捻くれた少年と寂しがり屋の少女   作:ローリング・ビートル

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Someday

「……今、何時だ?……てか、だりぃ」

 

 意識が朧気だが、体がまだだるいことだけは、はっきりとわかる。

 普段なら風邪ぐらい一日で回復しそうなものだが、今回はどうも普段よりひどいようだ。

 まあ、別に皆勤賞を狙ってるわけじゃあるまいし、2、3日休むのは構わないのだが、これではゲームをしたり、アニメを観たりする余裕もない。

 やたら損した気分になるが、どちらにせよ今は休むしかない……喉、乾いた……。

 一旦起きるか……起きるのだるいが……

 

「あ、無理せんほうがええよ。今は」

「……それも、そう、ですね……………………は?」

「ん?どうかしたん?お水飲む?スポーツドリンクもあるけど……」

「……夢、か」

「夢じゃないよ~」

 

 聞き慣れた声のする方に、ゆっくりと視線を向けると、確かに彼女はそこにいた。

 いつもと変わらない小悪魔めいた笑みをこちらに向けていた。

 

「……希さん……ですよね?」

 

 わかっていながらも、一応尋ねてみる俺に対し、彼女は笑みを深めた。

 

「当たり。君の尊敬する優しい先輩、東條希だよ~」

「……な、なんで……?」

「小町ちゃんから聞いて、心配になったからやね。本当は昨日からでも来たかったけど、さすがに遅かったから、とりあえず栄養ドリンクとか、お見舞いの品だけ買い込んどいた」

「……学校は?……てか、今何時ですか?」

「今はそんなの気にせんでもええよ。はい」

 

 希さんが蓋を開けたペットボトルをこちらに渡してきた。

 口をつけると、乾いた喉を優しく潤していく感覚が気持ちいい。

 少しだけ元気が戻った気がしたので、もう一度確認すると、やはり彼女はそこにいた。

 どうやら間違いないようだ。危ねえ……滅茶苦茶リアルな妄想したかと思ったわ……。

 一息ついたとこでまた布団に潜り込み、頭に浮かんだ疑問をぶつけてみた。

 

「……あの、どうして……?」

「困った人を見たら放っておけない性格やからね。バイト先の可愛い後輩やし」

「……学校は?」

「振替休日やね」

「でも、もし移ったら……」

「はいはい。病人はそんなこと気にしないで休まんと」

「……はい」

 

 今は何を言っても……いや、そもそも万全の状態でも、この人には言いくるめられてきたのだが……。

 

「何なら子守唄でも歌ってあげようか?」

「……クセになって毎晩聴かないと眠れなくなりそうなんでやめときます」

「ふふっ、体調悪くてもそういうところは相変わらずやね……それじゃ、おやすみ」

 

 そう言って、希さんは俺の頭を撫でてきた。

 ひんやりした掌の感触が心地よく、なんだか眠気が再びやってくる。

 沈んでいく意識の中で、彼女に渡すために買ったお土産の事を思い出した。

 

 *******

 

 再び目が覚めると、もう外はだいぶ陽が傾いているようだ。

 それと、体はかなり楽になっていた。

 すぐに希さんの事を思い出し、隣に目を向けると、彼女は机に突っ伏して、寝息をたてていた。

 その姿に自分の学校での姿が重なり、つい頬が緩んでしまう。

 

「すぅ……すぅぅ……んん?あ、おはよ~」

「……もう少し寝てても大丈夫ですよ」

「ふふっ、ウチが寝てる間に、こっそりエッチないたずらする気やろ?」

「恩を仇で返す真似はしませんよ」

 

 彼女はとろんとした目つきのまま立ち上がり、そのまま俺の顔を両手で挟んだ。

 

「は?」

「ん……」

 

 そして、そのまま顔を近づけ……額と額を優しく合わせた。 

 

「うん、もう熱も下がったみたいやね」

 

 寝ぼけているのか、からかっているのか知らないが、とにかく今希さんの顔がすぐ目の前にあるのは事実。

 唇の辺りに生温かい吐息がかかった瞬間、俺の体は自然と動き出していた。

 

「…………っ!」

「きゃっ!」

 

 俺は、いつかのように彼女を抱きしめていた。

 病み上がりのせいか、頭はまだぼんやりとしていたが、甘くやわらかな体温と感触は、はっきりと伝わってきた。

 もちろん彼女の戸惑いも、両腕を通して伝わってきた。

 

「は、八幡君?」

「……いくらなんでも無防備すぎやしませんかね」

「あはは……そうかもしれんね。八幡君、意外と狼さんやもんね」

「いや、羊が頑張って吠えただけですよ」

「なんかあった?」

「……少しだけ」

「今日は正直やね」

「隠し事してもどうせばれますから」

 

 これも病み上がりのせいだろうか、普段よりもするすら言葉が出てくる気がした。

 自然と彼女の厚みのある唇に目がいく。

 彼女は俺の視線に気づいたのか、控えめな笑みを見せ、そっと口を開いた。

 

「ねえ……する?」

「…………」

 

 何を、とは聞かなかった。

 さすがに何の事を聞かれているかは想像がついた。

 だが、何も言えずに黙っていると、希さんは目を閉じ、無防備な唇をこちらに晒した。

 正直心臓が高鳴りすぎてヤバい。だがこの状態で逃げるような真似はしたくない。

 俺は少しずつ彼女との距離を詰めた。

 

「…………」

「…………」

「にゃ~」

「「っ!?」」

 

 気の抜けるような鳴き声に、二人して驚いてから目を向けると、そこには、いつからいたのだろうか……カマクラがベッドの下から、のそのそ出てきて、こちらをじとっと見つめていた。

 先程までの張り詰めた空気が一気に弛緩し、一気にいつもの空気が戻ってくる。

 

「あはは、び、びっくりするねぇ。カマクラちゃん、いつからいたんやろうか」

「そ、そうっすね……普段はそんなに俺の部屋には来ないんですけど」

「そ、そう?あ~……ちょっと台所借りるね。八幡君はまだ横になってて」

「は、はい……」

 

 ぱたぱたと部屋から出ていく彼女の背中を見つめながら、俺は胸の辺りに、初めて感じる熱が確かにそこにあった。

 見れなくとも、触れられずとも、それが何なのかは最早言うまでもなかった。

 

 *******

 

「……あ~、ドキドキした。どうしよ。この後顔見れるか心配なんやけど……」

 

 

 

 

 

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