「じゃあ、すぐにご飯作るから待っててね」
「…………」
まさかこんな展開になるとは……。
あの後、希さんと手を繋いで駅まで行き、彼女に見送られながら千葉に戻る予定だったのだが、トラブルにより、電車が止まってしまった。
そして、今日はこちらに泊まることになったのだが……。
「ん?どうかしたん?あ、まさか緊張しとるん?結構前泊まったのに?」
「あー、いや、その……この前とは色々違うというか……」
「そうやねえ、あっ、忘れとった!」
「っ!」
何かを思い出したように希さんはこちらに駆け寄り……唇を重ねてきた。
不意打ちにまったく反応できずに呆然としていると、唇が離れ、頬を赤くしながら笑う彼女が視界に映った。
「ふふっ、家でチューすんのは初めてやね?」
「……そ、そりゃまあ、さっきのが初めてなんで……」
「それもそうやね。というわけで……ん」
希さんは目を閉じ、何というか……『待ち』の姿勢になった。
長い睫毛もきめ細やかな肌も、形のいい艶やかな唇も、これまでより近く感じる。触れられるという事実だけではなく、心の距離がそうさせるのだろうか。
俺は手が微かに震えるのを隠すことなく、再び彼女と唇を重ねた。
*******
食後。二人して洗い物をしていると、ある事を思い出した。
「そういや、両親に会いに行くって言ってましたけど……」
「ん?ああ、その用事なんやけど……やっぱり年が明けてからにしようと思ってるんよ。ラブライブもあるし……」
「そうですか」
「何なら君もついてくる?ちょっと早いけど両親への挨拶ということで」
「早すぎ。早すぎですよー……でも」
「?」
「一緒に旅行とか……いいんじゃないんですかね。まあ、予定が合えば。あと金が貯まれば」
「……そうやね。八幡君とならどこ行っても楽しそうやし。北極や南極でも」
「その2つは遠慮しておきたいですけど、まあどこ言ってもからかわれるんでしょうね」
「あははっ、当たり前やん」
「当たり前なのかよ……」
色々想像したら、つい笑みが零れてしまった。確かにこの人なら、南極でも平然とからかってきそうだ。
「ふむふむ。八幡君のそういう笑顔、初めてやね。可愛い~」
「そ、そうですかね?てか、どういう笑顔なのか、よくわからないんですけど」
「なんていうか、外ではあまり見せないやつやね。こういうの見れるのが恋人の特権かな」
「……ま、まあ、こんなんでよければいくらでも」
何故か指で頬をつついてくる彼女に、俺は苦笑しながら、後でつつき返そうと密かに決心した。
*******
あれこれやってるうちに、少しだけ作業が遅れたが、ようやく一息ついた頃、1日のイベントとしては最後のアレがやってきた。
「八幡君、お風呂どうぞ」
「え?あ、ああ、はい……」
お風呂という単語だけで心臓が跳ね上がりそうな自分が情けないが、まあ仕方のないことだろう。だって男の子なんだもん!
落ち着け、俺。ただ風呂に入るだけだ。この前と同じ。そうだろう、八幡?いきなりそんなドスライズな出来事は期待しちゃいけない。そう、まずは健全な付き合いをしていかなきゃ……よし!
「ど、どうしたん?えらく自問自答してるみたいやけど……」
「いえなんでもないです、はい」
さっさと服を脱ぎ、湯船に浸かると、何だか1日の疲れが抜けていく気がした。
改めて……えらい急展開な1日だったなと思う。
自分がまさか希さんと付き合う事になるとは……。
彼女ができた、という単純な事実確認では済まされない何かがそこにはあった。
それと、あの人さっきからやたら可愛すぎるんですけど!
なんかもう、うれしい!楽しい!大好き!を全身で表現してきて、既にこちらはキャパオーバーになりかけである。
すると、コンコンとノック音が聞こえてきた。
「八幡君?湯加減どう?」
「……ああ、はい。だいぶ良い感じです」
「そっかぁ、じゃあ入るね」
「え?」
ガラッと音がしたので目を向けると、バスタオル1枚巻いただけの希さんがそこにいた。
「は?……え、あ、ちょ……」
「ふふん、お背中流しましょうか?なんちゃって♪」
「…………」
俺は口をぱくぱくさせながら、思考を何とか正常に戻そうとしたが……無駄だった。
タオル一枚だけ巻かれた彼女の身体から目が離せなかった。
俺の視線に間違いなく気づいているはずの彼女は、この上なく楽しそうに笑って見せた。
「あらあら、八幡君ったら、気になって仕方がないみたいやね」
「…………」
「まあ、ええよ。八幡君なら、全部見ても」
「っ!」
はらりと床に落ちるタオル。
その瞬間、俺の意識は途切れた。
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「あらら、水着着とったのに……ふふ。ちょっとやりすぎたみたい。本当に可愛い反応するね、君は」