本屋を出ると、東條さんはう~んっと大きく伸びをした。
その際に、豊満な胸が白いTシャツ越しに強調されたが、はち切れそうとか、下着が透けるんじゃないかとか、ちっとも気になっちゃいない。ハチマン、ウソ、ツカナイ。
東條さんがこちらをチラリと見て、悪戯っぽい声音で話しかけてきた。
「いや~、面白かったね♪」
「……どっと疲れが溜まった気がするんですが……」
「ウチは結構楽しかったよ?君の好みもバッチリわかったし」
「え?あれだけで……」
「うふふ……ウチにかかればそれくらい朝飯前や」
「ち、ちなみに……どんなのが好みって思ったんでしょうか?」
一応、尋ねてみると、東條さんは口元に指を当て、考える仕草をした。今考えてんのかよ。
「例えば……」
「ふぁっ!?」
東條さんはいきなり俺の腕をとり、しゅるっと自分の腕を絡めてきた。
そして、俺の肘の辺りには暴力的なまでの柔らかい温もりが押しつけられる。
心臓がバクバク鳴り出し、顔が赤くなっているのが自分でもわかった。
「こういうのに弱いんとちゃうん?」
「い、いや、その……」
こんなの古今東西全ての男子高校生は弱いと思います!
東條さんはすぐに腕を解き、俺の正面に立った。何だ、この寂しさ……。
「じゃあ、次はどこに連れてってくれるん?」
「…………」
さて、次はどの手札を……てゆーか、これ完全に彼女のペースですよね?もう、いいけどさ……。
ゲーセン、は論外だな……本屋でこれだ。ゲーセンとかだと、どんな風にいじられるか、わかったもんじゃない。
斯くなる上は……
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「ラーメン?」
「ええ、そろそろ腹も減ってきたので……」
「うん、じゃあ行こっか」
座って飯を食うだけの飲食店ならば、それほどからかわれずにすむだろう。我ながらナイスアイディア。お腹もペコペコだしね!
からかい上手の東條さんは、ニコニコ笑顔のままついてきた。
「比企谷君は、この辺りの高校なん?」
「まあ……近いっちゃ近いですね」
「ラーメン食べたら、君の家に行くのもいいかもね」
「…………」
「君は顔に反応がでやすいからええなぁ♪」
「い、いや、いきなり何言ってんでしゅか……」
「なんかホッとするなぁ」
な、何この人?勘違いさせる言葉のオンパレードで、中学時代の俺なら好きになってるし、今の俺なら警戒心がMAXに働き、ATフィールド展開するまである。
「どうしたん?」
「い、いや、何でも……」
ラーメン屋までの道のりを俺と東條さんは、付かず離れずの微妙な距離感を保ちながら歩いた。