捻くれた少年と寂しがり屋の少女   作:ローリング・ビートル

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Someday #5

「お待たせ」

「……いや、そんなには」

 

 希さんが控え室から出てきたので、俺は携帯から顔を上げ、意味もなく手を軽く挙げた。

 

「やっぱ制服なんですね」

「まあ、学校の代表として参加してるからね。あ、ごめんね~。巫女装束は持ってきてないんよ」

「そりゃ残念っすね」

「お、なんかリアクション変わったやん?いきなりデートに誘ってくるし、八幡君が今日何をするつもりなのか楽しみやね」

「あんまハードル上げられても、くぐるしかなくなるんですが……」

「あ、やっぱりいつもの八幡君やね。安心安心」

「お、おう……」

 

 いつもの俺とは……と少し不安になるが、まあいいだろう。

 俺と彼女はどちらからともなく歩きだし、控え室をあとにした。

 

 *******

 

 まだ小町にメールで先に帰っていいと伝えると、「頑張るんだよ!」と謎の激励を貰った。

 ……まあ、素直に受け取っておこう。

 希さんも、μ'sのメンバーの誰か……おそらく絢瀬さんだろう……に連絡してから、にぱっと笑顔を見せた。

 

「それじゃあ、どこ行こっか?」

「あっちの方、出店あるらしいんで行ってみますか」

「へえ、そういえばまたお祭りっぽいもの食べてないんよ。これは何か食べんといかんね」

 

 急に目をキラキラさせた希さんは、ガシッと俺の左手首を掴んだ。

 あまりに自然なその行動に、しばらく照れやら何やらが追いつかなかった。

 

 *******

 

「ん~、美味しい……♪」

 

 クレープを頬張り、うっとりと呟く希さんを、通りすがりの男女がチラ見して行った。まあ、気持ちはわからないでもない。可愛い。あと可愛い。

 感心して、一人で頷いていると、希さんがクレープをこちらに差し出してくる。

 

「はい、あ~ん」

「いや、しませんよ」

 

 油断すると、すぐにこういうからかいが来る。さっき見たあの表情は幻だったと言わんばかりのテンションだ。

 すると、周りからヒソヒソと声が聞こえてきた。

 

「おい、あれを断る男がこの世にいるのか?」

「頭がおかしいのか……心に病を抱えているのか……」

「ニフラム」

「ちっ、ボッチのくせに!そこは素直にいけよ!」

 

 何か色々言われているんだが……。おい、昇天させようとすんな。あと俺をボッチ呼ばわりするお前。いい加減姿を見せろ。

 目を向けると……ちっ、逃げられたか。まあいい。今はそれどころじゃないからな。

 

「八幡君、どうかしたん?」

「いえ、何でもないです……」

「えいっ」

「んぐっ!?」

 

 いきなり口にクレープを押しつけられ、言葉が発せなくなるなくなる。

 ふわふわの生地と甘い生クリームのコンボに、MAXコーヒー並の幸せを感じたが、すぐに気恥ずかしさが表に出てくるのがわかった。

 

「ふふっ、どう?」

「いや、どうとか言われましても……甘いです」

「八幡君好みの甘さやろ?」

 

 その言葉の意味をいちいち深読みしてしまいそうになる自分がいるが、まあこれは言葉どおりに受け取っておいていいだろう。

 こくりと頷くと、希さんは何か思い出したかのような表情で口を開いた。

 

「今日は何で誘ってくれたの?」

「…………」

 

 彼女の視線は正面を向いていて、その視線は人混みの向こうに注がれていた。

 だが、周囲のざわめきは先程より少し遠く聞こえる。

 このまま聞こえなかったふりをしても構わないのかもしれないが、俺はさっきの違和感を口にした。

 

「……気になったんですよ」

「?」

「あー……何つーか、気のせいかもしれないんですけど、ふとした時の表情が暗いというか、暗めというか……それで、気になったんですよ。ほら、バイト先の先輩がどこか悪くしてたら気になると言いますか……」

 

 最後の方はだいぶ早口になってしまったが、噛んではいないので伝わっただろう。希さんは、正面を向いたまま頷いていた。

 

「そっかぁ、そんなにウチの事が気になってたんやねえ」

 

 だいぶ曲解はされているが。いや、そうでもないのか?

 何ともいえない気分になっていると、急に希さんが腕に抱きついてきた。

 暴力的なまでの感触が肘に押しつけられ、脈拍数が急速に上がるのを感じた。

 

「じゃあ、気にかけてもらったお礼をせんといかんね」

「い、いや、礼とか……そんなの……いらないでしゅけど……」

「あははっ、噛んだ♪……ありがと。心配してくれて。あとこうして一緒にいてくれて」

「…………」

 

 最後の方の『一緒にいてくれて』が、やけに切なく聞こえたのは何故だろうか。

 だが、そんな疑問を打ち消すように、彼女は爆弾を放り込んできた。

 

「ねえ、八幡君にとって、ウチって何なん?」

「…………」

 

 せめてからかう時には、もうちょいわかりやすいテンションでやってくれませんかねえ。

 俺は内心の焦りを隠し、いつものように言った。

 

「……大事な先輩、ですかね」

「……………………鈍感」

 

 希さんのリアクションは、いつもと少し違っていた。

 

 *******

 

「ふぅ……やっと仕事が一段落つきそうね」

「ああ、そろそろ娘の顔が見たいよ」

「ふふっ、あの子びっくりするんじゃないかしら……いきなり、こっちに来いって言い出したら」

 

 

 

 

 

 

 

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