ハロウィンライブ当日。
秋葉原はまだ朝だというのに、既に仮装した人達で溢れていた。
そんな中、俺は小町達と一緒に人混みを通り抜けているわけだが……。
「っべーわ。ヒキタニ君、ほんとに仮装しなくていいん」
「もう間に合ってるからいいんだよ」
そう。何故か戸部がいる。
ちなみに戸部はミイラのコスプレをしている。どうでもいいけど。今朝、小町と駅で戸塚達を待っていたら、何故か一緒に来たのだ。理由はわからんけど。
かといって反対する理由も特にないので、そのまま行動を共にしているわけだが……。
あと材木座はフランケンシュタインのコスプレをしている。本当にどうでもいいけど。それより……
「わあ……八幡、すごいよ、あっちの人達」
「お兄ちゃん、お兄ちゃん。希さんからメール来たよ。衣装楽しみにしててだって」
見ろよ、この天使二人を。両方魔法使いの格好してるけど、こりゃもう立派な天使だよ。何なら、これが拝めただけでも来た価値があるというものだ。
そう思いながら戸塚の視線の先を確認すると、何のコスプレかはわからないが、華やかで賑やかな集団がいた。
「ほら、才人!こっちこっち!」
「ルイズ、お前まだ来たばっかりなんだから、あんま走り回んなって!迷子になっちまうぞ」
「才人さん、私も構ってください!」
「ここが才人さんのいた世界……」
「すごく高い建物……」
なんだろう、普通のコスプレとはどこか違うというか、まるでファンタジーの世界から飛び出してきたみたいだ。ハーレムだし。
しかも、その真ん中にいる男子だけ、割と普通な……とにかく不思議な集団だ。
*******
さて、小町ちゃんにメールも送った事だし、あとはしっかりパフォーマンスするだけやね。
……普段なら八幡君にメールを送るところやけど、何故か送れなかった。
自分でもよくわからんけど、余計に気になるからやろうか。
「…………」
「希、もしかして緊張してるのですか?」
「え?……そう、見える?」
「にゃ~!凛達がいるから大丈夫にゃ!」
二人から言われたということは、どうやら自分で気づいていなかっただけで、実は緊張していたのだろう。
……あぁ、もう!これは間違いなく八幡君のせいやね。
絶対に後で思いっきりからかわんと。
私は、また極めて自分勝手な事を決意して、気合いを入れ直した。
*******
特設ステージにμ'sが登場すると、一際大きな歓声が上がり、彼女達の知名度がかなり高くなっていることがわかった。
それぞれハロウィンらしいカラフルなコスプレに身を包み、観客の目を惹き付け、すぐパフォーマンスに移ると、観客はあっという間に魅了されてしまった。
「希さ~ん!」
「ふむう……今回も悪くない」
「わぁ…………」
「ちょっ……ヒキタニ君、俺こういうの初めてなんだけど、なんかやばくね?やばくね?」
「…………」
興奮しながら肩をバシバシ叩いてくる戸部をスルーし、ステージに意識を集中していると、希さんと視線がぶつかる。どこで見るかなんて言ってないので、これもスピリチュアルな力なんだろうか。
すると、彼女は少しだけ目を伏せてから、またこちらを見て……投げキッスをしてきた。
……なんだ、今の撃ち抜かれたような感覚。
それと、さっき目を伏せた彼女の表情が、どこかいつもと違う気がした。
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ライブ終了後、パレードをぼんやり眺めながら、μ'sのパフォーマンスの余韻に浸っていると、肩をつつかれた。
振り向くと、先程までステージにいた絢瀬さんがそこにいた。
軽く頭を下げると、何か企みを含んでいそうな笑顔で、こっそり話しかけてくる。もう少しポーカーフェイスとかできないんでしょうか……まあ、わかりやすくていいけど。
「比企谷君。ちょっといいかしら」
「はい?」
「希に飲み物届けてもらえない?もう着替えは済んでると思うから」
「……ああ、わかりました」
何を頼まれるかと思えば、そのくらいのパシリなら小町で慣れてるからお安いご用だ。
近くの建物の一室を借りているらしく、自然と早足になっているせいか、言われた部屋にすぐ辿り着く。
そして、一呼吸おいてからドアを開けると、そこには……
「え?」
「っ……」
まだ着替えてる途中の希さんがいた。
「すいませんっ!!」
あまり出さないボリュームで謝りながら、勢いよくドアを閉める。
すぐに静寂が訪れたが、まだ心臓がばくばく高鳴っていた。
しばらくすると、「もういいよ」と声がかかり、俺はおそるおそる足を踏み入れた。
彼女は髪を指先で弄びながら、こちらをジト~っとした目で見た。
「も、もう……ノックくらいしてよ」
「はい。すいませんでした……」
確かに。
いくら着替えが終わっているからと聞いていても、ノックするのがマナーだった。小町が相手だったら、三日間くらい口を聞いてもらえないだろう。
首筋に手を当て、もう一度謝罪の言葉を口にしようとすると、彼女は距離を詰め、こちらの顔を覗き込んできた。
「ふふっ、じゃあ今度のバイトでお昼ごはん奢りね」
「……はい」
元より拒否権などあるはずもない。
頷くと、彼女は俺の胸に手を当て、悪戯っぽい笑みを向けてきた。
「君になら見られてもええんやけど」
「からかわないでくださいよ」
「それは無理な相談やね」
まあ、そりゃそうだろう。
飲み物を手渡すと、希さんは「ありがと」と受け取ったが、また伏し目がちになった。
その表情がどこか切なくて……
俺は自然と口を開いていた。
「あの……あー……この後時間あるなら、どっか行きませんか?」