捻くれた少年と寂しがり屋の少女   作:ローリング・ビートル

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Someday #8

 訪れる沈黙。

 自分が言った言葉を、もう一度頭の中で反芻してみる。

 よし、間違ってはいないはず。

 そんな意味のない確認作業をしながら、何とか気を紛らわそうとするが、もちろん大した効果はなく、不思議な高揚感と脱力感のせめぎあいが身体を支配していた。

 一体どのくらい静寂がこの場を包み込んでいたのだろう。

 先に口を開いたのは希さんだった。

 

「…………八幡君」

「…………」

 

 名前を呼ばれたが、碌に返事すらできないのが情けない。

 それでも、何とか視線は逸らさないように、真っ直ぐに見つめ続ける。

 すると、彼女の唇が再びふわりと動いた。

 

「あの、ウチが引っ越すって、何の話?」

「……………………え?」

 

 希さんは、こてりと首を傾げながら、本当に不思議そうな表情を見せた。

 な、何だ、この感じ……。

 焦りに身を任せるように、ついつい口を開いてしまう。

 

「あ、絢瀬さんから聞いたんですが……」

「エリチから?ん~……まあ、うっかり携帯でも見たんかな?エリチやし……」

「…………」

「まあ、エリチの早とちりやね……ちょっと九州にいる両親から呼び出されただけで、引っ越したりはせんよ」

「……そ、そうですか」

「うん、なんかごめんね。エリチが……あはは」

 

 少し気まずそうに笑う希さんは、そのまま顔を伏せたかと思うと、こちらに一歩踏み込んできた。

 ほっとしたのも束の間、今度は別の緊張がこみあげてくる。

 

「ねえ、八幡君……」

「は、はい?」

 

 彼女は極上の上目遣いと共に甘い声音で囁いてきた。

 

「さっきの言葉……一回しか言ってくれないの?」

「っ!?」

 

 おい、なんだこの反則技。こんなんありかよ。……まあ、この人からすりゃあ、アリなんだろうな。うん、知ってた。

 こちらの心情など掌で転がすように、蠱惑的な笑みを浮かべた彼女は、また一歩距離を詰め、甘い香りでこちらを包み込みながら、そっと掌を胸に当ててきた。

 

「さっきは君が来たことに驚いて、よく聞こえんかったなぁ」

「ぐっ……」

「あーあ、もう一度しっかり聞きたいなぁ」

 

 男に二言はないと言いたいところだが、そんな顔されたら言うしかない。だって可愛すぎるんだもの。

 あっさり前言撤回した俺は、もう一度彼女の目を見て、さっきよりもしっかりと言葉に輪郭をもたせた。

 

「……好きです。心から」

「……うん」

 

 最後に付け加えた言葉に一瞬目を見開いた希さんは、すぐに穏やかな笑顔になり、はっきり頷いてくれた。

 こんな薄暗い中でも、その頬は朱く染まっているのがわかり、より一層胸が高鳴る。

 それから彼女は、しばらく考え事をするように目を伏せたが、何かを決意したように顔を上げた。

 

「その……ウチの事を心から好きで、早とちりでわざわざここまで来てくれた八幡君には、何かご褒美が必要やね」

「い、いや、別に……」

「必要やね?」

「はい……」

 

 何だろう。今圧で押しきられた気がするんだが……。

 まあ、十中八九からかわれるだろうが、今となってはそれもどんと来いだ。こちらはもう既に告白を済ませているのだから。

 

「ん…………」

「っ…………!?」

 

 キスされた。

 何も考える暇などない。

 希さんはいつになく俊敏な動きで、俺の頭部を左右から掴み、自分の唇を俺のそれに、やたら不器用に押し付けていた。

 柔らかな唇の感触に、全身が痺れるような感覚がして、微動だにできない。

 まるで天に昇っていくような幸せを俺は初めて体験していた。

 ぼーっとした思考回路の中、名残りを惜しむように、そっと唇が離れると、再び時計の針が回り始めるように、周りの景色もじんわりと目に馴染み始める。

 希さんは、どこか落ち着かない表情のまま、口元だけ笑みを見せた。

 

「……わ、私……ウチも君が好き。大好き。心から」

「……どうも」

 

 初めて見る表情に、たまらなく愛しさが溢れてくる。

 衝動のままに今度はこちらから口づけを交わした。

 

「…………」

「ん、んん……」

 

 こちらもよく加減がわからず、随分不恰好なものになってしまったが、それでも気持ちは昂り続けている。

 希さんは、とろんとした目をこちらに向け、小悪魔の笑みを見せた。

 

「巫女装束のまま、こんなキスさせるなんて……八幡君はほんと好きやねえ」

「いや、最初はあんたからでしょうが……」

「こんな気持ちにさせたのは君やろ?」

 

 彼女はぺろりと唇を舐め、キスの余韻を味わっていた。

 その赤い舌に目を奪われていると、希さんは目ざとくその視線に気づき、思いきり抱きついてきた。

 

「もう一回……ね?」

「……はい」

 

 その魔性に抗えるわけもなく。

 ただ不器用に唇を重ねる二人を、月だけが見ていた。

 

 

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