捻くれた少年と寂しがり屋の少女   作:ローリング・ビートル

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Someday #7

 絢瀬さんとの通話を終えてから、俺はすぐに電話帳を開き、見慣れた名前を何度も指で叩いた。

 しかし、繋がらない。どうやら電源が切られているようだ。

 いや、落ち着け。別に今すぐどこかに行ってしまうわけじゃない。

 そう自分に言い聞かせてみたが、焦りみたいなものは収まってくれなかった。

 試しにもう一度彼女の名前を指で叩いてみたが、やはり繋がらない。

 それと同時に、今度は無力感がこみあげてきた。よくよく考えてみれば、俺は彼女の事を知ったつもりでいて、その実大して知らなかったのだ。というか、そんな事を考えることすら自惚れなのかもしれない。

 いきなり知らされた事実に、止めどなくマイナス思考が溢れ出すのを、何とか抑えようとかぶりを振る。

 すると、カマクラがじーっとこちらを見ているのに気づいた。

 

「……どした?」

 

 何か言いたそうな顔に、つい語りかけてしまうが、もちろん何の返事もない。こんな事するあたり、自分が平常心じゃない証拠だろう。

 

「お前だったらどうする?」

「な、何やってんの、お兄ちゃん?」

「…………」

 

 我が麗しのマイシスターが、いつの間にかご帰宅されていたようだ。しかも、こちらに気持ち悪そうな目を向けてくるというおまけつきで。

 

「おかえり」

「いや、何事もなかったようにしても無駄だから。てか、どしたの?カーくんに人生相談なんかして。もしかして希さんの事?」

「……別に。何でもねえよ」

「うわ、当たっちゃった……まあ、お兄ちゃんが悩みそうなことなんて、それ以外にほとんどないから仕方ないんだけどね」

「…………」

 

 どうやらこいつに隠し事しようとするだけ無駄らしい。ついでに失礼な事を言われてる気がするが、まあ事実だろう。

 

「お兄ちゃん、何があったかは聞かないけどさ、もうちょっと素直になっていいんじゃないの?」

「……そういうもんか」

「まあ、今さら素直で可愛げのあるお兄ちゃんなんて気持ち悪いだけなんだけどさ、たまには言うべきこと言わないと、嫌われちゃうかもよ?」

「……そういうもんか」

「ギャップ萌えというやつです!」

 

 ぱちこんっとウインクしてくる小町に、つい苦笑してしまう。何それ可愛いかよ。

 何だか、あっちの状況もよくわかってないのに、一人で悩んでいるのが馬鹿らしくなってきた。

 つーか、たまには思いきり驚かせて、からかいつくしてやらんと割に合わん。

 俺は小町の頭を撫でてから、すぐに用意を始めた。

 

 *******

 

 よし、準備完了。

 まあ、いきなりの事やし。あとは向こうで色々揃えればええやろ。

 ……いきなりなのはいつもの事か。

 小さい頃はいきなり転校するって言われて、随分怒ったなぁ。

 とりあえず、いつも振り回してくる仕返しに、二人に会ったら少しくらいお説教してもいいだろう。

 何なら、その勢いで八幡君を無駄にからかいまくってもいいくらいだ。

 

 *******

 

 しばらくして、俺は秋葉原の駅前に立っていた。

 別に気持ち次第で電車が速くなるわけでもないのだが、何だか普段よりかなり早く到着した気がする。

 とはいえ、もうすっかり暗くなっており、駅前を行き交う人は、どこか急いでいるように見えた。

 さて……多分今日は、あそこにいるよな。

 確信に近い感覚で足早に目的地へと向かう。

 通学路に比べたら、歩いた回数は遥かに少ない道。

 だが、この道を歩く時に目に入る景色は、鮮明に脳に焼き付いており、微かではあるが、胸が高鳴る。

 そんな事に今日初めて気がついた。

 やがて、目的地の神社に到着する。

 一歩一歩確かめるように歩いていくと、すぐにその背中が見えた。

 こんな時もいつもどおりなのが、いかにも彼女らしい。

 ……果たして言いたいことはしっかり言えるだろうか。

 全然こちらに気づく気配のないその背中に、俺は声を飛ばした。

 

「……希さん」

「ひゃあっ!?……え?え?嘘……え?ほ、本当に八幡君?」

「あー、はい……」

「ど、どうしたん、いきなり?」

 

 あまりに予想外だったのか、慌てふためく彼女は、まだ俺がここにいるのが信じられないみたいだ。

 とりあえず先制攻撃は成功したらしい。いい気味だ。

 薄暗い境内で見る彼女は、どこか幻想的で、油断すると、そのまま見つめてしまいそうだった。

 それを何とか振りきり、俺は軽く息を吐いて、思いつくままに言葉を口にすることにした。

 

「その、なんつーか、希さんって、結構謎な人ですよね」

「ん?そ、そうなんかなあ?別に何も隠したりはしてないけど……」

「いや、秘密っていうか、俺みたいなのにも最初から割と親しげに接してきたじゃないですか」

「それは……何となく君がウチと似てたから、かな」

「……そうなんですか?」

「うん。一人は平気みたいな顔してるけど、どこか寂しそうなところとか……」

「そうですか……」

 

 寂しそう、か。あながち間違いではないのかもしれない。

 ただ、これまで諦めるのに慣れていただけで……。

 それで諦めたくないものが今はあるから……。

 

「あと、文化祭や修学旅行の後、希さんのおかげでいろいろ助かりました」

「ウチは大したことはしとらんよ。でも……ありがとう。今日はお礼を言いに来てくれたん?」

「……それだけじゃないですよ。ただこういう事は言えるうちに言っておこうと思っただけなんで」

「え?それってどういう……」

「……希さんが引っ越して、これまでみたいに会えなくなっても……」

「……………………?」

「あー……一回だけでいいんで聞いてください」

「は、八幡君?」

 

 こちらが何を言うのかは、きっと既に気づいているのだろう。

 いつの間にか、風は止み、時間が止まったような感覚に陥っていた。

 俺は、丸くなった目を見つめたまま、ゆっくりと口を開いた。

 

「俺は……希さんが好きなんですよ」

 

 

 

 

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