというなら、最初から間違えていたのだろう。

 いや、そもそも最初ってどこだっけ?

 

「もしもーし、お兄ちゃーん?」

「あ、ああ、悪い……考え事してたわ」

「……もしかして、結衣さん達と何かあった?」

「……よくわからん、なんかあったと言えばあったし、なかったと言えばなかった」

「うわぁ、またお兄ちゃんが拗らせてる……まあ、体調悪いから今は聞かない。じゃ、学校行ってくるね」

「ああ、行ってらっしゃい。もし移ってたら、お詫びにお粥作るわ……」

「余計具合悪くなりそうだからいい。それより、ちゃんと寝てなきゃダメだよ。目腐ってるし」

「…………」

 

 最後の一言がなけりゃ完璧可愛い妹だったんだが……いや、憎まれ口叩いていても完璧に可愛い。

 そんな事を考えてる

 とりあえず……今は寝よう。

 深い眠りが訪れる前、誰かの顔が浮かんだ。

 その表情は靄がかかっていて、よく見えなかった。

 

 *******

 

 学校にいる間も、何だかモヤモヤした気分のまま過ごしてしまった。授業がこんなに耳に入ってこないのは、初めてかもしれない。

 

「う~ん……」

「何やってんのよ。希」

「ん?誰やったっけ?」

「ぬわぁに言ってんのよ!スーパーアイドル、矢澤にこよ!てゆーか、しょうもない冗談言ってんじゃないわよ!」

「あはは、ごめんごめん。ついからかいたい欲求が……」

 

 こんなにからかいがいのある人も珍しいかもしれない。八幡君と西片君に並ぶといっても過言ではないだろう。

 にこっちは溜め息を吐いてから、こちらにジト目を向けてきた。

 

「まったくもう……それで、なんかあったの?」

「え?」

「そんないかにも悩んでますみたいな顔されたら、誰でも気になるわよ」

「あらら、ウチそんな顔がしとったんやねえ……」

 

 いけないいけない。これは注意しておかないと。

 何となく頬に手を当て、表情を柔らかくしようと悪あがきをしていると、にこっちは前の席に腰を下ろした。

 

「もしかして、比企谷っていう男子のこと?」

「うん」

「…………」

「どうかしたん?」

「いや、随分はっきり言うなあって思っただけ。アンタの事だから、どうせはぐらかされると思ってたし」

「隠す必要もないからねえ」

「……も、もしかして、もう付き合ってんの?」

「……そんなんじゃなくて。もう修学旅行も終わってるのに、連絡も何もないから気になってるだけ」

「はあ?そんなの自分から連絡したらいいじゃない」

「ん~、そうなんやけどね……いや、ほら、何て言うか……」

「……やば。ちょっとずつキャラ変わってきてる」

「何か言った?」

「何も。それより、気になるならさっさと電話でもした方がいいわよ。誰とは言わないけど、背後から虎視眈々とチャンスを窺ってるのがいるかもしれないし」

「にこっち……」

「お礼ならいらないわよ。このくらいスーパーアイドル・にこにとってはどうってことないんだから」

「にこっち虎視眈々なんて言葉知っとったんやね」

「なんで感心するところがそこなのよ!?」

「冗談冗談。ありがとね、にこっち」

 

 だいぶ心が軽くなった気がする。

 にこっちの頭を撫でると、まだ人慣れしていない野良猫のように嫌がられた。

 

 *******

 

 家に帰ってから、私は八幡君に……ではなく小町ちゃんに電話をした。

 にこっちがいたら溜め息を吐かれそうだが、今は仕方ない。

 通話状態になると、私はすぐに話し始めた。

 

「あ、もしもし、小町ちゃん?」

「希さ~ん、聞いてくださいよ~」

「?」

「実は兄が……」

 

 小町ちゃんの話を聞いた私は、すぐに家を飛び出した。

 

 

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